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ヴルガルド国

 裁判を終えたソウル達は、イーリスト城内に用意された外賓用の建物へと案内される。


 ソウルとシェリーは牢屋に入れられることになると思っていたのだが、魔封石の手錠をすることで普通に過ごすことを許されることとなった。


 外賓用の宿泊施設は非常に豪華でどこを振り向いても華やか。そんな素敵な一室の中心で。



「ソ〜ウ〜ル〜さ〜ん〜?」



「は……はい」


 ソウルは禍々しいオーラを放つエヴァに詰め寄られていた。


「私、言いましたよね?待ってくださいと。まだ巻き返せる方法があるかも知れないと……それが、へぇ〜?3ヶ月でヴルガルド国と同盟を結べなければ処刑?私たちの手助けもできない条件までつけられて?何ともまぁお上手に交渉できたようですねぇ〜?」


「ご…ごごごめんなさい」


 カタカタと震え上がりながらソウルは冷や汗を垂らす。


「ま、まぁ全て終わった訳じゃないので……」


 そんなソウルを不憫に思い、ヴェンが助け舟を出してくれる。



「いいえ!あなた達は何も分かっていませんよ!?」



 だが、エヴァは声を張り上げながら2人の胸ぐらをつかみぐわんぐわんと揺さぶり始めた。



「あのヴルガルド国ですよ!?他の国と戦うことしか考えていない脳筋国家相手に対話が通じるわけがないでしょう!?」



「のっ、ののの脳筋国家ぁ?」


 エヴァに好き放題振り回されながらソウルは尋ねる。


「そうなの。あそこの国はかなり頭がおかしくてねぇ……」


 遠い目をしながらパメラは説明してくれる。


「国なんて名乗ってるけど、その実は力が全ての無法地帯。力がある者が国の頂点に立ち、それを倒した者がまた国の頂点を担う……下克上しかない、そんなふざけた国なの」


「歴史だの忠誠だの、そんなものはない。ただ力が全て。そんな国に話し合いだの同盟だの、通用するとは到底思えん」


「いや、そんなふざけたことあるか?」


 パメラとアランの言葉にソウルは耳を疑う。


 仮にも国だろう?


 確かに野蛮な国という印象は持っていたけれど、それにしたって度がすぎてる。


「いいえ、事実です。なので彼らの国には魔導機の支援は一切しておりません。だって、脳筋過ぎて彼らは魔導機を使えないのですもの」


「まじかー」


 どうやら、ソウルが思っていた以上にヤバい国だったようだ。


「まぁ、イーリストにいたら他の国の事情だなんて本当に上に立たないと分からないと思う。だからフレデリック王はソウルのそこに漬け込んだんじゃないかな」


 オリビアの言葉にぐうの音もでない。


 じゃあ、これも全てフレデリック王の謀略。


 こうして見事フレデリック王の思惑通りに事が運んでいっているという訳だ。


「はははっ。相変わらず君はピンチだなぁ」


「笑ってる場合かよ、レイ」


 自身の置かれている状況を把握し始めたソウルは流石に頭を抱える。


「だけど、1つ引っかかることもあるんだよ」


 すると、レイはそんなことを告げる。



「何で、そこまで読んでいたフレデリック王はソウルをここで潰さなかったんだろうって」



「……あ」


 レイの言葉にソウルだけでなくエヴァ達も違和感に気がついた。


「やろうと思えば、ソウルをここで潰すこともできたんじゃないかな?なのにこんな回りくどい方法を使うなんて、ちょっと変だなぁと思って」


「た、確かに……」


「それに、僕のことを行かせたことも気になる。本気でソウルを潰すなら、僕が何を言ったところで首を横に振ればよかった話。だけど、彼はそうしなかった。そこに何の意味があるんだろう」


 そうだ。本気でソウルを潰すためならもっと直接的にソウルを潰しに来ればよかったはず。


 それを何故『ヴルガルド国との同盟ができなければ』という盟約をたてたのか。


 まして、レイを行かせるだなんて判断もいささか甘いような気がする。


「ま、もしかすると反対勢力をまとめて潰すっていう意図があるのかもしれないけど」


「あぁ……確かにありそうだな」


 むしろ、それが狙いじゃね?


「にしても、もっと別の手を取れたような気もしますし、何か……フレデリック王にも思惑があるのかもしれませんね」


「あのジジイの考えてることなんて、分かんないのぉ〜」


「お、おいおい」


 仮にも一国の王をジジイ呼ばわりするパメラに苦笑いしながらソウルは頭をガシガシとかく。


「でも、そうだな……今はヴルガルド国のことをどうするかだなぁ」


 フレデリック王にどんな思惑があるのかは分からない。


 けれど、賽は投げられてしまった。こうなってしまった以上はもう何としてでもヴルガルド国との同盟を成功させるしか道はないだろう。


「でも……正直何をどうしたらいいんだ?そんな秩序のなさそうな国相手に同盟なんて……」


「今のヴルガルド国を束ねている人に話をすればいいんじゃない?」


 ポンと、手を叩きながらオリビアがそんなことを提案する。


「なるほど……確か前にマルコの店で聞いたっけ?【黒龍の女王】だったかな?」


 最近即位した北の帝国の女王。


 その立場に立つものに話をすれば、かろうじて国と国との同盟の話ができるかも知れないが……。



「あぁ〜……あの人はやめといたほうがいいと思うの〜……」



 けれど、そんなソウルの提案にパメラが複雑そうに告げる。


「えぇ……あの方は……多分悪い方ではないんです。悪い方では無いんですけれど……」


「けれど……?」


 エヴァとパメラは仲良く腕を組んで唸りながら一言だけ言った。



「「人の話を聞かない」」



「なるほど、アランみたいな感じか」



「待てぇ!?私をあんな単細胞と一緒にするなぁ!?」



 アランはソウルの一言に悲鳴にも近い声を上げる。


「というか、エヴァ達は会ったことがあるんだな。その……【黒龍の女王】に」


 エヴァ達の話し方を見る限り、どうも直接その女王を見たことがあるような話ぶりだが。


「ヴルガルド国は力が全て。その国王でさえも。故に度々王の襲名が起こるんです。その度になんとか国交を開けないかといつも来訪するんですけど……」


「どの国王も基本ダメ。戦うことにその身を捧げてると言っても過言じゃ無いし、その為にならどんな重税もどんな無茶な政策もやってのけるの。だけどそんなのじゃ人はついてこないから革命を起こされて……そしてまた王になった人が同じようなことをして……を繰り返してるの」


「うむ……。そして黒龍の女王はとにかく交戦的でな。どんな瑣末な問題も、全て武力で解決しようとする」


「おかげでこの前ヴルガルドに行った時は殺されかけたの……」


「…………(ズーン)」


 アラン、パメラ、アリアの3人は遠い目をしている。


 きっと、余程痛い目に遭わされたんだろうなぁ……。


「ですが、その国の在り方にいささか気になることもあるのです」


「気になること?」


「はい。何と言いますか……今の女王に代わってから国に近づく勢力に敏感な印象を受けるのです。まるで他の国に近づかれることを恐れるように。他の勢力を、その武力で押し返してこようとする、そんな風な体制をとっている、今のヴルガルドはそんな気がします」


「うーん……」


 エヴァの言葉にソウルは頭をかきながら唸る。


 外の勢力に敏感かぁ……。


 何か理由があるんだろうか?もしかするとそこに何か突破口を見つけられるのかもしれない。


「取り敢えず……行ってみないとわかんねぇなぁ」


「そうだね。でも外の勢力に敏感だっていうのなら国の使者として向かうことは難しそうだね」


「はい。そんな風にあの国を訪れようものならヴルガルド自慢の龍騎隊に焼き払われることになるでしょうね」


 龍騎隊……。


 確か、馬ではなく龍に乗って戦う戦士達のことか。


 ということは、ヴルガルドには龍が……ドラゴンがいるのだろう。


 そして黒龍の女王。


 きっと彼女も龍に由縁のある人物に違いない。


「そう言えば……その黒竜の女王って名前はなんて言うんだ?」


 そう言えば、ここまで話題の中心となっていた件の黒龍の女王。その名前は一体何というのだろう。



「彼女の名はヴルガルディア・フォン・ゼリルダ。全ての龍の始祖、ヴルガルディア・フォン・アルファディウスの子孫と言われています」



「龍の始祖!?じゃあ、ヴルガルドの女王って龍なのか!?」


「あぁ、違うの。ゼリルダは【竜人(ドラゴニュート)】なの」


「【竜人】?」


 聞きなれない単語にソウルは首を傾げる。


「龍と人が交わって生まれた存在。簡単に言えば龍の力を持った人間と言ったところですね。山岳地帯を中心に暮らしている希少種族なのでそうお見かけするようなことは無いと思います」


「へぇ……」


 と言うことは、そのゼリルダはさぞ屈強な女性に違いない。


 一体、どんな化け物じみた姿形をしているのか。


 ソウルはまだ見ぬ帝国の女王に少し身震いする。


「じゃあ、とりあえず方針は決まったかな?」


 ヴルガルドについての情報をレイは自身の手帳にスラスラとまとめる。


 相変わらずしっかりしてるなぁ。


「とにもかくにも、その黒龍の女王ゼリルダと接触しよう。同盟を結ぶにしろ反故にされるにしろ、まずはそこからだね」


「そうだな」


 どうなるかは分からないけれど、とにかくそのゼリルダと会って話をしないことには何も始まらないだろう。


 当面の目標はそこだ。


「口で言うのは簡単ですけどね……」


「ははは……まぁ、やる前から諦めてちゃわけないし。諦めずにやるさ。無様でも何でも、最後のその瞬間まで足掻いてやるよ」


「ふふふっ。それは私への当てつけですか?」


 ずっとげんなりした表情をしていたエヴァもようやく笑顔を見せた。


「えぇ。もうここまで来たらとことんやります。私たちシンセレスの人間は直接的に手助けできませんけれど、そこまでの助力は一切惜しみません。だから、必ずやり遂げてください」


「当然。大船に乗ったつもりでいてくれよ!」


「その大船が傷物じゃないことを祈りますよ」


「お、おうよ」


 エヴァの棘のある言い回しに、ソウルは苦笑いしながら頭をかくのだった。

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