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無力を知る

「うーん……久しぶりだけどソウルのご飯おいしいなぁ」


 口いっぱいに料理を頬張りながらオリビアは楽しそうに告げる。


「ははっ、それは何よりだよ」


 そんな風に笑うオリビアを見てソウルは嬉しくなる。


 クトゥグアとの戦い以降、オリビアはソウルに対して敬語を使わなくなった。


 本当の意味で打ち解けることができたのだろう。よかった、こうしてまた彼女と笑える日々が戻ってきてくれて。


「ふふっ。お箸が止まってますよ、ソウルさん」


「おっと、そうだな」


 そんなオリビアを見て感傷に浸るソウルにエヴァが少しイタズラっぽく声をかけてくる。


 そういえば、エヴァともあれ以来変な距離を感じることもなくこんな風な自然なやり取りができるような関係になった。


 実はエヴァは少しSな小悪魔的なところがあるようで、こんな風に少し意地悪っぽい事を言うことがある。


 まぁ、可愛らしい女性がやっていると考えると凄くそれがまた可愛らしいんだけれど。


 それに加えてアリアとパメラも何やかんやで打ち解けられてきている。


 自然体なみんなを見ることができてソウルは何だかとてもうれしく感じていた。


 ここに集まったのはエヴァ、オリビア、アラン、パメラ、アリア、シーナ、マコ、ヴェン、エリオット、ソウルの10人。


 一応豪華な客室ではあるけれど、この人数ではやや手狭だ。


 身を寄せ合うようにして料理と飲み物を楽しみながら会話に花を咲かせる。


「そう言えば、結局マシューさんとはうまくやれてるのか?」


 クトゥグアとの戦いの時にあれだけのことがあったのに、エヴァはマシューを罪に問わないどころか、また同じところで働いている。


 今回のエヴァ達の休みを言い出したのもマシューだと聞いているし……大丈夫なんだろうか?


 またディアナ教の乗っ取りとか、悪い事を考えてなかったら良いんだけど……。


「はい。マシューは責任をとって今の立場を退こうとも考えていたようですけれど、私から引き留めたんです」


「そぅなのよぉ〜?ソウルくぅん聞いてぇ〜?エヴァ様ったらねぇ、荷物まとめて出て行こうとするマシューを捕まえてぇ!『私達にはまだあなたの力が必要なのです』〜って言って呼び止めたのぉ……信じられるぅ??」


 エヴァの横で酒瓶をグイグイと飲み干して、真っ赤な顔になったパメラがそんな事を言う。


「あ、あはは……」


 パメラ……めっちゃ飲むなぁ。


「ほらぁ!アランくぅん!次の酒もってくるのぉ!!」


「ま、待てパメラ!流石に飲み過ぎ……」


「あぁん!?パメラの酒を飲ませないってぇのぉ!?」


「ぐおぉ……首を絞めるのはヤメロォ……!?」


 パメラは酒癖が悪いのだろう。ドォンと酒瓶を机に叩きつけるとアランに飛びかかり、その首を締めにかかる。


「パメラはお酒を飲むといつもこうなんです」


「私達はなれちゃったけど」


 そんな荒れ狂うパメラを見ても涼しい顔でエヴァとオリビアは笑う。


 あなた方2人も大概だなぁ。



「ペテル様の遺した言葉の意味が、今になってようやく分かる気がします。今まで私は1人で全てをやろうとしてきました。それが最高司祭として私がやらなければならないことだと、盲信してきたから。けれど違った。私にはできること、できないことがある。私にできないことが、マシューにはできることがこの前のクトゥグアとの戦いで分かりました」


 手の中の水をギュッと握りしめながらエヴァは告げる。



「きっと、いがみ合っていてはならない。理解を放棄し、投げ出すことはきっと簡単です。けれど、相手を理解し私の無力を知る。簡単なことではないですけれど、その先にあるものはきっと何よりも強い力となる……きっとペテル様はそれを分かっていらしたのでしょう。だから私はマシューと話をしました。ペテル様がお亡くなりになってから……いえ、きっと私がここに来てから初めてです。そこで初めて互いの思いをぶちまけました」


 そう言えば、確かにディアナ教でエヴァとマシューが激しい口論を繰り広げたと……そんな噂がオアシス中で広がっていたこともあったなぁ。


 街中で噂になるって……一体、どれだけ壮絶な喧嘩だったんだろう。



「全てぶつけ合った後。私は……いえ、きっとマシューもでしょう。心が軽くなりました。今はまだお互いに探り探りではありますけれど、ちゃんとお互いに未来のために向き合えていると、そう思います」



 そう言って笑うエヴァは、憑き物がとれたように穏やかに笑っていた。


 まだ直接会ってはいないけれど、きっとマシューも同じなんだろう。


 エヴァに休みを取るように言ったのも、彼なりの優しさだったのだろうか。


「エヴァ様は優しすぎるのぉ!もっとてってー的にギャフンと言わせて従わせちゃえばよかったのに!」


 アランを締め落としたパメラはイカを乾燥させたスルメを咥えながら不機嫌そうに告げる。


「まぁまぁ、いいじゃない。エヴァがそう決めて、今こうしてうまいこといきかけてるんだから」


「ぬぁー!パメラの酒がぁー!?」


 流石に飲み過ぎと判断したのだろう。


 オリビアがヒョイとパメラの酒瓶を取り上げる。


 パメラは餌を奪われた狂犬のようにオリビアに飛びかかろうとするが、オリビアに頭を抑えられてぴょこぴょこと手を振ることしかできていない。


「ふふっ。そんなマシューが折角こうして休むようにと時間をくれたので……今日くらいは私もハメを外しちゃいますね」


「あ……ちょっ、エヴァ!?」


 すると、エヴァはオリビアが取り上げた酒瓶を掴み、そしてそれを一気に口の中に流し込んだ。


「う、嘘でしょ!?エヴァがお酒を飲むなんて!?」


「……っ」


 その光景をオリビアとアリアは驚いたような顔で見つめている。


「人生初めてのお酒です!正直とても苦いですけど、何だか楽しい感じがします!」


 そう言ってエヴァはパメラの酒瓶を一気に空にしてしまう。



「あぁ……パメラの……パメラのお酒がぁぁぁ……」




 その隣で涙を流すパメラが少し不憫に見えるが、仕方ない。あんたは飲み過ぎだ。


「さぁ、今日は楽しみます!たくさん食べてたくさん飲みますね!!」


 色んな意味で頭のネジが吹っ飛んだ聖女様の姿に、皆圧倒されるのだった。

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