鬼の特訓
「い……てぇ」
「立ちなさい。男でしょう」
鼻血が止まらない鼻を押さえながらソウルは痛みにのたうち回っていた。
結論。ソウルはシェリーの蹴りを顔面に受けて地を3回転。そのままの勢いで豪快に壁へ叩きつけられた。
この試合は……いや、この試合もソウルの完全敗北。
クトゥグアとの戦いが終わり、シェリーがここに移されてからソウルはほぼ毎日ここに通い詰めていた。
理由は簡単。彼女に戦いの教えを乞うためだ。
イーリストでソウルは確かにシェリーに勝つことができた。けれど、それは先に聖剣騎士団のみんなとシーナがシェリーを消耗させてくれたから。
多大なダメージを負った状態でほぼ互角。いや、それでもあんなものはまぐれだろう。
100回やって、1回勝てるかどうか。それをたまたま引けただけ。確実にシェリーの方がソウルの何倍も強い。
それに加えて召喚術士としての先輩でもある。
だから、基本的な戦闘の立ち回りや召喚魔法の活かし方。その他諸々を教えてもらいたいと、土下座をして頼み込んだ。
正直、自分を倒した相手にそんな事をするなんて気乗りしないだろうと思っていたけれど、シェリーは2つ返事で了承してくれた。
だから今日もこうしてシェリーの元で戦闘の腕を磨いていると言うわけだ。
「ほら、もう2分16秒も経った。時間は有限なのですから早く次の試合をやりますよ」
「ま、待ってくれ……まだ鼻血が止まってないんだ……」
「鼻血が止まるのを相手は待ってくれますか?立ちなさい」
けれど、シェリーの教育はぶっちゃけ厳しい。いや、むしろ厳しすぎる。
毎日毎日こうしてボコボコにされ、手も足も動かなくなった後、ガストの【自動回復】の力で身体を回復させながら召喚術の扱いと、魔法の練習。
あと、召喚術を展開させながらの戦闘の練習も始めている。まだまだ全然身についちゃいないけれど。
そして、それが終わる頃には身体の傷は回復しているので試合。再びボコボコにされた後に帰路に着くと……そんな日々を送っている。
はっきり言おう。きつい。
これまで受けてきた全ての訓練がまるで遊びだったかのように感じるほどにはきつい。もはや拷問と言っても過言じゃない。
「拷問でも受けている……とでも言いたげな目をしていますね」
「……ソソソンナコトハアリマセンコトヨ?」
しっかも、めちゃくちゃ鋭いんだわ。シナツと違って。
「いいでしょう。ならば今日はとことん、徹底的に指導してあげよう」
「ひっ!?ま、待ってくれ……普段でもあんなきついんだ!それ以上だなんて、死んじまう!?」
不気味なオーラを纏いながら迫るシェリーにソウルはジリジリと後ずさる。
や、やばいって、マジで死ぬって!
「安心しなさい。まだこれで5割ぐらいです」
「うっそだぁ!?」
マジかよ!?まだこれの倍厳しくなるってのか!?
「あなたから言い出したんだ。『戦いを教えてくれ』と。だから途中で投げ出すことなんてない……ですよね?」
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!?」
今にも逃げ出しそうなソウルの首襟を掴むと、シェリーはズルズルと部屋の中央に向かってソウルを引きずる。
「後はこれを10セット。その後はマナが尽きるまで召喚獣の練習と召喚獣を出したままの戦闘の訓練。絞れるだけ絞った後は残ったマナで武装召喚の練度をあげる特訓。最後は私との戦闘訓練20セットで今日の訓練は終わりです。さぁ、いきますよ」
「ぎ、ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
そう言えば、最近ディアナの塔80階付近で断末魔の叫びが鳴り止まないと言う噂が流れているそうだ。