準備
トントントン。
「お、来たかな?」
「みたいですね。私が空けて参ります、ソウル様」
ソウルとアリアがキッチンで腕を振るっていると、宿屋の扉がノックされる。
そろそろ約束の時間。エヴァ達がやってきたのだろう。
「よし、それじゃ一気に仕上げちまおうぜ!アリア」
「…………(コクリ)」
パタパタと扉に向かっていったマコを目で追いながら、ソウルとアリアは最後の仕上げに取りかかる。
「しっかし、アリアはすげぇな……どうやったら野菜が……魚がこんな見事な形になっちまうんだよ」
ソウルはアリアが仕上げた皿を覗き込みながら感嘆の声を上げる。
そこには鮮やかに彩られ、まるで芸術品のような美しさで盛り付けられたアリアの料理の品々が並べられていた。
アリアと料理は特に前菜や酒の肴といった物を得意としているらしい。
かつてシーナと食べた刺身やサラダ。カルパッチョにパスタなど、女子に人気がありそうなメニューが多かった。
特に、海鮮類の理解が非常に深くソウルが魚を1匹捌いている間にアリアは他の全ての魚の下拵えを終えてしまうほどだった。
「一体、どうやったらそんなに早く捌けるようになるんだ……」
仮にも料理の腕に自信があったソウルとしては流石にちょっと悔しさも感じてしまう。
「…………」
シュルルルルッ、シャキーン!
対するアリアはどこか得意げに口角を吊り上げて包丁を自由自在に振り回している。
あぁ、そっか。確かアリアの武器はあの短い……クナイっていうんだっけ?あれだから同じような形状の包丁の扱いにも長けているってことなのかな?
ビュッ!!
なんてことを考えていると、ふとソウルの顔の真横を何かが横切る。
スカァァン!!
「うへぁ!?!?」
見ると、ソウルの顔の真横に刺さるギラリと光る包丁。
「…………」
そこには満面の笑みを浮かべたアリアが立っている。
……え、まさか包丁を投げた……!?
まさかの事態にソウルが氷のように固まっていると、アリアはソウルの顔の隣に突き刺さった包丁を引き抜く。
その先端には1匹の蜂が見事に貫かれてビクビクと足を痙攣させていた。
「あ…あぁぁあありがとう」
そ、そうか。蜂が飛んでたから駆除してくれたのか。
ニコニコと眩しいまでの笑顔を向けながらまるで暗殺者のようにシュルシュルと手早く包丁に刺さった蜂を処理、洗浄を済ませるアリアの姿にソウルの背に冷や汗が流れる。
うん……アリアを怒らせないように気をつけよう。
人知れずソウルはそんな事を心に誓うのだった。