アリアの過去5【不穏な影】
エアリスとトゥーナ、そしてスティングは深い森の中をずいずいと進んでいた。
長く人の手が入っていないのであろう森は、舗装された道はおろか獣道すらない。
「うっとおしいなぁ。【風】に【斬撃】のマナ!【エアスラッシュ】!」
エアリスは先陣を切りながら邪魔な木々を風の斬撃で斬り倒して道を作る。
「相変わらずエアリスの風の魔法はかっこいいよなぁ」
「あんたは地属性だもんね。1番地味じゃない?」
「う、うっさいな!」
元気にぷりぷりと怒り散らす弟を放っておきながらトゥーナはエアリスに話しかける。
「ね。マリアが来なくて残念だったわねー」
「何の話だ?」
一瞬どこか動揺したようなそぶりを見せるエアリスはトゥーナに問い返す。
「んふふ。見てれば分かるわよ。あからさまにマリアと話す時だけニコニコしちゃってまぁ……見ててこっちが恥ずかしいったらありゃしない」
「う、うるさいな。俺は何もマリアに思ってなんかいないさ」
そう言うエアリスの魔法は出力がブレ、狙いがあっちこっちに分散していた。
全く。丸分かりである。
「完全に両想いなんだから、とっととくっつけばいいのにね」
「ん?何か言ったか?」
「なーんにも」
動揺をかき消すように魔法を連発するエアリスを見ながらトゥーナはニヤニヤする。
さぁて、次はどんな風にいじってやろうか……。
バシィン……
「……ん?」
「どうしたの?」
するとエアリスが怪訝な顔をする。
「何かに、当たった」
「木とか岩じゃないの?」
「違う……なんか、生き物……かな?変な手応えだ」
エアリスの言葉を皮切りに不穏な空気が3人を襲う。
エアリスはみんなの中で1番魔法の扱いに長けている。そんな彼の言うことに間違いはないだろう。
この先に、何かいる。3人がゴクリと息を呑んだその直後。
「ーーーーーーーーーーーー」
「ひっ!?」
「うわぁあ!?」
「なんだ!?」
木々の向こうから声にならない声……いや、うめき声と言った方がしっくりくるかもしれない。そんな物が聞こえてきた。
まずい。直感的にそう判断したエアリスはすかさず首にぶら下げた貝の笛に手を伸ばす。とにかくこの非常事態をマリア達に知らせなければならない。
ピィィィィィィィィィィィィィィィイイイイ!!!
迫りくる気配に警戒を強めながら、エアリスは笛に思いっきり息を吹き込んだ。