ハミエル
「さて、それではうちの団員の紹介をさせていただきたいのですけれど.......」
そう言ってケイラは部屋を見渡す。
「誰もいませんね.......」
レイはあははと苦笑いする。
この部屋にはケイラと43班の3人以外誰もいなかった。
「もう、この時間にはここへ来るように伝えてはいるのですけれど...みなさん自由奔放で」
ケイラはため息をつく。
「ちなみに、さっき部屋を出ていったのは?」
何となくいたたまれないので、ソウルは尋ねてみる。
「あぁ。赤い髪の女性はマリアンヌ、金髪の頭にカチューシャをつけた男性はデュノワールと申します」
ケイラは手をポンと叩きながら答えてくれた。
「.......あの2人は何で部屋を飛び出したの?」
シーナはケイラに尋ねる。ケイラの物腰の柔らかい態度に安心したのか先程までの緊張が無い様子だった。
「デュノワールがマリアンヌのとっておいたケーキを食べてしまったんです」
「「「.......は?」」」
え、それだけの事であれだけの騒ぎに?
「まぁ、毎度のことなので特に気にしなくて大丈夫ですよ」
ケイラはにこにこして告げる。そ、そうなのか。
「あとは、ジェイガン様とジャンヌ様。それにもう1人団員がいるのですが...」
そう言ってケイラはキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
「えっと?なにか?」
そんなケイラにレイが問いかける。
「いえ、部屋のどこかにいるはずなので」
「いや、この部屋他に誰もいませんけ...」
「ここにいるよ......」
突然ソウルの背後から覇気のない掠れた声が聞こえた。
「ふぇっ!?」
ソウルは飛び上がる。
「酷いじゃないか、ケイラ。ぼくは最初からここにいたのに」
男は目を伏せながらブツブツとつぶやく。
そこには肩につくぐらいの黒髪長髪の男が立っていた。顔はよく見えないが声の感じで二十代後半だろうか?体は細く病弱そうな印象を受けた。そして何よりも影が薄い。
「申し訳ありませんハミエルさん。でもいらっしゃるなら声をかけてくだされば良かったのに」
ケイラはまるで何事も無かったかのように会話を始める。
「彼ら3人を試したんだよ。ぼくの存在に気づいてくれるかを...とんだ見込み違いだったけどね」
ブツブツと文句を言っている。
「え、えっと。僕は」
「自己紹介はいいよ、さっきから聞いてたからね。ぼくはハミエル。一応この騎士団に所属している」
そう言うとハミエルはのそのそと調理場の方へと歩いていく。
「お茶を入れるよ。もうすぐジャンヌ様も帰ってくるようだし」
そう言って火の魔石を起動してお湯を沸かし始めた。
「ハミエルさんの入れる紅茶は絶品ですよ」
ケイラは嬉しそうに告げる。
「ほめても何も出ないよ、ケイラ」
「えー、ケチですねぇ」
そんなハミエルにケイラはブーと唇を尖らせるのだった。