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証明せよ

 フレデリック王の言葉にソウルは耳を疑う。


「な、何でですか!?」


 思わず壇上の台を叩きつけてソウルはフレデリック王に食ってかかる。



「覇王の眷属と戦うために手を組まなきゃイーリスト国だってタダじゃ済まないかもしれないだろ!?」


「うむ。それについては我もそう考えておる」


「じゃあなんで!?」


 覇王の眷属への危機感。


 フレデリック王もそれを感じていると言った。


 だと言うのに、ここにきて何故そういう決断に至るのか。



「お前が、信用に値せんからだ」



 ソウルの問いに、フレデリック王は言い放つ。


「我はな。実績のある者しか信用せぬ。伝説の聖剣使いだろうが、召喚術士だろうが……そして【起源召喚士】だろうが……な」


 トントンと、指を机に小突きながらフレデリック王は語る。


「そんな肩書など、どこぞの誰かが下した評価だろう。そんな物なんの保証にもならん。かつて聖剣の力を持ってしてもその力を使いこなせぬグズもいた」


「じゃ、じゃあどうしろって言うんですか!?」


 そうなると、交渉は決裂か?


 ここまで来て。エヴァが戦争寸前になるまでの爆弾を投げてようやく漕ぎ着けそうだったのに。


 このまま終われば、ただ関係をこじらせて終わり……。そんなわけにはいかない!



「だが……わしはお前をそれ相応に評価していると言うのも、また事実」



 思考を回すソウルに向けて、フレデリック王は告げる。


「故に、証明してみせよ。我に……そして我らが国民に。お前の言う国と国とが手を取り合うと言う夢物語を実現できると、お主が証明して見せよ」


「俺が……証明する?」


 フレデリック王の真意がわからないソウルは首を傾げる。



「我らイーリスト国とシンセレス国は水と油。相容れぬ思想を持つ国。我らが手を取り合うなど不可能に近い、それは先程の問答で理解できただろう、そこでだ」



「ま、まさか……!」


 フレデリック王の言葉にエヴァがハッとなる。



「その覇王の眷属と戦うために国と国とが手を取り合わねばならぬと言うのなら、先にそれができると言うことを証明して見せよ」



「んなもん、一体どうやって……」


 そこまで口にしてソウルもフレデリック王の言葉の意図に気がつく。


「……まさか」


「ふっ。その通りだ」


 フレデリック王は迫力のある笑みを浮かべながら告げた。






「我は他の国と手を結ぶなど、到底できぬと考えている。ましてやシンセレス国とならば尚更だ。ならば我が国イーリストと敵対関係にある北の帝国【ヴルガルド】、先にその国とシンセレス国が同盟を結べ。国と国とが手を結ぶことができるという証明をお前自身がやって見せろ!それができたならばその時、我らイーリスト国もお主らシンセレスと同盟を組もう」






「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」



「やられた……!」


 エヴァはフレデリック王の言葉に頭を抱える。


 確かに、フレデリック王の指摘は最もだった。


 イーリスト国とシンセレス国は思想が相容れない。いや、むしろ真逆と言っていいだろう。


 エヴァは自らの国の正当性を訴える形でイーリストに協力体制を組ませようと仕向けた。


 だが、それはフレデリック王の策のうち。


 エヴァの切った歴史の歪曲が仇となった。


 歴史の歪曲を証明する術が、シンセレス国にはある。


 だからレオンの『証拠を見せろ』。これを出汁に話を展開すればこちらの主張の真っ当性で話をこちらの有利なように持って行けるはずだった。だが、フレデリック王はその証明に拘らなかった。


 むしろ、思想の違いを明らかにさせたことで、イーリストとシンセレスの溝をはっきりさせた。


 イーリストとシンセレスが同盟を組む事の難しさを露呈させたのだ。


 だからこその次の話。


 『国と国とが手を取り合うべき』


 こちらの主張を通すのなら、当然他の国ともそれができるだろう。


 ようは、イーリストとシンセレスの同盟が他の国との同盟よりも難しいのだから、他の国とも同盟が組めないくせに何が我が国と同盟を組もうなどというのか、ということだ。


 先に、他の国……ヴルガルド国と手を組めるということを証明せよ、と言いたいのだ。


「さぁ……どうする?」


 完全に、フレデリック王にやられた。


「な、ならば!私達シンセレス国でそれを成してみせます!だから……」


「我はこの男、シン・ソウルに問うている。貴様はこの男が【虚無の者】だと信じているのだろう?ならば、容易い話ではないか。この男なら国と国とを結び覇王の軍勢と戦える……そう信じたからここに連れてきたのだろう?それともあれか?そやつはシンセレス国によってまりつあげられただけの凡人か?そのような男ならば尚のこと、この話は無しだ」


「くっ……!」


 歯を噛み締めながらエヴァは何も言えなくなってしまう。


 全部が全部、フレデリック王によって覆されていってしまう。


「くそ……えらいことになった」


「ちょっと黙っててくださいアラン。今私は気が立っています……!」


「ヒェッ!?」


 アランの言葉にさえ、苛立ちが募る。くそ……一体どうすれば……!



「…………」



 思考を回すエヴァを背に、ソウルはフレデリック王を見上げる。


 何だか、不思議な気持ちだった。


 確かにあの人は無理難題を言いつけて、こちらを突っぱねようとしている。


 けれど、それが全てじゃないような。そんな気がしていた。ただの勘だけど。


「うーん……」


「うーんじゃありませんわ!バカ!ソウル!!」


 ガシガシと、いつもの調子で頭をかくソウルを見てアルは憤慨する。


「ははっ。全く、変わらないなぁソウルは」


 そんなソウルを見ながらレイはケラケラと笑う。


「……よし」


 すると、頭をかいていたソウルがスッとフレデリック王の方に目をやり、そして。




「分かった。やる、やるよ。フレデリック王」




 そう言った。



「んなっ!?」


「ソウル殿ぉ!?」


「何考えてるのおおおおお!?」


 背中からエヴァ達の慌てふためく声が聞こえる。


「バカァァア!?!?」


 右の方からはアルのそんな悲鳴まで。


「そうだよ。俺が言い出したことだ。だったら、それは俺がやらなきゃダメだよな」


「……ふっ」


 どこか諦めたように告げるソウルを見て、フレデリックは。




「はぁーっはっはっはっはぁ!!」




 大声を上げて笑った。


「ふ、フレデリック王が……」


「わ、笑っておられる……」


 イーリスト国の騎士達はその光景をぽかんと眺める。



「面白い……面白いではないか!シン・ソウル!!ならばやってみせよ!我にその力を示せ!!」



「待っ待っ待って!?待ってくださいソウルさん!?まだ巻き返せる方法はあるかも知れません!だから……だからぁ!?」


「上等だ!絶対ヴルガルド国との同盟を成功させてみせる!その代わり、それが成功したら絶対にシンセレス国と同盟を組めよ!?」


「ソウルさぁぁん!?」


 エヴァの制止など耳に入らずにソウルは高らかに宣言する。


「無論、当然だ!!ここにいるイーリスト国国民皆が証人だ!!それで異論はないな!?」


 心底楽しそうに告げるフレデリック王。


「お、おおおおおおおおおおおおお!!!!」


 それと同時にイーリスト闘技場からあがる証明の雄叫び。


 よし……これで首の皮一枚繋がった!



「じゃあ早速シンセレス国に帰って準備を……」



「しかし、シン・ソウル。分かっておるな?」


「ん?」


 安堵の息をつくソウルに向けて、フレデリック王が告げる。




「言ったはずだぞ?シンセレス国の力を借りるのは許さぬと。故に、お前はお前自身の力でヴルガルド国との同盟を成功させよ。シンセレス国に在籍する兵士の力も借りることは許さぬ。そうなれば交渉は決裂だ」





「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」





「当然、イーリスト国に在籍する者の力を借りることも許さぬ」




「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」



「期限はそうだな……3ヶ月はやろう。それを過ぎたその時はシンセレス国との国交の断絶と、お主らシン・ソウルと並びに死神ヒコノ・シェリーを我が国イーリストにて公開処刑とする」



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」



「楽しみにしておるぞ。貴様があの鉄の要塞ヴルガルドに何をもたらすのか……ふっはーっはっはっは!!」



「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」



 予想外の展開に、ソウルは天に轟かんばかりの絶叫をあげた。

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