クトゥグア討伐戦4【詰み】
「く……!?」
マシューは戦況を見てギリリと歯を食いしばっていた。
クトゥグア単体を包囲するために、現在街を取り囲むような形で魔導機を展開している。
ところが、1人だと思っていたクトゥグアの身体から放たれた2体の下僕。
それらが左右の魔導機隊に分かれ、部隊を潰しに動いている。
こいつらもまた、なかなかに手強くディアナ教の精鋭達をぶつけているが、有効打が出ない。いや、むしろ押されている。
このままだと左右魔導機隊は全滅だ。
クトゥグアは【雷光のアラン】が何とか食い止めているが、防戦一方でどうしようもない。
「パメラは!?」
「それが……街にはもう入っているはずですが連絡がありません!!」
「くそ……!」
あの小娘め!こんな非常事態に……。おそらくエヴァを探しておるのだろが、お前の対策は打ってある。
とっとと諦めて戦線に加われば良いものを……。
「伝令!伝令!!」
すると、連絡係の男が切羽詰まったように飛び込んでくる。
「何事だ!?パメラが見つかったか!?」
「いえ!新たな敵です!!それも2人……うち1人はディアナの塔前方でイーリストから来た【火聖剣】の女と交戦を開始!」
「何だと!?どこから入られたんだ!?」
「分かりません!しかし、その女の襲撃でディアナの塔後衛部隊はほぼ全滅!!倒れた兵士たちがまるでゾンビのように我らの軍を攻撃し始めています!!その特徴から恐らく敵は【闇聖剣】の使い手です!」
「【闇聖剣】だと!?」
バカな……敵はクトゥグア1人じゃないどころか、聖剣!?
闇聖剣は覇王側についたのか!?
そもそも何故後から後から敵が現れる!?
まさかパメラが虚偽の申告を?いや、それはない。ならば、パメラの索敵能力を持ってしても感知できないほどの潜伏能力を持っていたと言うことか!?
「そして、もう1人は現在パメラ様とリュカと交戦中。その特徴からして恐らく【黒騎士】です!」
「バカな!?」
あの世界最強とも噂される謎の魔法使い、黒騎士だと!?
「えぇい、ならば魔導部隊で一斉攻撃を……」
「伝令!左翼魔導機部隊、 ほぼ壊滅状態です!!あのクトゥグアの分身体の力により、焼かれた兵達が仲間を襲い、もはや収集がつかなくなっています!!」
「右翼魔導機部隊!何とか戦線を維持していますがもうこれ以上もちません!!」
「ふざ…けるなよ……。何故、何故こんなことになったんだ……」
もう……こんな状況ではどうしようもない。
完全に、敗北。頼みの綱である魔導機隊は半分以上が壊滅。もう残りも時間の問題だろう。
そして、5人もの強敵……。無理だ、勝てるはずがない。
だが、引くことだってできはしない。引けばオアシスの住人皆が死ぬ。
『敵は魔人……それも【10の邪神】の一角【劫火のクトゥグア】ですよ!?何が起こるか分からない!そんな危険に民を巻き込むわけにはいかない!!』
エヴァの言葉が脳裏に蘇る。
くそ……くそぉ!!あの小娘の言ったことが正しかったとでも言うのか!?
いや、違う違う違う!!あの小娘如きが戦線に加わったところで戦況は変わりなどしない。
そうだ……私は間違ってない。きっと、どう足掻いても勝てなかったんだ。だから……だから……!
「マシュー様!どうか……どうか指示を!!」
「このままではオアシスは……いや、もうシンセレスは終わりです!!」
「わ、私は……間違ってなど、いない」
ガクリと膝をつき、絶望に心を支配されたマシューには部下の言葉など届かない。そのままガタガタと震え上がり思考を放棄するしかないのだった。