ケイラ
騎士団に所属すると、各自活動拠点として一室を割り振られる。
階級やその規模によって1つの部屋を複数の騎士団で利用したり、大きな一部屋を丸々与えられるなど様式は様々だ。
聖剣騎士団の部屋は扉を開くと大きな書斎のような部屋が広がる。灯りは大きなシャンデリラで壁一面には巨大な本棚が設置されており、所狭しと本が鎮座されていた。
そしてその奥に大きな窓とデスクがある。恐らくジャンヌが仕事をするための物だろう。
部屋を半分ほど進むと左右にそれぞれ扉が設置されており、黄緑髪の女性はその左側へと3人を案内した。
扉を開くとそこはカフェのような内装になっており、カウンターとその向こうにはお茶を入れたり簡単な料理ができそうな調理設備が整っている。
そして窓際にはテーブルとソファが置かれており、恐らくここがこの騎士団部屋の応接室のような役割の部屋なのだろう。
「それでは、こちらにおかけになってください」
3人は女性に促されるままにソファに腰掛ける。高級な素材なのかもふっとした感覚に包み込まれた。
ソウルは安っぽい物の方が落ち着くなぁと思いながら目の前に座る女性に目を向ける。
「改めまして、こんにちは。私は聖剣騎士団のケイラと申します」
ケイラはお嬢様のように丁寧にお辞儀をする。
「は、初めまして。ベルト・レイと申します」
レイもケイラに倣って頭を下げた。
「シン・ソウルです」
「.......シーナです」
ソウルとシーナもそれに続く。
「先程は申し訳ありません。うちの団員が粗相を致しました」
ケイラは申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いえ。こんなの慣れてますから」
そんなケイラにソウルはガシガシと頭をかいて笑う。
「お見せになって?」
そう言うとケイラは身を乗り出してソウルの頬に手を当てる。同時にケイラの豊かな谷間がソウルの目に飛び込んだ。
「ふぁっ!?」
ソウルは変な声が漏れる。
ぐりっ。
「痛てぇ!?」
そしてシーナに太ももをつねられた。
「はい、もう大丈夫です」
なんてやりとりをしているうちにケイラはソウルの頬から手を離す。
「.......え、痛みが?」
ソウルは自分の身体に手を当てる。先程までの痛みが完全に引いていた。
「治療魔法ですか?」
ソウルと同じようにレイの頬に手を当てるケイラにレイが尋ねる。
「ええ。私の専門は治療魔法なんです。だからあまり前線に立って戦うことはしないのですけれど、あなた達と一緒に次の任務へは参加する予定ですよ」
そう言って微笑む。
「すごい。詠唱もなしにここまでできるなんて」
ソウルは自分の体を眺めながら呟く。
治療魔法の使い手のガストもオリビアも詠唱無しでは治療魔法は使えなかったはずだ。
詠唱とは自身が使用する魔法をイメージするための技法だ。自身がこれから使うマナを口にすることで術者のイメージが明確となり発現する魔法も強く効果的になっていくのだ。
詠唱を用いなくても魔法は使えるが難しい魔法であればあるほど組み込むマナが複雑になっていくので詠唱しながら魔法を使う必要性が出てくるのだ。
治療魔法はその中でもかなり複雑な術の部類にあたるので詠唱なしでは使えないと昔ガストが言っていた。
「あら、詳しいんですのね」
ケイラは嬉しそうにソウルの方を向く。
「身近に治療魔法を使える方がいるのですか?」
「む、昔の知り合いで使えるやつがいたんですよ」
こちらに身を乗り出すたびに谷間が主張してくるのがやりにくい、と思いながらソウルは目を逸らす。そんなソウルをシーナはジト目で睨んでいる。し、仕方ないじゃないか!
「まぁ、そうなんですのね。今その方はどちらにいらっしゃるのですか?ぜひお会いしたいです!」
ケイラは手のひらを合わせて嬉しそうに告げる。
「.......えと」
ソウルは言いづらそうに目を逸らした。
その表情を見てケイラはしまった、といった表情を浮かべる。
「申し訳ありません。つい無遠慮なことを言ってしまいました」
「いや、すいません。気にしないでください」
オリビアが治療魔法を使えることは内緒にしておいて欲しいと言われているから伝えるべきではないし、ガストはもうこの世にはいないのだ。
「こんなご時世ですもの。わたくしが配慮するべきところでした」
ケイラはそう言って頭を下げる。
「.......いつか私の魔法なんて使わなくてもいいような、そんな世の中になって欲しいものです」
ケイラは窓の外に目をやりながら呟いた。
「.......そのためにおれは騎士になったんです」
ソウルは自身の決意を語る。
「もう誰も死なせない。おれも、みんなを守ってやれる騎士に、なりたいです」
ソウルは強く握り拳を作った。
そんなソウルにケイラは少し目を丸くする。そしてふっと微笑んだ。
「きっと、あなたにならなれるでしょう。私達の騎士団でどこまで力になれるか分かりませんが、最大限力にならせてください」
「よ、よろしくお願いします!」
優しく告げるケイラにソウルはぺこりと頭を下げるのだった。




