クトゥグア討伐戦22【風魔アスモデウス】
「グルァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!」
魔法陣の中心から這い出すように現れたのは、人と雄牛、それに雌牛の首を持った3頭の人型の悪魔。その身は血のような赤い体皮をしており、手には旗付きの槍を持つ。黒い飛龍に跨り、その黒い翼を広げてディアナの塔を破壊しながら旋風を巻き起こした。
「ま…じかよ」
「あれ……召喚魔法ですよね?」
そこに顕現したそいつを見てソウルとオリビアは息を呑む。
まさか、黒騎士も召喚術士だとでも言うのか?
「そう、私は【悪魔の召喚術士】。貴様がオリビアを守ると言うのなら、こいつを打ち倒して見せろ。少女を救う騎士になりたいのならな。【ブレイク・オール】」
「グルルルル……」
黒騎士が詠唱すると、アスモデウスがじわりじわりとソウル達に近づいてくる。
「あれ……まさか、黒騎士の指揮下にいない?」
その雰囲気からソウルの【リンク・ゼロ】と同じように召喚獣自身の意思で動いているような印象を受けた。
「流石【リンク・ゼロ】の使い手。分かってるじゃないか。【ブレイク・オール】の効果は貴様のそれとほぼ同じだと考えてくれればいい。さぁ、せいぜい楽しんでくれたまえ」
そう言い残すと黒騎士は身を翻して歩き去ろうとする。
「お、おい待て……」
「ソウルさん!危ない!」
ソウルが慌てて黒騎士を追おうと駆け出したところにアスモデウスの槍が突き出される。
「くそ……奴を追うにはお前を倒すしか無いってことかよ」
こいつはヤバい。これまで相手にしてきたどの召喚獣とも違う。禍々しさというか、迫力というか……。
放つオーラはシェリーのケリュネイアをも上回るかも知れない。
「グオオオオオオオオオオオ!!」
アスモデウスは咆哮しながらそのまたがる飛龍の腹を足で蹴る。すると、それに応えるように黒龍はその大きな翼を広げてそれを振った。
ゴッ!!
それと同時に放たれる旋風。
「うわぁぁぁあっ!?」
「きゃぁぁぁあっ!?」
それはソウル達を吹き飛ばすどころか、ディアナの塔の壁をも破壊し、塔に風穴を開ける。
「マジかよ……!あれで魔法を使ってないってのか!?」
ソウルはオリビアを抱き抱えながら叫ぶ。
黒騎士は今のアスモデウスは【リンク・ゼロ】状態とほぼ同じと言った。
つまり、黒騎士とアスモデウスの間にマナの共有はない。と言うことは魔法を使うことはできないはずなんだ。
だからこれは圧倒的な召喚獣自身の強さ。
シェリーとはまた違う召喚術士としての格の違い。
「……っ、でも負けられねぇ!」
こいつを止めなきゃ、もっと被害が出る。塔にいるみんなを……そして何よりオリビアを守らなくてはならない。
「ソウルさん……!」
吹き飛ばされそうなオリビアはしっかりとソウルにしがみつきながら語りかけてくる。
「私も……私も戦います」
「……っ、でも……」
奴は危険な召喚獣。そんな危険な戦いにオリビアを巻き込むわけにはいかない。
そんなソウルの心を察してオリビアは続ける。
「ソウルさんは私のことを仲間だって言ってくれた。もう、私もあなたに隠すことは何ひとつだって無い。本当の意味で仲間に……あなたの力になりたい。これからはただ帰りを待つだけじゃなくて、一緒に歩んでいきたいんです」
「オリビア……」
真っ直ぐに目を見つめてくれるオリビアの覚悟が伝わる。
「……分かった。一緒に戦ってくれるか?オリビア。あいつを倒すぞ」
「はい……」
嘘偽りない気持ち。今、本当の意味で仲間となった2人は互いに手を取り合い、目の前に顕現した脅威に立ち向かうのだった。