迷いの石窟
口を開く闇の世界を見下ろしながらソウルとオデットは息を呑む。
闇の奥からは冷たい冷気が流れてきてまだ寒い季節でもないのにソウル達の背筋に鳥肌を立たせる。
ただ暗いだけじゃない。この穴自体が何か異様な雰囲気を醸し出していた。
「わしらフロンテイラの民でさえもそうそうここには近寄らぬ。ここは呪われた場所と言われておってな。名を【迷いの石窟】と言う」
「【迷いの石窟】……」
確かに、ピッタリの名前かもしれない。
「ふ…ふふふふーん……」
隣でそう強がるオデットの声は震えている。
「……怖いのか?」
「……別に?」
「……引き返していいんだぞ?」
「誰が引き返すもんですか!!」
「いっ、痛え痛え!?」
オデットが恐怖を誤魔化すようにソウルをビシバシと叩く。
そんなオデットの様子を見ていたモーガンが、ふと何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「そうじゃ、先に伝えておかねばならんことがある」
「伝えておかないといけないこと?」
オデットの攻撃を防ぎながらソウルはモーガンに問い返す。
「いや、恐らくただの噂なのじゃが……この【迷いの石窟】によからぬものがでると」
「よからぬもの?」
「なななな何よ!?何が出るってのよ!?」
オデットは声を張り上げるように問い返した。
「……それは、最近のこと。とあるカップルが人目を忍びこの禁足地であるここへ訪れたそうじゃ」
モーガンは声を顰めながら、ポツリポツリと語る。
「2人で愛を語り、日も落ちてき出した頃……ふと、耳を傾けるとそれはそれは奇妙な音が聞こえてきたそうな」
「……っ」
ブルブルとオデットが震えているのが横目でも分かる。なんならもう俺のマントを思いっきり握ってるし。
「はて、一体何の音だろうか……と、耳を澄ませてみるとそれはどうもこの穴の奥から聞こえてくる」
「なっ……ななななな何の音が聞こえんのよ……」
「それは、まるで何か人の言葉のようで、ジワリ……ジワリと、何かの気配と共にこちらに近づいてくるようじゃった」
すごくトーンの落ちた怪談を話すような声にオデットがゴクリと息を呑む。
「そして、2人でその暗闇の中にそっと……耳を傾けてみたのじゃ……すると……」
「す…すると……?」
「穴の奥から、不気味な笑い声とともに!牙をむき出した子どものような化け物が飛び出してきたのじゃあ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁあ!?!?!?」
モーガンはトドメと言わんばかりに大きな声を張り上げる。
それと同時に響くオデットの悲鳴と、オデットがマントを引っ張ったことで首を締め上げられたソウルの断末魔の叫び声。
「ギャア!ギャア!!」
その声にビビり散らかした鳥達が一斉に翼を広げ、バタバタと凄まじい羽音を響かせる。
静寂だった森はその一瞬で騒然となるのだった。