クトゥグア討伐戦3【エヴァが捉えられた場所】
シーナにアイリスを任せたパメラは街を駆けていた。
「戦況は……どうしようもないの」
空を飛ぶリュカから状況を聞いたパメラは思わず舌打ちをする。
マシュー頼みの魔導機隊は、クトゥグアの分身によってほぼ壊滅。
アラン君は本当にたった1人でクトゥグアとぶつかり、時間を稼いでくれている。
せめて、シーナと2人でクトゥグア戦に加わることができればエヴァのことはマコに託して戦いに専念できると思ったのに、ここに来て新たな敵……しかも【闇聖剣】だ。
なら、パメラはどうすればいい……?魔導機隊を守る?アラン君に加勢する?それとも、一刻も早くエヴァ様を救出しに動く?
「あ〜、もう!エヴァ様は一体どこに捕まってるの!?まさかもうディアナの塔にいないの!?」
『だ、大丈夫ですか!?パメラ様!?』
1人で叫ぶパメラに通信先のマコがビックリしたように声をかけてきた。
「だ、大丈夫なの。それよりそっちはどう?」
『塔の内部はもう混沌と化しています。もうマコたちに構ってる余裕もなさそうなので堂々と塔の中を走り回ってます』
確かに、国の存亡の危機の最中では小鼠の1人や2人些末な問題だろう。
『パメラ様。マコも色々と考えてみたのですが……。ソウル様達はすぐに分かるような場所には捕らえられていないと思うのです』
「それはパメラもそう思うの!だから地下牢から塔のてっぺんまで全部調べたけどどこにもいないの!」
外からも中からも。聖堂も教徒達の部屋の1つ1つまで全てだ。
「もうほんとに!どうやってエヴァ様を隠したのか、まるでこうなる日を待ってたみたいな周到さ……もうディアナの塔にはいないのかも……」
『パメラ様。そこです』
すると、マコが確信をつくようにパメラに告げる。
『そう、マシューはいつかこのような日が来ることを計画していたのかもしれません。だとしたら、マシューが普段から出入りしている場所……もしくは彼の部屋そのものが怪しいとマコは思います』
「分かってる!だから1番にあいつが行きそうな場所と部屋は調べてもらったけど何もなかったの!」
『本当に、全てを探しましたか?』
マコの指摘にパメラは言葉を詰まらせる。
『マシューはパメラ様の力のことを知っているはずです。エヴァ様を拘束した際は、パメラ様の力を1番に警戒するでしょう。パメラ様の力に何か弱点……或いは抜け道のようなものはありませんか?』
そうだ……言われてみればそうじゃないか。あの小狡いマシューが一番厄介なパメラを野ざらしにするなんて、おかしな話だ。
何故パメラを拘束しなかったのか?
答えは簡単だ。パメラの力を見越して、対策を立てたから……。
「……パメラの力で直接感覚を共有できるのはあくまでも数匹。だからエヴァ様とアリアちゃん、そしてソウル君の顔をみんなに伝えて、それを見つけた子からパメラに声が届くように指示を出したの」
『では、パメラ様。交信している動物達の動向を見て、1番それが手薄かつマシューがよく出入りしている場所はあったりしますか?』
「……っ、ちょっと待ってなの!」
パメラはディアナの塔の地図を広げてじっとそれを睨みつける。
「……ここなの」
塔の中を走る動物達の気配を感じながらディアナの塔の地図をじっと見つめる。マコの言う2つの条件を満たす場所。
「マシューの……執務室」
ここだけ、パメラが最初に送り込んだ子以外誰も出入りしていない。
『恐らく、そこに動物を遠ざける術か或いはもっと物理的な薬品か……そんな物が仕掛けられているのでしょう。恐らくそこです!』
通信先のマコが一気に駆け出したのが分かる。
「待って!パメラも向かうの!だから……」
そう叫び、再びパメラが走り出そうとした、その時。
「失礼、お嬢さん。1つお聞きしたいことがあるんだが……お時間よろしいかな?」
「〜〜〜〜〜っ!?!?」
突如パメラの背後から冷たい声が投げかけられる。
冷や汗を流しながら振り返ると、そこには闇よりも暗い鎧に身を纏った1人の男が立っていた。
「……う、そ」
その姿の存在を、パメラは1人しか知らなかった。
何で……?何でこの男が……。
「黒…騎士……?」
「おぉ、私のことを知っているのか。なら話は早いな」
どこか愉快そうに告げる黒騎士にパメラは臨戦態勢をとる。
『パメラ様?パメラ様!?どうなさいました!?パメラ様!?』
「……マコちゃん。パメラどうやら行けなくなっちゃったみたいなの」
腰に刺した短刀を抜きながら震える声でパメラは言った。
「だから行って!必ずエヴァ様を助け出して!!」
そうマコに全てを託したパメラは全ての動物達との交信を切り、目の前の最強の敵に立ち向かった。
ーーーーーーー
「な、なぁっ!?」
パメラをつけてきたマシューの部下はそこに現れたその存在に震え上がる。
何故……?何故黒騎士がここにいる……!?それだけじゃない。【闇聖剣】だと?
敵は、クトゥグアだけじゃなかったのか!?
「ま、マシュー様に……マシュー様に、伝えなければ……!!」
パメラの動向を追っている場合じゃない。気づかれる前に、一目散に彼はディアナの塔に向けて逃げ出した。
ーーーーーーー
「パメラ様?パメラ様!?」
階段の物陰でマコは何度も何度も声をかけるが、その声は虚しく塔の中に響くだけ。
どうやら、交信が途絶えたようだ。
きっと、彼女の身に何かがあったに違いない。
「……いきましょう」
ダメだ。パメラの安否が気になるが、マコにはマコのやらなければならない重要なことがある。
パメラの想いを無駄にするわけにはいかない。
そしてマコはパメラから示されたマシューの執務室へと駆け出した。




