馬車攻防戦1
「来たぞ……」
「あぁ。予定より少し早いな。気取られたか?」
イーリスト城下街。その路地裏で走る馬車を目視する男達。
「よし、準備はいいな?」
とある騎士団の団長は配下の騎士達に合図を始める。
「我らイーリスト国と、その騎士達を愚弄したあの悪魔共をここで粛清する!遅れるなよ!?」
「「「おぉ!!」」」
そして合図と共に何人もの騎士達が2台の馬車に向かって襲い掛かった。
ーーーーーーー
「来たぞ……!」
馬車の屋根の上に構えるアランがマナを溜める。
「行くよアラン君!まずは前方左右から2人ずつ!」
パメラの言葉と同時に路地裏から深くフードを被った男達が飛び出してきた。
「行くぞレーヴァテイン!我らが道を阻む者を斬り捨てる!【神撃】のマナ!【ヴィア・ラクティア】!」
アランがレーヴァテインを振ると、刀身から霧のような雷撃が放たれる。
それは迫り来る4人の襲撃者を絡めとるように捉え、そして。
バリバリバリッ
「「「「ぎゃあああっ!?」」」」
無数の雷撃によってそのまま地に落ちた。
「わかっているな?パメラ!」
「当たり前なの!エヴァ様はもちろん、後ろの馬車にも手出しはさせないの!」
ここで、ソウルが襲撃者相手に戦うことがあればまたこの国の民の不安を煽る。
せめて、彼らの抵抗が少ない聖剣とパメラの力で奴らを跳ね返す。
そのためにも……。
「【友愛】に【共鳴】のマナ!【意思疎通】!!」
パメラは周囲の鳥や小動物達と意識をリンクさせる。
それらの目を通して、パメラは潜む敵の位置を正確に把握することができる。
「パメラ!敵はどこだ!?」
「右上屋根の上!後は左の路地裏にも2人!」
「上等!」
パメラの言葉を聞いてアランは聖剣にマナを送る。
「【瞬撃】のマナ!【カシオペア】!」
キキキキキンッ
「なっ、何だ!?この光の球は!?」
展開する5つの光玉。
それらを結ぶようにアランは超高速移動。
ザシュッ
「「ぐぉあ!?」」
離れた位置にいたはずの2人をほぼ同時に斬り捨てて再び馬車の上へと舞い戻る。
「くそ、流石聖剣だ……!」
路地裏からそれを見ていた騎士たちは辟易する。
だが……馬車を止めさえすればこちらのもの。あの召喚士さえ殺せば終わりだ。
路地から隣の路地に向けて垂らしたロープ。馬の足を絡めとるようにビンと張る。
これで馬車を止めて一気にとどめを……。
バツン
「んな……」
ところが、そのロープが突如としてちぎれる。
見るとそこには小さな鼠がロープを噛みちぎっていた。
「この……鼠が!」
ゴンッ!
「こけっ!?」
男が鼠を叩き潰そうと振りかぶったその時。頭からレンガの塊が落下。彼の頭を直撃し意識を奪った。
「酷いことするの」
「お前もな」
そんな軽口を叩き合いながらアランとパメラはイーリストの城下町を駆け抜ける馬車の上で奮闘する。
けれど、思ったよりも騎士達からの攻撃は激しく次第に2人では捌ききれない程の攻撃の嵐が降り注ぐ。
「奴ら正気か……!?」
「ほんとに!街への被害を考えてるの!?」
騎士達の放つ攻撃が民家を破壊し、街行く人々をも傷つけていく。
「放てぇ!」
再び屋根の上から降り注ぐ魔法の嵐。
本来ならこれは受け流すべき攻撃だが、これを逸らせば街へ被害が出る。
「ちぃっ!【防衛】のマナ!【トライアングル】!!」
ドシィッ!!
嵐のような魔法をアランは真っ向から受け止める。
「隙だらけだぞ!」
その時、路地裏から魔法が放たれ、防御魔法を展開するアランに迫る。
「【防衛】のマナ!【前奏曲】!!」
そんなアランを守るように展開する虹色のヴェール。
それは放たれた攻撃を虚空へと弾き飛ばした。
「ヴェン殿……!」
「僕達も協力します!」
エヴァ達のすぐ後ろの馬車。
馬車の天井を斬り抜いてヴェンは馬車の上へと飛び出し、また新たなマナを溜める。
「【重撃】のマナ!【狂想曲】!」
水の聖剣アンサラーから放たれる巨大な水飛沫。
変幻自在な水の魔法。
「【水霊】のマナ!【アクアキュア】!」
そこにエリオットが彼女の回復魔法を放つ。
「弾けろっ!」
パァァァン!!
ヴェンから撃ち放たれた水の塊は弾け、雨のようにイーリストの街に降り注ぐ。
「う…うぅ……?」
「傷が……!?」
エリオットの治療の力を受けた水には治療の力が宿る。
治癒の雨が騎士達の攻撃で傷ついた街の人々の傷を癒していった。
「感謝するぞ!ヴェン殿!」
「いえ!後もう少しです!一気にやりましょう!」
水の聖剣、頼もしすぎる。
「お、おい!やっぱり俺も……」
「ソウルはダメだよ!出発した時に確認したでしょ!?」
これだけ激しい戦闘を繰り広げているのに何できない。
正直、ソウルにとってはかなり歯痒いだろう。
でも、仕方がない。彼の分まで僕がやるんだ。
街の中ほどまで進んでいる。もう折り返しだ。
「さぁ、後もう半分!やるよ、エリオット!」
「うん!任せてヴェン!!」
「行かせるか!何としてでもここで奴を殺すぞ!!」
沸き起こる騎士達の怒声。
馬車の上での戦いは苛烈を極めた。