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アルの葛藤

 公開裁判が終わった後、アルは抜け殻のようになっていた。


「…………」


 ソウルの裁判を終えたイーリスト城下町はその話題で持ちきり。



「おい、聞いたかよ!?」


「あぁ。あの疫病神、ヴルガルド国に行くらしいぜ」



 街のどこを歩いても、ひっきりなしにその話題が耳につく。


「……今日ばかりは、獣人の血が恨めしいですわ」


 しかもアルは兎の獣人。耳がいい。だから、聞きたくないことまで全部拾ってしまう。


 まるで、イーリスト城下町が牢獄。


 彼女を精神的に苦しめる拷問部屋のようだった。



「だぁから、俺は言ったのよ!」



 しららく歩き進めていると、開放的な酒場から一際大きな声が響く。



「あんな魔法も使えねぇ胡散臭いやつ、最初から怪しいってな!きっとこれまでも好き放題やって来たんだろうぜ?」



 見ると、そこにはハゲて醜い容姿の中年男性が浴びるように酒を飲みながら何かを喚いているようだ。


「これまで、騙して来たのさ!この国を……そしてあの聖女様をな!考えてもみろ?あの夜……死神との戦いで聖女様が何を言ったか、みんな知ってるだろ!?」


「あぁ、聖女をやめるって言ったらしいな」


 男と対面に座る細身のいやらしい顔をした男もゲラゲラと笑いながら応える。


「そう!そうだぜ!?きっと召喚術で聖女様をたぶらかしてきたのさ!未知の力……邪法だからな!きっと聖女様は操られていたのさ!!だからあの美しい聖女様を好き放題やってきたんだろうなぁ」


「怖い怖い……でも、あの聖女を好き放題できるって……そそるねぇ」


「ちげぇねぇ!きっとあの死神もだ!あんな殺人鬼がまぁ素直になっちまって……あの男に操られてんじゃねぇか?」


 男たちの話が根も葉もない噂話としてあらぬ方向へとどんどん展開していく。


 正直、ふざけるなと思った。


 ソウルとジャンヌ様はそんな邪な関係じゃない。


 いくつもの困難を超えて、1つ1つ絆を深めていった尊い関係だ。


 だが、彼らにはそんなものは届かない。



「だったら、俺もあいつについていっちまおうか?あのレイとか言う見習いみてぇによ。どうせあいつもそれが目当てだろ」


「そうだな、そのおこぼれを……ジャンヌ様を好きにできるってんならついて行ってやってもいいかもなぁ!がぁーっはっはっはぁ!!」



「黙りなさい!!」



 ガシャァァァアン!!



 気がついたら、アルは男たちのテーブルを蹴り倒していた。


「なっ……」


「何でぇ!?てめえは……」


 突如として現れたアルの存在に男たちはどよめいている。



「ソウルは……あの人たちは、そんなサイテーな人じゃありませんわ!これまで、これまで彼が……彼がどれだけの想いで戦って来たか、何も知らないくせに!!」



「知るか!何を言ったってあいつは邪法の使い手だろ!」


「そうだ!お前がどこの誰だか知らんが何も言われる筋合いなんざねぇよ!あの男のせいで俺たちは迷惑してんだぞ!?」


 男たちも激昂するように立ち上がりアルに掴みかかろうとする。


 アルはそれをヒラリとかわしながら2人の男の胸ぐらを掴み上げた。



「黙りなさい!ソウルが戦ったから、死神の件は解決した……!他にも彼が守って来たものはたくさんあります!」



「あぁ!そうかも知れねぇな!だがな、召喚魔法を使えるだけで奴は危険なんだよ!!」


「そうだ!そんなやばい奴を野放しにできるか!とっとと殺しちまえばいいってのに国王も何を考えてやがるのか……存在してるだけで奴は罪なんだよ!」


「……っ!こんなところでお酒を飲むことしかできないあなた達によくもそんな事が……!」


「ぐ…ぐぇ……」


「ぐ、苦し……」


 掴み上げた男達の首襟を、千切れんほど強く握る。


 存在しているだけで罪。


 かつての自分達……ビーストレイジと重なる。


 そうだ。今の彼の立場はあの頃の私達によく似ている。


 ただ獣人と言うだけで排斥され、街から追い出された私たちと。


 ソウルも同じ。召喚術士と言うだけで今街はおろか国からも追い出されようとしている。


 そんな中、彼は飛び込んできてくれた。


 全てを捨てうる覚悟を持って、ソウルは私達ビーストレイジのために協力してくれた。


 今のサルヴァンでビーストレイジ達が上手くやっているのはソウルのおかげと言っても過言じゃない。


 そうだと言うのに、私は何をやっているのだろう。


 今、全てを失いそうな彼のために、何もできないでいる。


 彼が私にしてくれた事を、私は彼に返せないでいる。


「私は……!」


「は……はな……して……」


「わ……るかっ……たか……ら……」


 掴み上げた男達が泡を吹きながら悲鳴をあげる。


 アルはようやくそこで男達から手を離した。


 男達はドスンと鈍い音を立てて地に転がされると、そのまま白目を剥いて気絶した。



「私は……」


 失意の涙を流しながらアルは呟く。


 そんなアルの姿を4つの小さな影が見つめていることに、アルは気がついていなかった。

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