アリアの過去10【アザトース】
虚な目をしたマリアとアリア達は亡霊の様に村を歩き、村長の元へと向かう。
「村長……」
マリアは一番立派な家の戸を開きながら、中にいる立派な髭を蓄えた細身の老人に声をかける。
「ど、どうしたんじゃマリア?いつも元気なお前さんが珍しいの」
そんなマリア達の様子に困惑する村長。
それを見たスティングはその場に倒れ込み、そして。
「ごめんなさい……!ごめんなさい!!」
激しく嗚咽を漏らしながら、ただただ謝罪の言葉を放つ。
「……何があったのじゃ」
そのスティングの様子を見て、只事ではないと理解した村長は唯一正気を保っていたマリアにこれまでのあらましを聞いた。
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「何ということを……」
マリアの話を聞いた村長はドッと脂汗をかきながら頭を抑えていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
カタカタと震えながらアリアは放心状態で呟く。
「あの……あれは、一体何だったんですか?」
ギュッと震える手を握りながらマリアは村長に尋ねる。
「……あの島にいるのは遠い昔、ちょうど1000年ほど前。【覇王】と呼ばれる伝説の魔法使いが作り出した化け物じゃ」
「化け物……?」
「うむ。【覇王】が【起源】の力を求め、様々な実験を進めていく中で生み出されたと伝えられている。名を【アザトース】という」
「アザトース……」
白牢島で見たあの化け物の姿を思い出しながらアリアはゾッとする。
「奴は限りなく【起源】の力に近い能力を持っているが、その代償なのか……その知能や身体機能が著しく退化していると言われている。だが流石の覇王もその力を持て余したらしくてな、奴を閉じ込めることにした。それが……」
「あの……白牢島ってことかよ」
スティングの言葉に村長は頷く。
「すまぬ……お前達にもちゃんと説明しておくべきだった。まさかあのアザトースが人を襲うなどとは思っていなかったのだ」
「どう言うことですか?」
村長の言い回し的に、彼はアザトースのことを知っていた様な口振りだが。
「奴はその長い時をあの狭い島の中で過ごしたからか……あるいはまた別の理由かは分からぬが、まるで石像の様にその身体を動かすこともなく過ごしてきたのだ。わしもあの島に足を踏み入れたことがあったが人を襲うどころか、動く素振りすら見せなかった。だからこそ、あまり口酸っぱくわしらも注意をしてこなかった。許せ……エアリスとトゥーナの犠牲は、わしら大人のせいじゃ」
村長の言葉にアリアの胸が少し軽くなった。
「でも……ごめんなさい。私達があの島に入ったから、あいつを起こして……そして、アンガスの目と、エアリスとトゥーナを……」
ポロポロと涙をこぼしながらマリアは告げる。
「言うな。お前達のせいじゃない。悪いのはあのアザトースとちゃんと止めなかったわしら大人じゃ。お前達が業を負う必要はない」
そう言って村長はアリアの頭を撫でてくれた。
「でも……【召喚術士】って何なんですか?」
グシグシと涙を拭きながらアリアはふと村長に問いかける。
「【召喚術士】……?」
「はい……。あいつが……アザトースが言ってた。召喚術士を殺すって。一体何のことなの?」
「なん…じゃと……?」
アリアの言葉を聞いた村長の顔が見る見る青ざめていく。
「アリア、何言ってるの?アザトースは言葉を喋れてなかったじゃない」
「え……?言ってたよ?召喚術士を殺す、見つけたって……」
「アリア!お主、まさかアザトースの言葉が理解できたのか!?」
すると、村長が飛びかかる様にアリアの肩を掴むと切羽詰まった様な表情でアリアに問いかける。
「う、うん」
突然の事態にアリアは半分ポカンとしながらコクリと頷く。
「……まさか、そう言うことか」
すると、何やら考え込む様なそぶりを見せた村長が家の奥に走りだすと、そのまま妙な形をした魔導機を起動した。
見たところ何か通信聞か何かの様に見えるが。
しばらくすると、応答があったのか魔導機が新たな光を放つと、村長はそのまま早口で言葉を続ける。
「ペテル様……!緊急事態です。アザトースが目覚めました。そして……ついに現れました。召喚術士が……【魚の召喚術士】が!」