開廷
闘技場のフィールドに足を踏み入れる。
「来たぞ!」
「バケモンだぁ!!」
「とっとと殺してしまえ!こんな裁判なんか入らないだろう!?」
それと同時に浴びせられる罵声。
この国最大の闘技場、イーリスト闘技場。その客席を埋め尽くさんばかりの群衆が一斉にソウルに向けてあらんばかりの誹謗を送る。
何だ?何でこんなにたくさんの人がここにいる?
状況を飲み込めないままソウルは促されるままに闘技場の中央へと足を進ませる。
すると、そこは普段の様相とは明らかに異なり、まるで裁判所の法定のようになっていた。
恐らく、ソウルとシェリーが立たされる壇上と、左右にはお偉いさん達がずらりと並んでいる。
そしてその中にはソウルもよく知る顔ぶれも並んでいた。
「ソウル……!」
「ジャンヌ……様」
聖剣騎士団のみんなと、そして。
「やぁ、久しぶりだね。ソウル」
「レイ……!それにアルも!!」
こんな状況でもいつものように爽やかな笑みを浮かべる相棒と、俯きながら立ち尽くす兎の獣人。
何故みんながここに……?
疑問を胸に抱えながらもソウルはあてがわれた壇上へと足をかける。
ソウルが壇上に立ってしばらくすると、隣の壇上に檻に入れられたシェリーが運ばれてきた。
「シェリー……!」
その身はまるで誰かにリンチを受けた後のように青痣や流血で見るも無残な姿となっている。
「捕虜への暴行は認められていないはずです!なんて事をしたのですか!?」
すると、ソウルの背後からそんな声が響く。
振り返って見てみると、闘技場の客席。VIP席とも呼ばれるその場所から金髪金眼の少女エヴァが叫んでいた。
そこにはソウルと共にイーリストにやって来たみんなが立っている。
「はぁて?何のことやら。この仕打ちはお前達がシンセレス国で行ったものだろう?全く、貴様らの国の失態を我らに押し付けるつもりか?」
「はっ、流石は邪教の国。考えることが汚いですな!」
シェリーを連れてきた騎士達は下卑た笑みを浮かべながらそんな事を言う。
「くそ……!」
怒りが込み上げる。
本当に、何だってイーリストの偉い騎士達はこんなに性格がひんまがった奴しかいないんだ?
「静まれ」
やり場のない苛立ちを抱えていると、ソウルの前方。エヴァ達の立つ方とは逆側のVIP席から低く、しわがれた……それでいて威厳に満ちた男の声が響く。
ソウルが現れたことで騒然となっていた闘技場がその一声で静まり返った。
「ウォルト騎士団長よ。あまり我が国の品位を下げるような真似をするな。貴様の程度が知れるぞ」
「な、何を国王様!我らよりもこやつらの肩を持つと……」
「我の前で虚言が通じると思うな」
「っ!?」
図星をつかれたウォルトとか言う騎士は明らかに狼狽える。
「3度目はない。下らんことをするな」
「……っ、も、申し訳ございません」
先程まで図に乗っていたウォルトと呼ばれた騎士も声を震わせながらその場に跪く。
シェリーとの決着がついた時に聞いた声と同じ。
この声……間違いない。
「イーリスト国王……フレデリック王……」
そこには髭を蓄えた老王。
この国を統べる男。
滅多なことでは表の舞台に顔を現さないこの国のトップ。
「さて……始めようかシン・ソウル」
ギラリと人をも殺せそうな眼光をこちらに向けながらフレデリック王は語る。
「貴様の処遇と……そしてこの国の未来を賭けた特別法廷をな」
フレデリック王の言葉を皮切りに、カァン!と乾いた小槌の音が響く。
なるほど…そう言うことか。
ようは、ここは臨時の裁判所。
これから始まるのは俺と、シェリーの処遇を決める公開裁判なのだ。