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馬車攻防戦3【予想外の事態】

「見えてきたぞ!」


 街中を爆走する馬車の上でアランは叫んだ。


 イーリスト城下町を抜ける門が目前に迫る。


「いけるの……!」


 何十人もの騎士達の猛攻を凌ぎかつ、街への被害を抑えたアラン達は肩で息をしながらなおも戦いを続けていた。


 後はあの門を潜ればリュカに連れられて一気にオアシスまで飛ぶことができる。


 もう一息だ。


ーーーーーーー


「くそっ!?化け物め……!」


 あらん限りの同志を集めてきたというのに、あんな馬車1つ止められないのか……!


 首謀者であるドレックスは部下達から告げられる報告に苛立ちを募らせる。


 流石は聖剣……我々の力など脅威に足りえぬということか?


「ならば……致し方あるまい」


 ドレックスは隠していた部隊に指示を送る。


 できれば避けたい策ではあったが、仕方がない。


「確実に仕留めよ。大義の前に多少の犠牲は避けられぬ。やれ!」


ーーーーーーー


「……っ!?アラン君!あれ!!」


「何!?」


 パメラが指差すのは門のすぐ手前。


「何事ですか!?」


 異変を察知したエヴァが車窓から顔を出す。



「民間人……子どもなの!!」



「何ですって!?」


 見ると、そこには門を塞ぐように並べられた子ども達。


「どけ!轢かれるぞ!!」


 アランが立ち並ぶ子ども達に叫ぶが、子ども達はその場から逃げようとしない。


 ……いや、逃げられなかった。



「しば……られてるの」



「ま……さか……」








「ふざっっっけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」







 ソウルは、気づいた時には叫んでいた。




 簡単な話だ。


 イーリスト城下町を出るにはこの門を潜らなければならない。


 なら、その門を塞いでしまえばいい。


 だが、ただ障害物で塞ぐだけでは破壊され突破されてしまうだろう。


 つまり、破壊されない障害物で門を塞げばいい。


 清廉潔白なシンセレス国様が、破壊できない障害物。それは……。




「後で何と言われても構わぬ。そこに大義があるのなら」




 門に続く通路を埋め尽くす騎士達。


 ここに残りの全戦力が固められていた。


「馬車を……止められない……!?」


 馬車を止めれば一気に取り囲まれて終わり。


 でも、馬車を止めなければ彼らが……!



「召喚獣を出す!バステオスの力であの城壁に風穴を空け……」


「ダメだ!空けたところでこの速度じゃどうしようもねぇだろ!?」


 この全速力でかける馬車を止めずに道を変えるなど無茶な話。


 このまま突っ込むか、それとも馬車を止めて袋叩きに合うかしかない。


「……っ、やむを得ません!馬車を止めてください!!」


「……っ」


 当然、何の罪もない子ども達を犠牲になどできない。


 分かっている。分かっているが……。



「何と……卑劣な……!」



「馬車が止まったら、パメラ全力で戦うの。血祭りに上げてやる……!」




 怒りに震えるアランとパメラ。それは他の者も同じだろう。


 だが、皆の心は同じだった。


 あの子ども達を犠牲になど、できはしないと。


 例え召喚魔法を使うことになろうと、ここであの子達を死なせるよりマシだと。


 皆がそれぞれに覚悟を決め、臨戦体制をとる。


 馬車の速度が落ちていく。襲い来る騎士達の攻撃へ向けての対処に心を動かそうとしたまさにその時だった。




「バカ!馬車を止めてんじゃないわよ!!いいからそのまま突っ込みなさい!!【大地変動(アース・クラフト)】!!」




 ゴッ!!




「なっ!?」


「何だぁ!?」



 突如馬車が激しく揺れる。


 それと同時に馬車から見える景色が目まぐるしく変化した。



「これは……!?」



 地面が……せりあがった!?



「何者だ!?」


 地面がせりあがり、馬車の通る道が形成される。だが、このままでは壁に激突だ。




「げ、激突するぞ!?」



 アランは慌てふためきながら叫ぶ。



「いいから!もう手は打ってる!」


 それとほぼ同時。1人の少女が馬車の上に舞い降りる。


「なっ、何者だ君は!?」


「後で説明するから!今は早く、あの壁をぶち抜いて!!」


 サイドポニーに括り上げた紫の髪を揺らしながらその少女は叫ぶ。


「しっ、しかし……」


「あー、もう!!男のくせになっさけないわね!!早く腹括りなさいよ!!」


 そう言いながら彼女は自身のマナを練る。


 練られたマナは【雷】と【水】。


 顕現するのはそれらを【混合(ミックス)】した【嵐電】のマナ。


 その力は激しい嵐を生み出す魔法。



「アランさん!もうやるしかないです!」



 もう引くに引けないことを悟ったヴェンはマナを込める。


「……くっ」


 得体の知れない乱入者。


 敵が味方かも分からぬこの少女の言葉に従って良いものか?


 だが、もうそれを吟味する時間などない。やるしかないだろう。



「おおおおお!【放出】のマナぁ!」


「行きますよ!【放出】のマナ!」


「【嵐電】に【渦】のマナ!」



 3人は一斉に詠唱を始める。


 だが、それを阻まんとする騎士達だって黙ってはいない。



「撃ち落とせぇ!あの土の橋ごと全てだ!!」



「【紅雷】に【衝撃】のマナ!【紅雷波】!!」



 バチィィッ!!



「「ぐおあああああ!?!?」」


 響く悲鳴と轟く破裂音。


 上に気を取られていた騎士達は背後から迫る襲撃者に気づかない。


 右舷側に展開する騎士達が突如赤い稲妻に撃たれてドサドサと倒れる。



「こんなせめぇ場所に固まってりゃあ、まとめて潰すのは簡単だわなぁ!!」



「な、何!?」


 土の橋の下で起こる事態に皆動揺の声を上げる。


「おい……マジかよ……」


 紅い雷。


 火のマナの力が宿りし雷を持つ稀有な魔法の使い手。


 ソウルが知る限り、この国でその魔法を扱えるのはたった1人しかいない。



「ええい、かまうな!まだやれる!残された部隊であの橋をやれぇ!」


「だ、団長様!!左舷側騎士部隊が……壊滅しております!」


「何だと!?」


 何が起こった!?


 この短時間で、一体誰が……。



「分かりません!」


「分からないだと!?そんなふざけた話があるか!?何が起こったか報告しろ!!」


「し、しかし……」

 

 ドレックスは何かを口どもる部下を殴り飛ばす。


「言え!一体何が……」




「赤い鎧の男と……ローブを被ったツインダガーを操る少女が、騎士達を抵抗する間も無く蹂躙したと……」




「赤い鎧……ローブを被った…ツインダガーの少女……!?」




 まさか……そんなはずはない。


 だって、だって奴らの騎士団は何年も前に滅んだはず。



「まさか……まさかぁ!?」

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