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アリアの過去12【手を引いてあげる】

 暗い、暗い講堂の中。


 アリアと姉のマリアは急ごしらえされたベッドの上で身を寄せ合っていた。


 あまりに突然の出来事。


 エアリスとトゥーナの死。アンガスが瞳を失ったこと。アリアに眠る召喚術士の力に、村を出てこの国の首都オアシスに行かなければならないこと。


 昨日まで、ただただ普通に生きてきた内気な少女の心はパンク寸前……いや、もうパンクしているのかもしれない。


 事態が飲み込めずに、自分の頬をつねったり息を止めてみたりするが、それでもなお鈍い痛みと胸の苦しさがこれが現実だと言うことを物語っている。


 今、この講堂にはアリアとマリアの2人だけ。


 父と母は、引っ越しの荷造りのために家に帰宅している。


 講堂は魔石灯が消され、窓から差し込む月明かりだけが講堂の中を照らしていた。


 仮にアザトースがやってくる様なことがあった時に明かりがついていれば気づかれてしまうかもしれないからとのこと。


 けれど、普段人で溢れるその講堂にポツンと残されたアリア達は不安に駆られていた。


「……お姉ちゃん」


 不安に耐えきれず、アリアはそっと姉の手を握る。


「ごめんなさい……私の……私のせいで、こんな……」


 そう。全てアリアのせい。


 アザトースが目覚めたのがアリアのせいだとするのなら、その後の悲劇も全てアリアのせいということになる。


 もしアリアがあの島に行かなければ。いや、そもそもアリアが今この世界に存在していなかったとするのなら。


 今、マリアはエアリスと結ばれ、この村で幸せに暮らしていたかもしれないのだ。


 アリアがいたことで姉は全てを失うことになる。


 きっと姉は私を恨んでいる。


 怖くて怖くて、アリアは姉の顔を見ることができないでいた。


「……アリア」


 沈黙を破る様に、マリアはそっとアリアの手を握り返した。


「あなたは何も悪くない。私達が嫌がるあなたを無理矢理あの島に連れていったのが悪かったの。だから、何も謝らないでいい。きっと、エアリスとトゥーナもそう言ってくれるはずよ」


 月明かりに照らされる姉の顔は、どこか悲しげで。それでもなお優しくいつものようにアリアの顔を見つめてくれていた。


「……っ」


 その姉の姿に、アリアは堪えていた涙がボロボロと零れ落ちる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


「もう……しっかりしなさいよ、アリア。あなた、伝説の賢者様と同じ力を持っているんでしょ?ということは、あなたは私なんかより、すっごくすっごく立派な人になれるってことじゃない」


「無理だよ……!お姉ちゃんみたいに私は強くも優しくもない……!!なんで私なの!?お姉ちゃんの方がきっと私より立派な魔法使いになれるはずなのに……いつもいつもお姉ちゃんに迷惑ばっかりかけて、どうしようも無い私なんかがそんな召喚術士になんてなれるはずが無い!!」


 さまざまな感情で揺れるアリアの心。


 劣等感、憧れ、焦燥、不安、悲しみ。


 もう、アリアの心はありとあらゆるものに押しつぶされそうだった。


 そんな風に泣き崩れるアリアをマリアはそっと抱き締めてくれる。


「大丈夫。言ったでしょ?甘えられるうちは甘えていいの。いつかあなたが【セッテ】様みたいな立派な魔法使いになるその時まで、私が手を引いてあげる。いつだってそばにいるから」


「でも……私なんて、私なんて……!!」


「ふふふ。ねぇ、覚えてる?昔森で迷った時のこと」


 すると、マリアは懐かしむようなそんなことを語り始めた。


「覚えてるよ……2人で道に迷って、お姉ちゃんがずっと手を引っ張ってくれたよね?」


 2人がまだ幼い時。


 2人で森に入ってそのまま迷子になってしまったっけ。


 あの時も、マリアは泣き続ける私の手を引っ張り続けてくれた。どこまでも続く暗い暗い道を、ずっと歩き導いてくれたんだ。


「あの頃から、お姉ちゃんはすごかったよね」


「ううん。実はそんなことないのよ」


 アリアの思いとは裏腹に、マリアはどこか恥ずかしそうな顔で告げる。


「だって、本当はあの時私、怖くて怖くて仕方なかった。もう、歩きたくなんかない。諦めて歩くのをやめてしまおうってそう思ってたの。でもね?あなたが私の手を握ってくれた。どんなに泣いて泣いて、泣き続けていても、決して歩くことをやめなかった。そんなあなたが一緒にいてくれたから、私は歩くことをやめなかった。だから私の強さはアリア、あなたがくれたものなのよ」


「お姉ちゃん……」


 マリアの言葉にアリアは目を丸くしてしまう。


「そんな……だって、私はお姉ちゃんがただ頼もしかっただけだよ?そんなすごいことなんて、できてないよ」


「ううん。あなたはまだ自分の強さに気がついていないだけ。あなたは本当に強い子なんだから」


「で、でも……」


 きっと、姉は優しいからこう言ってくれているだけだ。


 どう考えたって、私なんか強くない。私を勇気づけようとして言ってくれているだけに決まっている。


「ふふふ。だったら、あなたがそれに気づくその時まで私はずっとあなたを支えるわ、アリア。だからそれまでは……」



 ガタン




「「っ!?」」


 その時、突如として暗い講堂の扉から何か音が聞こえる。


 まさか……!?


「お、おおおおおおねぇちゃん」


「だっ、だだだだ大丈夫。ちゃんと見てくるから」


 腰を抜かした姉妹はおどろおどろとしながら扉の方に向かう。


 だ、大丈夫。きっと、ネズミか何かだから。きっと気のせいだから……!



 ガチャン!



「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」」



 扉を開こうと手をかけたその瞬間。勢いよく開く扉。


 2人はたまらず張り裂けそうな悲鳴を上げた。


 そこには2つの人影。


 アリアは恐怖のあまりそばにあったモップに手をかけると、そのまま勢いよく振りかぶった。


「え、あっ!?ちょま……」


「こっ、来ないでええええええ!!!!!」



 バッコオオオオン!



「「うぎゃぁぁぁぁあ!?!?」」


 暗い闇夜に轟く2つの悲鳴。


「……え?」


 マリアにはその悲鳴の主に心当たりがあった。



「こっ、来ないで……!来ないでぇぇぇぇえ!?」


「ま、待ってアリア!多分それ……」


「え?」


 姉に制止され始めて月の光に照らされたその人影に目を落とす。


「あ、あがががが……」


「い、痛いよぉ」


 そこには大きなタンコブを作ったスティングとアンガスがいた。

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