突入
「ほっほっほ。いやぁ、すまんの。ついつい可愛い女子が怖がる姿を見ていじめてしまいたくなってしもうた」
オデットに張り手をされて紅葉腫れした頬を押さえながらモーガンは笑う。
「ほんと……頼んますよ」
なぜか一緒にビンタされたソウルもため息をつきながら肩を落とす。
「わ、わわ私は悪くないし……」
まだ微妙に肩が震えているオデットは腕を組みながらそんな強がりを見せている。
「まぁ、半分は冗談じゃがこの穴の奥から不気味な笑い声が聞こえるだのと言った話はここ数年珍しくない。もしかするとこの穴の奥に何かが潜んでいる可能性は充分にあるからの。気をつけてくれと言いたかったのじゃ」
「……うそぉ」
モーガンの言葉にオデットは深く落胆する。
「怖いんだろ?無理すんな、俺1人で行くから……お前はここで待ってろよ」
「いやよ!別に怖くなんかないし!」
やれやれ……相変わらず強情な奴め。
「そんなへっぴり腰で来られても足でまといだ。だから村に戻って書物を調べた方が効率がいいだろうに」
「じゃあ、あんたこの暗闇の中で魔石灯無くしても帰って来れるっての?私ならできるけどさ」
「ぐ……」
確かに、見る限り全く陽の光が届かないような洞窟。
そんな中で灯りを無くしてしまえび右も左も分からずに迷ってしまうだろう。その点オデットには暗闇の中でも問題がない【紫外】のマナがある。
さらには仮に洞窟で何か起こった時も2人なら何かしら打てる手が増えるのは事実。
「だったら私がついてった方がいいに決まってんでしょ?いい加減諦めなさい」
「……わぁったよ」
全く折れる気配のないオデットを相手にソウルはついに折れた。
「それじゃあ、気をつけての。もし夕暮れまでに戻らぬようであれば捜索隊を出す」
そんなソウルを見てモーガンはほっほっほと、笑いながら手を振っている。
「あぁ。そん時はよろしく頼むよ」
ソウルはモーガンから魔石灯を受け取りながら頷く。
「そんじゃ……行くか?」
「……え、えぇ」
声を裏返させるオデットを見ながら思わずため息が漏れる。
全く……本当に大丈夫か?
一抹の不安を抱えながらもソウルとオデットは地に開いた暗闇の中へと足を踏み入れるのだった。