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作戦会議

 明くる日。


 ソウル達はディアナの塔の90階。


 かつてマシューがクトゥグアとの戦いのために指揮をとった場所へと集まっていた。


「あぁ……くそ、ねみぃ」


「お前が夜中中うるせぇからだろうが……」


「あぁん!?てめぇがくそ悪ぃ目つきでこっち見てくるからだろうが!」


「あぁ!?お前が先にこっちにメンチ切ってきたんだろうが!」


 こんな感じでギドとライは一晩中ケンカしてたらしい。お陰で2人の目の下にはくっきりとしたクマが刻まれている。


「さて……」


 ソウル達を出迎えてくれたエヴァはそんな2人を放って腕を組みながら告げる。


「ヴルガルド国との同盟に向けて、どうしていくか作戦を立てるとしましょうか」


「全く……帰ってきたと思ったらとんでもない爆弾を持って帰ってきおって」


 隣では不機嫌そうに眉をしかめるマシューがブツブツと文句を言っていた。


「これに関しては私の不手際です……申し訳ありません」


「いや……今回は相手が悪かった」


 肩を落とすエヴァにマシューは不機嫌そうに告げる。


「ウラリシア大陸1の曲者との呼び名のあるフレデリック王……その手腕は歳を重ねてもなお健在ということか」


 マシューがエヴァの肩を持ったことにソウルは驚いた。


 エヴァの話していた通り、本当に関係が改善してきているのだろう。


「それに全て終わったわけではない。ヴルガルド国との同盟さえ結ぶことができれば全て丸く収まるということ。どの道いつかはヴルガルド国とも和解せねばならなかったのだ」


「でもぉ……その条件が厳しいんでしょー?」


 ヴルガルド国との同盟。


 しかもそれを成すためにシンセレス国の力を借りることは許されない。


 故に、国の権威や権力をちらつかせての交渉はできないと言うことになる。


「えぇ。言ってしまえばソウルさん達が単体で乗り込んで、『同盟してくださいお願いします』と言って同盟を結ぶしかない訳ですよ……ねぇ?ソウルさん」


「は…はい……」


 ギラリとこちらに鋭い視線を送りながらエヴァは告げる。


 おいおい……ほんとにあんた聖女だよな?


 エヴァが悪魔にでもなったかのような錯覚を感じながらソウルは応える。


「でも、その為にまず必要なことはヴルガルド国へ入国することですね」


 すると、ソウルの横からレイがそう進言する。


「国の使者として入り込むことができない以上、僕らは一般の人間としてヴルガルド国に入り、そして今のヴルガルド国を牛耳る【黒龍の女王】ゼリルダと接触しなければならない」


「はい、その通りですレイさん」


 レイの言葉にエヴァも頷く。


「ですので、まずはヴルガルド国に入り込む方法を考えなければならないのですが……」


 そう言うエヴァは何やら頭を抱えている。


「?何だよ。別に国に入るぐらいはそんなにややこしいことはないだろ?」


「ううん。そう言うわけにもいかないの」


 そんなエヴァを横目にオリビアも困ったように言った。


「ヴルガルド国は元々国同士の交流が少ない国だったし、しかも今のゼリルダに政権が代わってからヴルガルド国への入国が更に厳しくなったの」


「うむ。シンセレスの使者である我々を攻撃するぐらいには……な」


「そんなことあるか?」


 国の使者と言うことは即ち、その国の代表と言って過言ではない。


 そんな使者を無下にするなどもはや宣戦布告と同義だろうに。


 ……とは言いつつも、先日イーリストの騎士達からの追撃を受けたソウル達にとってはそんなことがありえると言うことは記憶に新しいわけだが。


「どちらかと言えば、むしろゼリルダは各諸国を敵に回したいような……そんな印象を受けますね」


「万年戦争をやっているような国だからな。戦いを起こすきっかけが欲しいのかもしれんな」


「そ、そうかぁ……」


 となれば、同盟どころかヴルガルド国に入ることすらままならないと言うことになる。


「じゃあよ、どっか山道とか旧道とか使って忍び込めばいいじゃねぇか。潜入さえしちまえば後はゼリルダと話しつけりゃいいしよ」


 ギドはあくびをしながら元盗人の知識でヴルガルド国への潜入を提案する。


「いや……ゼリルダと接触するにはヴルガルド首都シュタールへと行かねばならん。そしてそのシュタールは山岳地帯に建築された強固な要塞そのものだ」


「つまり、中に潜入するなんてことはそうそうできませんし、そこに続く山道も当然全てヴルガルド側に抑えられています」


 なるほど。そうなると潜入すらも難しいと言うことか。


 状況を整理すればするほど窮地に立たされているような感覚に陥りながらソウルは頭をガシガシとかく。


 何か突破口はないものだろうか?


 例えばイザナギアの浮遊で侵入するとか………いや、そんなに長くマナはもたないか。


「……いえ、待ってください?」


 うーんと一同が頭を悩ませていると、ふとモニカが声を上げる。



「シュタールへの侵入経路……あるかもしれません」



「「「「「え?」」」」」


 まさかの一言に一同の目がモニカに集中する。


「オアシスからもっと北に行ったところ……本当にヴルガルド国との国境沿いのところなんですが、私が昔暮らしていたフロンテイラという村があります。そこに古い坑道があったんです。私が読み漁っていた文献にその坑道を抜けると山岳にそびえる砦へと繋がっていると……」


「山岳にそびえる砦……まさか、それがシュタールだとでも言うのか!?」


 マシューは驚きの声を上げる。


「なるほど……確かにヴルガルド国の中でも山岳にそびえる砦は数える程しかない。充分シュタールの可能性は考えられますが……」


 うーん、と唸りながらエヴァは頭を抱える。


「確かに……根拠としては弱いなぁ」


 山岳にそびえる砦というだけでは、そこがシュタールだとは言い切れない。


 まして、それが真実かどうかも怪しいし、仮にそれが事実だったとして、その坑道とやらが今もなお砦まで繋がっているのかすら怪しいかもしれない。


「ご、ごめんなさい。実はその文献、私もちゃんと読めなくて……とても古い言葉でしたし書物自体もとても古かったので読めないところも多かったんです」


 出過ぎたマネをしました、とモニカは肩を落とす。


「いや、でも確かめてみる価値はあるかもしれねぇぞ?」


 確かに信憑性には欠けるかもしれないが、もしそれが事実だとすれば事態は一気に好転する。


 どの道、ここで足止めを食っている訳にもいかない。


 ならば、そのモニカの言う文献と坑道を調査する価値はあるかもしれない。


「そうだね。エヴァ様、古代文字の解読に理解のある人を集めてもらえませんか?すぐにでもその文献を調査しにいきましょう」


「分かりました。それでは古代文字への知見が深い私も参りましょう。モニカさん、村を案内してもらえませんか?」


「はい、もちろんです」


 エヴァの指名にモニカはコクリと頷く。


「俺も行くよ。その坑道の方も同時並行で調査すれば一石二鳥だろ?」


 ソウルにはシナツの【浮遊フライ】の力がある。


 小回りも効くだろうし、こう言う時にはうってつけだ。


「じゃあ、私も行くわ」


「オデット!?」


 すると、突如オデットがソウルについて行くと名乗りを挙げる。


「何よ。私がいたら邪魔だっての?」


 ソウルの反応を見たオデットは不機嫌そうに腰に手を当てて言う。


「いや、そうじゃねぇけど……危ねぇかも知れねぇんだぞ?」


 古い坑道だ。崩落の危険もあるかもしれないし、もしかすると何か危険な獣とかもいるかも知れない。


「あのねぇ、この中で1番魔法のレパートリーが多いのは私でしょ?だったらそれだけどんな事態が起きても対処ができるってことよ」


「で、でも……」


「なーによ。私だって騎士なんだからそれくらいの調査できるわよ……まぁ、騎士はやめんたんだけどね」


 オデットはその強気な目を釣り上げながら言い返す。


「う、うーん……」


 何となく不安ではあるが、こう言ったら昔から聞かないのがオデットだ。


 もうソウルの言うことは聞かないだろう。


「……危なくなったら逃げろよ?」


 ガックリと肩を落としながら渋々ソウルは彼女の同行を許すしかない。


「ならばわしらは他の策がないか探っておこう。アラン、パメラにも動いてもらうぞ」


「えー、パメラはマシューとぉ?」


「私もエヴァ様と一緒の方が嬉し……」


「そこになおれ貴様らぁ!!」


 こんな感じでやや不安が残る形になったが、こうしてまずはモニカの育った村、フロンテイラを調べることになった。


ーーーーーーー


「……」


 ソウルとオデットのやり取りを、シーナは黙って見つめていた。


「あの…シーナ?」


 そんな彼女を見かねてアルがこっそりと声をかける。


「……何?」


「ソウルと……何かありましたの?」


「……別に」


 そう言いつつも彼女の機嫌は明らかに悪い。すこぶる悪い。


「い、いつもならあなたが1番早く着いていくと言いそうなところですけど……ケンカでもしてるんですの?」


「……してない」


「じゃあどうして?」


「……」


 アルの問いかけにシーナはまた黙り込む。


「全くもう……また何かに悩んでるようですわね」


 アルは呆れたように首をもたげる。


「もう私達は騎士ではないので騎士だからーとかは言いませんけれど……今回の一件には私達の命運がかかっておりますのよ?しっかりしてください?」


「……うん。分かってる」


 アルの言葉にシーナはコクリと小さく頷くのだった。

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