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マコの決意

「……遅い」


 ソウルがアリアに連れて行かれてもう2時間は経つ。


 鍋の中身はすっかり真っ黒焦げになり、黒い煙を上げている。そこでようやく火を止めたシーナは、じっと外を見つめた。


「シーナ様……あの女性は一体何者なのです?」


「あの人は、エヴァの仲間。その人に連れて行かれたってことは……ディアナの塔で何かあったのかも」


 ギュッと握り拳を作りながらシーナは自分の唇を噛む。


 油断してた。しばらくは何かまずいことは起こらないと思っていたのに。


 何がなんでも追いかけるべきだった。いや、今からでも遅くない!すぐにでもディアナの塔に向かってソウルを連れ帰らないと……。


 そう思い、シーナが駆け出そうとした、その時だった。


「ソウルくん!シーナちゃん!」


 勢いよく扉が開け放たれ、パメラが部屋へと転がり込んでくる。


「……パメラ、ねぇ、ソウルは?」


「っ!ソウルくんもいないの!?」


 パメラは汗だくになりながら驚きの声をあげる。


「……アリアが連れて行った。あなた達が何かしたんでしょ?」


 シーナはマナを溜め、いつでも【朧村正】を展開できるように構えた。



「違うの、聞いて!シーナちゃん。今まずいことになってるの!」



 そんなシーナとマコにパメラは今の状況を説明した。


ーーーーーーー


「……じゃあ、ソウルは無事かどうかも分からないってこと!?」


「……そうなるの」


 シーナの悲痛な叫びを聞きながら、パメラは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 迫る魔人と、暴走するマシュー。それに加えて捕らえられたソウル達。


 このままではもうこのオアシスがどうなってしまうかも分からない。


「……ディアナの塔に乗り込む」


 シーナはそう言って立ちあがり、駆け出そうとする。


「今はダメ!せめてクトゥグアとの戦闘が始まってからなの!!」


「……でも!」


 そう、今この瞬間にもソウルがどうなっているかも分からない。それに……。



「……そんなヤバい敵が迫ってるなら、絶対にソウルの力がいる!ソウルなら、きっとなんとかしてくれる!だから本当にクトゥグアと戦うなら、ソウルを助け出すのが先!!」



「お待ちください、シーナ様。それはパメラ様の言う通り得策ではありません」


「……マコ!?」


 じっと、思考を巡らせるようにマコはアゴに手を乗せて考え込む。


「パメラ様。エヴァ様もソウル様と共に捕まっている……それは確実ですか?」


「多分……いや、絶対にそうなの」


 マシューがそうだと確たる証拠はないが、状況的に見て間違いないと考えていいだろう。



「……でしたら、ここは協力するのはどうですか?パメラ様」



 そう言ってマコはパメラに探るような視線を送る。


「……っ」


 この娘……あなどれないの。


 パメラはそう直感した。見た目は幼い少女に見えるが、賢いのだろう。こちらの意図や状況を正確に把握してのこの発言と言ったところか。


「パメラ様は、恐らく動物を操る……もしくは動物と意思疎通する力を持つと考えていますが、それは間違いでしょうか?」


「……ううん。間違いじゃないの。パメラの力は【地】の力を覚醒させた【友愛】のマナ。パメラのお友達と意思疎通はもちろん、その力の強化とその特性を借りる事ができるの」


 パメラの力は公表していない。きっと、リュカくんとの関わりと、この部屋に忍ばせたパメラと繋がりのある動物の気配を読み取ったのだろう。


「では、パメラ様はソウル様達がどこに囚われているかを見つけ出してくださいませ。マコがソウル様とエヴァ様をお救いします」


「待ってなの!それだったらパメラも……」


「いえ。恐らくパメラ様はマシュー達に監視されていると考えた方がよろしいかと。ああいった類の人間は、小狡い。きっとマコ達が思う以上にパメラ様達に縛りをかけてくると存じます。ですので、エヴァ様との関わりのあるシーナ様のマークも硬いでしょう。でしたら今自由に動けるのは密入国してマシューに存在が知れていないマコが適任です」


 マコがシンセレス国に来た事は、エヴァ様の立場的にもマシューには伝えていない。


 つまり、マコの存在はマシューには伝わっていないのだ。


 だから、こっそりとソウル達を救出するのであれば、マコが適任。


「……で、でも」


 だが、1つ大きな問題がある。


 マコはイグに与えられた力を失い、魔法を扱うことができない。


 故に、もし奴らに見つかることがあれば抵抗する術を持たないのだ。


「……危険すぎる」


「お任せください。私とて伊達にイグの元で生き抜いてきたわけではありません。それに隠密行動は得意です。ここはどうか私に任せていただけませんか?」


 そう言ってマコはシーナの目をじっと見つめる。


「……っ」


 どうすれば……?いつも、ソウルやレイ達が先陣を切ってくれるからこう言った難しい判断を自分で下したことがない。


 私の一存で、この先の結果が変わるかもしれない。マコの運命を決めてしまうかもしれない。


 ソウルなら……ソウルなら、どうするんだろう?


 ……いや、今ソウルはいない。決めるのは、私だ。


 ギュッと目を瞑り決意を固める。そして、色々な葛藤を押し除けてシーナは決断した。



「……マコ、信じてる」



「はい……。きっと、ソウル様を助け出して見せます。必ず勝って、皆でイーリストへと帰りましょう」


 そう言ってシーナとマコはいつもソウルとレイがしているように、拳を重ね合わせた。

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