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アリアの過去4【ずっとこのままで】

 シンと静まり返った森の中。


 アリアはしょんぼりと顔を俯けていた。


「ほらほら、いつまでしょげた顔してるの?」


「だって……お姉ちゃん、無理してるでしょ?」


 きっと、活発な姉は島の冒険に行きたかっただろうし、何よりエアリスと一緒にいたかったはず。私のせいでここにとどまらせてしまったことは明白だった。


「いーのいーの。私にとってはアリアと一緒にいることの方が大切なんだもの」


 そう言ってしょげる妹を見てマリアはアリアの頭を撫でる。


「今はいいの。いつかあなたが立派に独り立ちしていくその時まで、ちゃんとお姉ちゃんが守ってあげる。だから甘えられる時に甘えておきなさい?」


「お姉ちゃん……」


 いつか独り立ちする時。


 それはきっと、この私を引っ張り続けてくれていた姉の手がなくなる時。


 正直、私がそれもなしに生きていくなんて光景は微塵も思いつかない。


 魔法が使えない。みんなが当たり前にできることができない。


 そんなみんなから劣る私がどうやってこの魔法の世界で生きていけるのだろう?


 この島にやってくることだって、他のみんなは簡単にできるけれど、私は1人じゃできない。


 みんなが魔法1つでできることだって、私はたくさんの時間と手間をかけないとできないんだ。そんな私が独り立ち?


「……」


 ずっと、このままがいいなぁ。


 お姉ちゃんがいて、みんながいて。


 何の役にも立てない私のことを、暖かく受け止めて手を引っ張ってくれる。


 甘えだと言うことは私が1番分かっている。だけど、それでも今この時が大切で、愛しくてたまらない。


 後何年こうしていられるか分からない。エアリスだってもうすぐオアシスに行って軍に入る訓練を受けると言っていた。


 スティングも血気盛んにエアリスの後を追うって決めているようだし、トゥーナとお姉ちゃんだってもしかしたら……。アンガスはよく分かんないけれど。


 その時、私は一体どうするんだろう?


 1人、ココナツ村に残された私はどうすればいいんだろう?


 シンと静まり返る森のように、アリアの心は孤独だ。


「あれ?」


 そんなことを考えていると、ふとアリアの頭に小さな疑問が浮かんだ。


「どうかしたの?」


「……ううん。何でもない」



 こんなに緑豊かで、花もあちこち咲いていて。たくさんの果実がなっている。そんな恵まれた環境であるこの島。





 どうして、鳥のさえずりはおろか、虫の1匹でさえいないのだろう?




 ピィィィィィィィィィィィィィィィイイイイ!!!



「「っ!?」」



 そんな静寂を突如として破る1つの笛の音。


「今の……」


「森の奥からだ……」


 エアリス達が消えていった森の向こうから響く笛の音と、ザワザワと揺れる木々。


「たっ、大変だぁ!エアリス達に何かあったんだぁ!」


 果物を両手に掴んだままのアンガスが慌てふためきながらアリア達の元へ駆けてくる。


 何かあった時には笛を鳴らすのはこの6人ではよく約束すること。過去にはアリアとスティングが古井戸に落ちた時や、高いところから降りられなくなった時などに鳴らしたことはあったが、最年長のエアリスが笛を鳴らすところなんて見たことがなかった。


 つまり、それほど事態が起こっていると言うことなのかもしれない。


「……っ、行きましょう」


 突如訪れた緊急事態に身を震わせながらも、マリアはそう告げ、深い森の中へと歩み進める。


「お、お姉ちゃん……」


「大丈夫。アリアは私がちゃんと守ってあげるから。手を離しちゃダメよ?」


「ま、マリア〜……」


「ほら、アンガスも男の子でしょ?泣かずに行くわよ」


 逃げ腰になっているアンガスにため息をつきながらマリアはアンガスを励ます。



「ーーーーーーーーーーダ」



「……え?」


「ほら、離れちゃダメだよアリア」


「あっ、ごめんなさい」


 ふと立ち止まったアリアは慌ててマリアの手を握りながら姉の後に続く。




 ザワザワと揺れる森の木々のざわめきの中に、小さな声が混じっていたような気がしたが……気のせいだろうか?

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