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クトゥグア討伐戦9【反撃】

 エヴァはディアナ教徒から簡単に戦況を確認する。


 現在前方ではクトゥグアとアランが激突。戦線はほぼ膠着気味だがアランが押されているらしい。


 左右魔導機隊はクトゥグアの手下によってほぼ壊滅。


 特に左翼の被害が甚大でここまで乗り込んでくるのは時間の問題。それに敵の能力でこちらの陣営の人間が操られているようだ。


 その操られた味方がまた味方を襲い、また敵側に……。その連鎖でもはや収集がつかなくなっている。


 後衛部隊は奇襲をかけてきたアイリスによってほぼ壊滅。今はシーナが応戦しているそうだ。


 そして……。


「黒騎士……」


 突如として現れた強敵。彼とパメラが交戦に入ったとの知らせだ。


「では、アリア。あなたはすぐに右翼側の援護に向かってください!そして形勢を取り戻し次第クトゥグアへの攻撃を再開させる様に!」


 コクリと頷いたアリアはそのまま右翼魔導機隊へと走り出す。


「闇聖剣はシーナさんに任せようと思います。大丈夫でしょうか?」


「……っ、あぁ。きっとシーナなら勝ってくれるはずだ」


 正直心配ではあるが、ここはシーナを信じるところだ。きっと、強くなったシーナならあのアイリスにも勝利してくれるはず。


「エヴァ様!左翼側はいかがなさいましょう!?」


「……人を操る炎の魔人」


 エヴァはしばし考え込む。


 正直、この状況では1番厄介な相手だ。敵の炎には味方を操る力がある。そして、交戦した仲間の情報によれば、操られた味方はまだ生きているらしい。


 炎に焼かれる苦痛のまま。苦しみ仲間を襲う。


 できれば彼らを無事に助けてやりたいが……。


「水魔法で敵の炎を消してはだめなのですか?」


「それが……なにぶん特殊な魔法で水の魔法をかけても火が消えないのです」


「厄介だな」


 何か別の方法で炎を消しとばす手段があればいいのだが……。



「……炎を、消す?」


「ソウル様?」



 ソウルは自身のバックパックの中身をまさぐり、小さな薬の小瓶を取り出す。


「それは……?」


「……ったく、あの婆さんめ。ここだな?ここでこれを使えってことだな」


 【火炎追放者(ファイアエグザイル)】。


 スカーハ婆さんから受け取った炎を払う薬。それも生きた人間のみに有効。


 人を操る炎なら、それを払ってしまえばいい。そうすればその魔法は解け、操られた人を助けることができるはず。


「なぁ、エヴァ!俺が左翼に行く!これを使えばきっとみんなを助けることができるはずだ!」


「っ、そうなのですか!?」


「あぁ、だから……」


 そう言ってソウルが駆け出そうとした、その時だった。



『エヴァ……さま……?』



 突然、そこにパメラの声が響く。


「っ!パメラ!?いったいどこに……」


「エヴァ様、これです」


 そう言ってマコの貧相な胸元から顔を出すのは1匹のリス。


 おいマコさん、あなたいつからそんな破廉恥な子になってしまったんだ、とソウルは慌ててそこから目を逸らす。



 ズシッ



「うわぁぁぁあ!?目がぁっ!?」


「ヴェンは見ちゃダメだよ?ヴェンが見ていいのは私だけだからね?」


 隣ではヴェンがマコの胸元を見ないようにエリオットさんから目潰しをくらっている。


 ……ちなみに、エリオットさんの放つ迫力は半端ない。


「この子はパメラ様と通信が繋がるようになっています」


「っ!パメラ、無事で何よりです!すぐに人を向かわせますから……」


『ううん……それよりも、大変なの……』


 弱りきった声でなお、パメラは告げる。


『ごめんなさいなの……。黒騎士に負けちゃった…。でも、あいつの狙いが分かったの』


「狙い?」


 突然、クトゥグアと共に来襲した謎の男黒騎士の狙い。そのパメラの次の言葉にみんなの意識が集中する。




『黒騎士は……オリビアちゃんを、殺すつもりなの』




「……え?」


「は……?」


 パメラの言葉に言葉を失ったのはエヴァとソウルだけじゃない。他の皆も同じだった。


 きっと、浮かんだ疑問も皆同じ。


「な…んで……?」


 オリビアはただの1魔導機技師。確かに珍しい地霊の回復の力を持ってはいる。


 かと言って、どうしてオリビアが狙われる?


『わ…からないの……。でも、あいつが言ったの。オリビアちゃんを殺さないといけないって』


 分からない。何故ピンポイントでオリビアを狙う?何か理由があるのか?


「……っ」


 エヴァの心が揺れる。


 戦況は厳しい。正直な話オリビア1人の為に人を割くわけにはいかない状況だ。


 でも……でも、オリビアはエヴァにとってかけがけのない親友。


「エ、エヴァ様。ご決断を……!」


 けれど、私の個人的な感情で……ディアナ教の皆を危険に晒すことなんてできるはずがない。


 じゃあ……じゃあ、オリビアを見捨てないといけないと言うこと……?


「……っ!」


 どうする……?


 オリビアを見捨てるなんて……そんな、そんなこと!?



「ソウル」



 すると、そのやり取りを聞いていたヴェンがソウルの肩を叩く。ちなみに目は真っ赤だ。


「左翼側の援護には僕が向かうよ。その薬を使えばいいんだよね?」


「ヴェン……!」


「黒騎士……僕も噂に聞いたことがある。危険な奴なんだよね?だったら黒騎士を放っておくのはそれこそ危ない。オリビアさんのことを抜きにしても、奴を止めるべきだと思う。それに……守りたいんだよね、その子のことをさ」


 ……ほんと、お前とことんかっこよくなりやがって。そりゃあエリオットさんも惚れるわけだよ。


「……あぁ」


「ま、待ってください!」


 そんなソウル達の会話を聞いてエヴァはソウルに問いかけてくる。



「あなたは……オリビアのこと、恨んでいないのですか?」



「恨む……?」



「オリビアは、ずっと自分を責めていました。あなたから全てを奪ってしまった……と」


「……」


 確かに、ソウルがイーリスト国を離れることになってしまったのも、それで自身が積み上げてきたものを失ってしまったのはオリビアの行動が決め手だった。



「そうだと言うのに……あなたは、オリビアを救うと……そう言ってくれるのですか?」



 そっか。そんな風に思ってたんだな、オリビア。


 何故彼女がソウルに顔を見せに来なくなったのか、ようやくその答えがわかった。


 何だ……そんな理由だったのかよ。


「……ははっ」


 思わずソウルは笑ってしまった。


 よかった……。オリビアは、今も変わらずソウルの知るオリビアだったんだ。


 少しお節介で、料理が下手で。面倒見が良くって……そして、優しくて。


 ソウルが、ずっと側にいて欲しかった彼女のままだったんだ。


 決して、ソウル達のことなんてどうでも良くて、彼女の使命のためだけにこれまで過ごしてきたわけじゃなかったんだ。


 その事実に、ソウルは安心した。



「当たり前だ。俺はオリビアに何度も何度も救われてきた。それに……」



 オリビアは入団試験で傷ついたソウルを癒してくれた。


 何も知らないソウルに、イーリストの街のことをたくさん教えてくれた。


 ソウルが召喚魔法のことを打ち明けた時だって、受け入れてくれた。


 そして何より、ずっとソウル達のそばにいてくれた。


 俺たちが帰ってくるのを、いつもいつも待っていてくれた。



「文句のひとつでも言ってやらなきゃ気がすまねぇからな」



 ソウルはそう告げるとマナを溜める。


 込めるマナは【武装召喚】に【風神】のマナ。


 付与される【保有能力(アビリティ)】は【浮遊(フライ)】の力。


「ソウル様!オリビア様はこちらにいます!」


 宙に浮かぶソウルにマコはディアナの塔の地図を渡す。そこには赤いチェックが記されている。


 流石マコ。仕事が早い。


「エヴァ、オリビアのことは任せろ!そっちは任せるぞ!」


「……っ!はい、分かりました」


 そう言い残してソウルは【浮遊】の力で飛び去った。


 それを見届けたエヴァもすぐさま行動を開始する。


「では、私はアランの元へ向かいクトゥグアを相手します!行きますよ!」


 戦況は厳しいが、希望が見えてきた。


 こうして、クトゥグア討伐戦。シンセレス側の反撃の狼煙があがった。

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