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1人じゃない

 ソウルが意識を失ってからすぐのことだ。



 ドゴオオオオン!!



 遺跡の入り口の瓦礫が爆発する。


「……っ!」


 シーナは倒れるソウルを庇うように朧村正を構えた。



「ソウル!シーナ!!」



 すると、瓦礫をかき分けるようにしてレイが駆け出してくる。


「無事か!お前たち!」


 さらに後からカスパル率いる本隊が遺跡内へと入ってきた。


 よかった、援軍だ。


 それがわかった瞬間、シーナの張り詰めていた緊張が一気に解けた。



「レイ!ソウルが……ソウルが!!」



 シーナはレイにすがりついて叫ぶ。


 これまでとは違ってただの少女のように狼狽するシーナを見てレイは一瞬目を丸くした。



「分かった。すぐに救護班に見せよう!」



 だがそれは一瞬で、レイは一緒に突入してきた救護班を呼びに行ってくれた。


「お前も担架に乗れ」


 するとカスパルはシーナにそう指示を出す。


「……嫌、ソウルと一緒に」


「彼はきっと大丈夫だ。彼が目覚めた時に1番に迎えてあげられるように、君も治療をせんといかんだろう?」


 ふらつきながら立ち上がるシーナにカスパルはニヤリと笑いかける。


「……いや、別に、そんな」


 カスパルの言葉にシーナは頬を赤らめて顔を隠す。


 そして結局シーナも担架で運ばれることになった。そこでシーナは救護班の人から全貌を聞くことになる。


 地上の本隊は昼食に遅効性の薬を盛られたようで全員が眠りに落ちていた。一部難を逃れた騎士達は洞窟に入ったがやられてしまったとのことだった。


 遺跡から戻った新米騎士達が地上部隊の皆を起こして部隊編成、突入する。そして道中でレイと合流し、遺跡へとやってきたとのことだった。


 遺跡から出るとソウルとシーナを中心としたケガ人はすぐに山から降ろされて近くの病院で治療を受けることになった。


 そしてソウルは特に重傷で最低限の治療を受けた後、イーリスト城下町の大きな病院まで運ばれることになったそうだ。



「シーナも重傷だったじゃねぇか」


「私は体が頑丈だから」


「うらやましい……」


 どこか得意げに告げるシーナを見てソウルはため息をつく。


「……そういうソウルも、もう怪我治ってる」


「え?確かにほとんどもう大丈夫っぽいけど……そんなに俺酷い怪我だったのか?」


 ソウルは自身の身体を確かめるように触る。多少の痛みは残っているものの、大きな傷はないように見えるが。



「……それは、もう、凄かった」



 そう告げるシーナの顔色は悪い。


「……聞かない方が良さそうかな」


 戦っていたときは必死だったのでよく分からなかったが、今ここで聞いたらトラウマになりそうだ。知らぬが仏というやつだ。


「それじゃ、他のみんなは?」


「レイとエレナは今審問を受けてるところ」


 シーナはベットにもたれながら答える。


「はぁ!?あいつらなんかやったのか!?」


「違う、ヨーゼフのこと」


「あぁ……なるほどな」


 ソウルは納得した。


 シーナの話によると、どうやらエレナの肩の傷が決め手になったらしい。


 あのヨーゼフが使った【血がつかない剣】はその傷跡にも特殊な痕跡を残すらしく、仕込み刀が決定的な物的証拠として取り上げられてヨーゼフの悪行が明るみに出ることになった。


「これまでの仕返し分、たっぷりやり返さなきゃあなぁ!!」とエレナは息巻いていたとのこと。エレナらしいな。


「じゃあこれで、一件落着だな」


「そうだね」


 ソウルの言葉にシーナも穏やかな表情で答える。


 黒騎士とかいう男の出現やアイリスを取り逃したことは何とも言えないが、今は生きてここにいる幸せを噛みしめよう。


「…………」


「…………」


 しばし、沈黙が訪れる。だが、最初の頃とは違って不思議と気まずさは感じなかった。



「ねぇ、ソウル?」



 すると、シーナが沈黙を破ってふいに尋ねてくる。


「なんだ?」


「どうして、あの時私を信じてるって言ってくれたの?」


「何でって……シーナのこと、信じられるって思ったから……かな?」


 そういうのって、理由があって言うことじゃない。だからソウルはシーナに返せる明確な答えなんて持ち合わせていなかった。


「今まで、そんなこと言われたことない」


「え?」


 ソウルはどこか影を落とすシーナの顔を見つめる。


 シーナは少し息を吸い込むと溜まっていたものを吐き出すように告げた。




「アイリスが言ってたことは全部、本当だよ」




「…………」



 その言葉に、彼女の人生の苦しみが体現されているように感じられた。


 これまでのシーナの人生がどんなものだったのか、とソウルは思った。きっと、辛く、苦しかったのだろうと考えるとソウルは胸が痛くなる。


「酷いでしょ?私……」


「……何か、事情があったんだろ?お前は理由なく誰かを傷つけるような奴じゃねえよ」


 シーナはソウルの言葉に少しびっくりしたような顔をすると、ぷいと目を逸らし、そしてソウルに問いかけてきた。




「ねぇ。私はソウルの目にどんな風に映ってる?」




 シーナは横目でこちらを伺いながら告げる。


 その様子はまるで何かに怯える小動物のようだ。


「……別に、ただの女の子にしか見えねーよ。ジャガーノートだろうが何だろうが、お前はシーナって言う女の子でしかないと思うぞ」



 そしてソウルは再びベッドに寝転がりながら告げる。




「.......だから、これからは自分1人犠牲にしようとしたり、あんな無茶はするな」




「どうして?」


 すると顔を逸らしていたシーナがこちらに顔を向けて問いかけてくる。


「ど、どうしてって、そりゃあ.......」


 まさかの事態にソウルは言葉に詰まる。



「ねぇ?どうして無茶しちゃダメ?」



 そんなソウルをよそにシーナはグイグイ顔を近づけて問い詰めてくる。ルビーのように輝く瞳がこちらを見つめ、ソウルはどんどん追い詰められていく。


「え、いや……その……うおっ!?」



 ガバッ。




「……ねぇ、どうして?」




 気づけば半ばシーナに押し倒される形になり、息と息がかかる距離に彼女の端麗な顔があった。


 もう、はっきりと言葉にして答えないとシーナは許してくれなさそうだ。


「い、いなくなって欲しくないからだよ」


 ソウルは照れくささを堪えながら答える。


「……じゃあさ、ソウルはさ」


 すると、シーナは少し言葉を選ぶように間を開けながら問いかけてきた。



「私が、そばにいて欲しい?」



 シーナは首を傾げて聞いてくる。その仕草はこれまでのシーナとは違った可愛らしい動作だった。


 その言葉を聞いてソウルは思案する。


 見習い騎士になってから、チームにはシーナがいた。そしてこれまでずっとシーナのことを考えて過ごしてきた。それがなくなるとどうなるのだろう。



 きっと張り合いがなくなるだろうな。



「いてくれないと……寂しいな」



 それはソウルから本心がこぼれ落ちた瞬間だった。


 そして、同時にソウルは言ってからしまったと思った。なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ!?


「……そか」


 シーナはしぼむような声で答え、顔を真っ赤にしている。


「いや!すまん!忘れてくれ!?」


 ソウルは慌てて撤回を申し立てた。



「ダメ」



 だがそんなソウルの申し出をシーナはキッパリと切り捨てる。



「もう、決めたから」



 そしてシーナはソウルに宣言する。


 同時にシーナは自分の頬が緩んだ。それは母の前で感じたあの感覚と同じだった。



 ねぇ、お母さん。


 一生、出会うことなんかない。きっと私は1人で生きていく、誰かと生きていく資格なんてないんだって、お母さんが望む生き方はできないって、そう思ってた。


 だけどね?ようやく出会えたよ。私を私として見てくれる、かけがえのない人に。


 私が、一生そばにいたいって思える人に、今出会えた。


 だから、私はもう大丈夫。安心して見守っていて欲しい。


 お母さんが私にしてくれたみたいに、誰かを守れるような存在に、ソウルと一緒になってみせるから。



 ある夢の光景。



 母と手を繋いで日の差す暖かい街を歩く。そしてその先に笑顔で待つ運命の人。


 琥珀色の瞳をした黒い髪の青年。彼女を人として受け入れてくれた初めての存在。


 彼はそっと手を差し伸ばし、優しい笑顔でシーナの名前を呼んでくれた。


 それでも、まだ少し怖くて中々その手をとれずに母の手を握りしめる。


 すると母がそっと手を離し、シーナの背中を押した。



「行ってきなさい」



「……うんっ」



 笑顔で送り出す母にシーナは答え、ソウルの元へと駆け出した。



「あなたはもう、1人じゃないわ」



 母の言葉が聞こえた気がする。そうだ、もう私は1人じゃない。



 ソウルは見惚れてしまう。



 シーナが初めて笑った。



 その姿はこれまで見た誰よりも美しく、綺麗だった。



「これから、ずーっとソウルと一緒にいる。もう絶対離れないから…ね?」



 シーナは女神のような笑顔でそう宣言した。

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