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クトゥグア討伐戦17【黒騎士襲来】

 ディアナの塔の医療班は騒然となっていた。


「早く!怪我人はこちらへ!!」


「いてぇ……いてぇよぉ……」


 次々と運ばれてくる怪我人達にオリビアとその他の医療班達は目を回す。


「オリビア!この人は重症、一刻を争うわ!」


「分かった……!【地霊】のマナ、【アースキュア】!!」


 オリビアの手から放たれた光を受けて、息も絶え絶えだった青年の呼吸が次第に穏やかになっていく。


 回復魔法を扱えるオリビアは主治医であるハンナからの要請を受け、この医務室で治療の手伝いを行っている。


 次から次へと運ばれてくる怪我人の対応で医務室はもう混乱の渦中にあった。


 そんな一刻も争うような医務室でオリビアと他にも治療魔法を扱える術士も加わり、その対応に必死に食らいついている。


「……っ、はぁはぁ」


「大丈夫?オリビアちゃん……」


「だい、じょうぶです、これぐらい!」


 流れる汗を拭いながら、オリビアはまた医務室の中を駆け回る。治療魔法は負担の大きい魔法。本来は乱用できないけれど出し惜しみもしていられない。


 エヴァもパメラもアランさんも……シーナも……そして、ソウルさんも。


 きっと、みんな戦っている。だから、私もこんなところでへばっていられない。私の力で救える人が1人でもいるのなら、休んでなんかいられない。


「次の人は……!?」


「オリビアちゃん、こっちに……」


 そうやってまた次の重傷者に回復魔法をかけようとした、まさにその時。





「きゃああああああああああ!!!!」





「っ!?」


 医務室の中に1つの悲鳴が響く。


 何事だろう?


「ハンナさん、ちょっと見てきます!」


「あ、オリビアちゃん!?」


 治療魔法をかけ終えたオリビアは騒ぎの元へと駆ける。


 きっとハンナさんは手が離せないだろうと、そう思い医務室の扉を開いた。



「……え?」



 すると、すぐそこに立つのは真っ黒な鎧に身を包んだ男。闇より暗い鎧に身を包むと言われるその男の容姿を見て、オリビアの脳裏に浮かんだのは1人の存在だった。




「見つけたぞ、オリビア」




 まさか、黒騎士……?


 黒騎士はオリビアの顔を見るなり、鋭い殺気をオリビアにぶつける。


「〜〜〜〜〜〜っ!?!?」


 何……?何何!?どういうこと!?


 何で、黒騎士がこんなところにいるの?


 何で、こいつが私の名前を知ってるの?


 何で、黒騎士は私を見るなりその剣を振り上げているの?


 そんな疑問が次々と湧き上がる中、黒騎士がその剣をオリビアに向けて振り下ろす。


 間違いない。狙われているのは……私……?


 突然の事態に茫然と立ち尽くすしかないオリビアは振り下ろされる刃に目が釘付けになる。



「逃げろ!オリビア!!」



 そんなオリビアを守るように1人の兵士がオリビアを突き飛ばす。


 それを皮切りに医務室の警護にあたっていた兵士達が一斉に武器を構え黒騎士に襲いかかる。


「理由は分からん!だが、こいつの狙いはお前だ!!」


「少しぐらいは時間を稼ぐ!お前の力があれば救える命がたくさんあるんだ!!だから……だから!」


「で、でも……、でも!」


 そう言い合う間にも黒騎士は立ち塞がる兵士達を斬り飛ばしていく。


 飛び散る鮮血を背景に兵士はあらんかぎりの声で言う。



「いいから……早く、早くいけええええええええ!!!!」



 決死の覚悟で叫ぶ兵達。


 小さなため息をつくと、黒騎士はその剣をひと薙振るう。


 バギィッ!



「うぎゃぁぁあ!?!?」


 黒騎士の剣は武器ごと兵士を引き裂く。


「っ!」


 ダメだ……!


 オリビアはすぐさま身を翻し、人気のないディアナの塔の廊下を駆け出した。


「逃がさんぞ」


「行かせない!」


「オリビアはやらせないぞ!!」


 ごめんなさい……!ごめんなさい……!!


 オリビアは涙を流しながら駆ける。


 私がこの場に留まり続ければ、きっと彼らは命尽きるその瞬間まで私を守ろうとしてくれるだろう。


 それに、医務室には多くの怪我人がいる。ここを戦場になんてできるわけがない。


 だから、一刻も早くこの場を離れないといけない。


 そうすれば、きっと黒騎士も彼らにとどめを刺す前に私を追ってくる。


 彼らを救うために、私はできうる限り遠くに逃げなければならない。


「……っ!」


 オリビアは吹き抜けになった塔の中心へと跳ぶ。


 そして、そのままマナを溜めて魔法を展開した。


「【地霊】に【(イバラ)】のマナ!【薔薇(バラ)】!」


 オリビアの手から茨の鞭が放たれ、廊下の枠へと引っかかる。そしてそのまま下の階へと逃れた。ここは1番人員配置が少ないはず……!


 ここでなら例え戦闘になっても被害は出ない。


 ここのどこかに身を隠せれば……。


 ゴッ!



「……そうは、いかないですよね」



 背後から迫る気配。すぐに追いつかれるとは思っていたけど、早すぎる。


「さぁ、ここまでだオリビア!」


「【地霊】に【分散】のマナ!【紫陽花(あじさい)】!!」


 剣を振りかぶる黒騎士にオリビアが手を振ると、その手から重なるような花の花弁が放たれる。


「小賢しい技を……」


 その溢れるような花びらに視界を阻まれ、黒騎士の剣は空を斬る。


 ダメ……こんなんじゃダメダメダメ!


 少しでも、時間を稼ごう。私を殺した後は、きっと他の人を襲うだろう。なら、1秒でも長くこいつをここで足止めする。そうすれば、きっと強い人がこいつを止めに来てくれる。


 それまで……それまで、何とか堪えるんだ。


「【地霊】に【幻惑】のマナ!【ダチュラ】!」


 すかさずオリビアは次の魔法を練る。


 地を転がりながら手を地面に当てると、地面からいくつものツルが生えて黒騎士に迫る。


「邪魔だ!」


 黒騎士はそんなもの意にも返さずに全て一刀両断してしまう。


「よし……」


 しかし、それはオリビアの狙い通り。



 ボシュッ!



 黒騎士に切られたツルの断面から白い粉が吹き出し黒騎士に浴びせられる。



「……む?」



 それを受けた黒騎士の体がグラリとフラつく。


「ダチュラという植物には幻覚作用があります!」


「……なるほど。お前の魔法は植物を操る力と言うわけか」


 膝をつき、頭を押さえる黒騎士にオリビアはさらに魔法を発動させる。


 どこまで通用するか分からないけど、少しでも痛手を与えて見せる!



「【地霊】に【侵食】のマナ!【トリカブト】!!」



 オリビアの前方に蒼い花が咲き乱れ、黒騎士に迫る。


 これが、オリビアの扱える最強の攻撃魔法。この花に触れた者に身を焼くほどの毒を与える魔法。


 本来、オリビアの魔法は戦闘向きじゃない。敵を惑わせたり、眠らせたり。そう言ったトリッキーな魔法しか扱えない。


 だから、これが今できるオリビアの最善手。通じるとは思えないけれど、せめてこれで動きを封じることができれば……!



 ゴッ!!



 しかし、オリビアの予想を裏切り見事蒼い花達は黒騎士を覆い尽くした。


 き、決まった……!?



「こ、これで……」



「すまないが……この程度では足止めにもならないさ」



 しかし、オリビアの攻撃を受けてなお、黒騎士は毒が回るどころか怯む素振りを見せることなく立ち上がる。


「……っ【紫陽花】!」


 再びオリビアは大量の花びらを生み出しその影に身を隠そうとした。


「ふん」



 ザシュッ



「あぅっ!?」


 しかし、同じ手は黒騎士には通じない。


 隠れたオリビアへ正確に斬撃を放つと、その剣は彼女の肩を斬りつけた。


「う……」


 肩を突く焼けるような痛みにオリビアは地を転がる。


 ダメ……!動いて、動いてよ私の体!このままじゃ……。



 ドスン



「ぎゃっ!?」


 そんなオリビアの腹に黒騎士は容赦することなく蹴りを放つ。


 腹部に走る鈍痛に、オリビアの呼吸が奪われる。


「かっ…はぁ……」


「ここまでだ、オリビア」


 そして虫のように身を捩らせるオリビアに黒騎士は剣を突きつける。


 チェックメイト。


 もう、何をしても逃れることは叶わないだろう。


「……なん…のために?」


 追い詰められたオリビアは目の前の黒騎士に問いかける。



「どうして……私を……?」



「……それは言えない。すまないな」


「そう…ですか」


 死が、目前に迫っていると言うのにオリビアは不思議と落ちついていた。


 これで、終わるのか……と、素直にその運命を受け止めることができた。


「やはり、お前は死による贖罪(しょくざい)を望んでいるのだな」


 すると、そんな運命を悟り抵抗をやめたオリビアにふと黒騎士はそんなことを告げる。


「死による贖罪……ふふっ。そう…ですね、私はそれを……望んでいるのかもしれませんね」


 初対面である黒騎士に……しかも、自分を殺そうとしてくるこの男に不思議な親近感を感じながら、霞のような意識でオリビアは自分の感情を吐露する。


「私は……決して許されないことを…しました。あの人を……ソウルさんを。そして……みんなを騙してきた。その報いを受ける時が……来たんだって、そう思います」


 そう、これは私の罰。


 あの大切な仲間達を騙して来た罰なんだ。

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