アリアの過去12【スティングの想い】
「何てことすんだ!この腰抜けアリア!!」
「痛いよぉ」
「ご、ごめんなさい……」
マリアに治療魔法をかけてもらいながらスティングとアンガスは涙を流す。
痛烈な一撃をお見舞いしたアリア本人は申し訳なさそうにしょんぼりと小さく座り込んでいる。
「相変わらず……細いし気弱なくせに、なんでこういう時だけ馬鹿力を発揮するんだか」
「う……。そ、それよりなんで来たの?家で大人しくしてるように言われたはずじゃ?」
全力で話を逸らしながらアリアはスティングに問いかける。
現在、ココナツ村は大人達によってアザトース襲来に備えて厳戒態勢を取られていた。
そんな状況なので村の子どもたちは皆、危ないからと家の中で過ごすように言われていたはずなのだが。
「……うるせぇよ」
そんなアリアの問いかけにスティングはそっぽを向きながら小さくこぼした。
「スティングがねぇ、俺たちもアリアを守るために戦おうって言い出して僕を連れ出したんだよ」
「わっわっわー!!言うな言うな言うなぁぁあ!!」
そんなスティングの心境などつゆ知らず、アンガスは相変わらず、のほほんと事実を語る。
「ふーん。相変わらずかわいいとこあるじゃない、スティング」
「え、どういうこと?」
色々と察したマリアとは違い、アリアはどういうことか理解できずに姉とスティングの顔を見比べている。
「……これで、会えるのが最後になるかもしれねぇんだろ?」
顔を真っ赤に染めながらも、スティングはそっと口を開く。
そう、これで最後かもしれない。
アリアは明日にはオアシスの街へと向かってしまうんだ。
「だから、せめて今日は俺がお前を守る。そんで、俺が大きくなった時、必ずオアシスに行く。立派な戦士になってお前の元に行くから……だから……」
「だ、だから……?」
スティングの言葉に、アリアは何故か鼓動を早めながら次の言葉を待つ。
何だろう、この胸が締め付けられるようなこの気持ちは。この熱くなる顔は。
「だ…だから……その……」
けれど、スティングはその先の言葉を見つけられない。いや、正確には見つけてはいるのだけれど。それを口にする勇気が出ない。
「……」
「……」
やがて、2人は黙り込んでしまう。
「……全く、惜しいところまで来たのに、情けないわね」
見かねたマリアは呆れたようにスティングの頭を叩く。
「う、うるせぇ!」
「さっきカッコ悪く悲鳴をあげたり、ほんっと肝心なところで…あなた……は……」
やれやれとマリアがスティングをいじっていると、ふと小さな違和感に気がついた。
「ん?」
「どうしたの、お姉ちゃん」
今、このココナツ村は深夜。しんと静まり返っている。
つまり、スティング達の悲鳴は村中に響いたとして間違いないだろう。
加えて今は非常事態。何かあったらすぐに誰かが駆けつけてくるに決まっている。そうだと言うのに。
何故、様子を見に誰もこの講堂に来ないのだろう?
「ーーーーーーーーーーーーー」
「「「「ーーーーーーーーっ!?!?」」」」
その時、遠くの方から聞こえてくるあの音。
洞窟から風が抜けるようなあの不気味な風音。
まさか……?嘘だ。
だって、あの白牢島から出れないんじゃなかったの!?
いや、それよりも他のみんなは!?村のみんなは一体どうなったの!?
暗闇の中、気が動転する4人。
かろうじて状況を整理していたマリアは身を屈めながらそっと窓の外の様子を伺う。
「……っ」
月明かりに照らされたココナツ村。
その家々の隙間を縫うように移動する白い布を被った奴の姿が見える。
そして、その足元には……。
無惨にも飛び散った、人間の身体の破片が転がっていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
あまりの凄惨な光景に思わずマリアは胃の中の物をぶちまけてしまう。
「お姉ちゃん……!?」
「み、見ちゃダメ……!」
慌てて駆け寄ってくる妹をマリアは手でいさめる。
間違いない。奴がここに来た。そして村のみんなは抵抗する間も無く、殺されたんだ。
まずい。まずいまずいまずい!
思考が止まりそうな頭を叩きながら、必死に思考を回す。
奴は来た。来てしまった。
そして、村のみんなも無惨に殺されてしまった。
逃げる?それともここで隠れてやり切る?
早る鼓動が脈打つたびにマリアの心を削る。
何が正解?どうすればアリアを助けられる?
今この判断が、アリアの命運を分けるかもしれない。
どうすれば……どうすれば……!
「っ、そうだ」
そう、明日には迎えの者が来る。
見れば奴はアリアを探すのに一軒一軒家を見て回っているように見える。ならば、どこか隠れられる場所があれば2、3日……いや、夜の間ぐらい、隠れていられるかもしれない。
何より、村のみんなの変わり果てた姿を見たくない。見せられない。
だったら、ここに隠れて助けが来るのを待とう。それがきっと1番だ。
「みんな、こっちよ」
マリアは困惑する3人を講堂の奥へと呼ぶ。
そして、壇上の床にある小さな取手に手をかけると、それを力一杯に持ち上げた。
「うわ……」
そこにあったのは小さな地下室。明かりすらない小さな小部屋だった。
「昔……エアリス達と見つけたの。ここならきっと簡単には見つからないわ。助けが来るまで、ここで待ちましょう」
こうして、4人の人生で1番長い夜が始まった。