クトゥグア討伐戦2【襲撃者】
「ぐっ!?」
アランは咄嗟に後方に飛び退いて衝撃を殺す。
しかし、それでも殺しきれない爆炎にアランは何Mも地を転がった。
「へぇ……いい反応してるじゃねぇか」
「バカな……確かにお前を斬り倒したはずだぞ!?」
よろりと立ち上がりながらアランは2つに分かれてしまっているクトゥグアに叫ぶ。
「あぁ、これか?今の奴らはこれが珍しいのかよ」
「っ!」
すると、斬られたクトゥグアの断面がボウッと炎に覆い隠され、そのままピタリと泣き別れした身体が1つに元通りになった。
「知ってるだろ?【保有能力】、【紅蓮の身体】。あたしの身体は全て炎で構築されてる……つまり、実態がないのさ。だから全ての攻撃はあたしに通用しない」
「ふ…余裕だな。そんな情報を易々とこちらに教えるとは」
「ハンデってやつさ。教えたってあんたらがあたしになんのダメージも与えられないって事実は変わんないからね。あたしのこの力をどうにかして見せたのは覇王様とあいつだけだ」
「あいつ……?」
「あぁ。歴史の影に消えた英雄さ」
歴史の影に消えた英雄……?
「さぁ、お話は終わりだ!存分にやろうぜ【雷聖剣】!あんたがどこまでもつか……あたしを楽しませてくれよ!!」
全身から赤い炎を撒き散らすクトゥグアはそう言ってアランに襲いかかってきた。
頼む、パメラ……!早く、早くエヴァ様を……。
こんな化け物を何とかできるのはきっとエヴァ様しかいない。
「うおぁぁぁぁぁあ!!!」
迫る炎の邪神にアランは独りで立ち向かった。
ーーーーーーー
「始まったの」
「……うん」
絶え間なく響く爆音を聞きながら、パメラとシーナは街の中を駆けていた。
2人がいるのはオアシスの街の西側の区画。
エヴァ救出の為に何十匹ものネズミや小鳥を使役し、塔の中を探らせている。
しかし、まだどの子達からもエヴァを見つけたという情報は来ていない。
「まさか、ここまで見つからないとは思ってなかったの」
おかしい。いくらなんでも見つからなさすぎる。
おかげでパメラは彼女はかなり消耗している様子だった。
「マコちゃん、そっちの様子はどう?」
パメラは肩に乗せたリスにそっと話しかける。
『はい。こちらは信用できる仲間と合流してディアナの塔への潜入をはかっているところてす』
【友愛】に【ルーン】と【共鳴】のマナ。【中間意思疎通】。
ルーンを刻んだパメラの使役する動物を介して離れた相手と会話ができる魔法だ。
「……すごい便利だね」
「ん?あぁ、そっか。イーリスト国にはあまり【ルーン】のマナは伝わってないから珍しいのかも」
「……うん。【ルーン】のマナなんて聞いたことない」
「【デバイス・マナ】は地方別に特色があるの。イーリスト国は魔法を『使う物』っていう認識が強いから【剣】とか【槍】とか、武器系のデバイス・マナが発達したの。ここシンセレス国は、魔法は【宿る物】として考えてるから、【ルーン】のデバイス・マナが発展して言ったってわけ」
「……【ルーン】……一体どんな魔法なの?」
「オリジン・マナには属性ごとに異なる性質を持ってる。例えば【風】だったら速さとか、鋭さ。パメラの【地】だったら優しさとか、調和とか」
確かに……。何となくではあるけれど、形は違えど属性ごとに得意とする魔法は偏っているような気はする。
「シンセレス国の魔法は、その性質の方により力を傾けたものが多いの。その中で生まれたのが【ルーン】のデバイス・マナ。属性ごとの性質をより色濃く浮かび上がらせることができるマナなの」
なるほど……。だからパメラの魔法は【地属性】の優しさとか調和といった性質があり、その力を【ルーン】として動物に付与することで動物の力を借りたり操ったりできると言うわけか。
「……魔法って、奥深い」
「そうだよ?考え出したらキリがないの。パメラももう何年も研究してるけど、まだまだ終わりが見えないし」
「……何年も?」
そんなパメラの言葉を聞いてふとシーナはとある疑問が頭に浮かぶ。
「……パメラって、何歳?」
「……ん?」
にこにことした笑顔でパメラは首を傾げる。
「……えと、パメラって」
「ん?」
「……」
笑顔のまま微動だにしないパメラにシーナは言いようのない恐怖を感じる。
「……何でもない」
「そうなのー?」
にこにこと笑顔を振りまくパメラに戦慄しつつシーナがため息をついた、その時だった。
「う、うわぁぁあ!?」
「ひっ……く、来るなぁ!?来るな……ぐぎゃぁあ!?」
「「っ!?」」
街の中から兵士達の狂ったような悲鳴が響き渡る。
「何……?」
声の方に目をやると、路地裏から、1人の血まみれの兵士が転がるように飛び出してきた。
「あ…あぁぁ……助けて……助けてくれ!化け物が……イカれた女がぁ……!!」
カタカタと震えながら、2人に手を伸ばす。
ザシュッ
「かへぇっ……」
だが、その次の瞬間。男の首がゴトリと地に落ち、地面を血で真っ赤に染めた。
ぬらりと路地裏から現れたのはピンクの髪と黒い瞳の少女。両の手には鉄を岩で砕いたような一対の双剣を握り、それは返り血でポタポタと赤い雫が垂れている。
突如現れた禍々しい空気を放つその少女にパメラは戦慄する。
「なっ、何あの子!!」
「……!?アイリス!?」
「あはぁ……見つけましたよ……ねぇさぁん!!」
シーナの顔を見つけるや否や、アイリスは悍ましい笑顔を見せながらシーナに飛びかかってきた。
「……っ!【朧村正】!」
ズシン!
互いの武器がぶつかり合い、街中の空気が激震する。
「シーナちゃん!?」
「……下がってパメラ!こいつの狙いは私だから!!」
「よぉく分かってるじゃないですか姉さん!!そうです、私はあなたを殺す!殺して殺して殺して殺して!!血祭りに上げるんです!!」
「ひ……」
狂ったように吠えるアイリスの異質さに、パメラは戦慄する。
一体……何が人をここまでおかしくさせてしまうのだろう。
「……【瞬撃】のマナ【天羽々斬】!」
アイリスに時間をかけられない。ここは一気に片をつけさせてもらう。
7本の刀が展開され、それらが一斉にアイリスへと襲いかかる。
「【瞬撃】のマナ!【亡者の行進】!」
対するアイリスも【瞬撃】のマナを練り上げると、いくつもの蒼白い人玉が彼女の周囲を旋回するように展開した。
「……新しい魔法」
「強くなったのは姉さんだけじゃありません!今度こそ…今度こそ姉さんをひねり殺す!そして私の魔法で姉さんを操って、弄ぶんです……あぁ、今からそれが楽しみで楽しみで、仕方ありません!!」
そう叫びながらアイリスが双剣を振ると、アイリスの人魂が一斉にシーナの【天羽々斬】を撃ち落とす。
ズドドドドド!!
「……っ」
1発1発の威力は低い。けれど、その圧倒的な数で乱れ打ちされればひとたまりもない。
「……【神剣】のマナ、【天野羽衣】!!」
迫りくる人魂の嵐をすり抜けるように回避していく。
「そこですね!【放出】のマナ!【闇】!」
アイリスの聖剣【ダーインスレイブ】から、走る一筋の黒い瞬き。
「……くっ!?」
まさか、放出のマナまで習得している!?
すんでのところで身を翻しながらシーナは地を転がる。どうやら掠ったらしい。【天野羽衣】がジュウと音を立てながら崩れ去っていく。
「さぁ……踊りましょうか姉さん。私と姉さんだけ……2人だけの死の舞踊を」
「……ほんっっと、あなたはいつもいつも邪魔ばっかり」
強くなって帰ってきた妹の禍々しい姿を睨みながらシーナは再びマナを溜める。
ここで、アイリスを放っておけば多大な被害が出る。必ずここは私が食い止めて見せる。
「……ああぁぁぁぁぁあ!!」
そう心に決めたシーナは再びアイリスに向かって斬りかかった。