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賽は投げられた

 偵察を終えたパメラとアランはリュカの背中から飛び降りるとディアナの塔の中へと走る。



「エヴァ様!クトゥグアの侵攻速度が早くなりました!もう夕暮れにはここに到着しそうです!!」



 塔に飛び込むや否や、アランは声を上げる。しかし、そこにエヴァの姿はない。


 代わりにそこに立つのは紫の法衣に身を包んだマシューだった。


「マシュー様、エヴァ様はどこに行ったの?」


「エヴァは作戦のために別行動をとっている。なのでここの指揮は私に一任されているのだ」


 なるほど……確かにエヴァ様の力があれば下手に指揮官として塔に閉じこもるよりは前線に立って戦うべきだろう。


 しかし、どこか腑に落ちない。


「では、エヴァ様はどちらに?すぐにでも耳に入れておきたいことがあるのだが」


「すぐに戻るだろうが……まぁ私から伝えておこう。何だ」


「ふむ……では、クトゥグアの他にもう2人の下僕がいる。戦火の拡大は免れない。ですので最初の作戦通り今すぐにでもセミ砦へ行くべきで……」



「その必要はない。クトゥグアはここで迎え撃つ事となっている」



「何!?」


「ここでクトゥグアと戦うの!?そんなの危険なの!」



 マシューの言葉に耳を疑う。


 エヴァ様がそんな危険なことを指示したのか!?


「安心しろ。この塔には戦闘用の設備が数多くある。それがあれば民を守りながら魔人を退けることができる。それ故の判断だ。お前達もその作戦の一員として加わるようにエヴァから指示が出ている」


「そ、そんな馬鹿げたことが……エヴァ様がそんな判断を……」


「……分かったの」


「パメラぁ!?」


 マシューの言葉を聞いてパメラはじっとマシューの目を見ながら頷く。


「それが……本当にエヴァ様の判断なら、パメラ達は従うの。パメラ達はどうしたらいいの?」


 マシューはニヤリと笑いながら続ける。


「お前達は前線に立て。クトゥグアを抑えるのには強力な力を持った者が必要。お前達がクトゥグアを翻弄し私達の攻撃を通すように立ち回れ、良いな?」


「……分かったの」


 マシューの言葉を聞いてパメラはクルリと踵を返す。


「パメラ達も装備を整えてくるから、また1時間後にここに戻るの」


「お、おいパメラ……おぉい!?」


 物言いたげなアランの手を引きながら、パメラはディアナの塔を後にした。


ーーーーーーー


「おい、パメラ!お前何を考えている!?」


「何って、決まってるの。オアシスを守るために戦うの」


 抵抗するアランをズルズルと引っ張りながらパメラは告げる。


「どう考えてもおかしいだろう!?エヴァ様が街の被害に目を瞑ってここを戦場にするなど……ありえん!何かの罠だこれは!!お前はそんな事も分からなくなってしまったのかぁ!?」


 歩みを止めない相棒にアランはギャーギャーと文句を止めない。



「もうっ!エヴァ様を守りたいならいい加減にしてなの!!」



 プンスカと怒りの声を上げながらパメラは叫ぶ。



「どう考えても、あれはマシューの独断なの!エヴァ様ならあんなの絶対に止める。つまり、今エヴァ様はそれができない状況にあるってこと!!」



「そ、それは……つまり?」


 冷静な判断を下すパメラに少し呆気に取られつつもアランはパメラに問いかける。


「迂闊だった……まさか、マシューの馬鹿がこんな強硬手段をとってくるなんて、思いもしなかったの。あの男はオアシスに暮らす人達の安全よりも、自分の地位を取り戻すことを優先してるってこと……そんな馬鹿が考えることなんてきっと1つなの」


 キッとディアナの塔を見上げながらパメラは告げる。



「エヴァ様が、マシューの手の者に捕まった……。そして今身動きが取れないと考えるのが妥当なの」



「だ、だがエヴァ様がマシュー如きに遅れをとるなど……考えにくいだろう!?」



 エヴァは【天使の召喚術士】。その実力も折り紙付きだ。それにアリアも残してきた。


 そんな状況で2人が捕まるなんて、到底考えられない。


「いい?エヴァ様は確かに賢いし判断も勘も鋭い。でも、優しすぎるの。だから、人の悪意には弱い。人道外れたようなことをすれば、エヴァ様だって嵌められるかも知れないってこと!だからそう言った悪意からエヴァ様を守るって2人で決めたでしょ!?」



「ぬ!その通りだ、パメラ」


 かつての誓い。2人で交わした約束を思い浮かべながらアランは拳を強く握る。


「許せん……ただでさえ、この国の危機だというのに……それを出汁にしてエヴァ様を陥れようなど……!!」



 バチバチとアランの身体からマナが溢れて破裂音を鳴らす。



「でも、オアシスだって守らないといけない。ここでマシュー達とぶつかることだってできないの。ほんと、悪知恵ばっかり働いて……嫌になるの」


 ここでエヴァを助けるためにマシューとぶつかれば、自分達で自分達の戦力を削りあうことになる。そうなれば本当にオアシスは終わり。


 もうここからエヴァを助け出しても、もうクトゥグアの侵攻を止めることはできないだろう。


 賽は投げられた。オアシスでクトゥグアとぶつかる以外に道はない。ならばせめて、被害を最小限に抑えてクトゥグアを撃退しなければならない。



「パメラとアラン君は前線でみんなを守るために戦うの。パメラの友達に頼んで何とかエヴァ様を助け出して……」



「必要ないぞ……パメラ」



 そんなパメラにアランは首を横に振る。



「お前がエヴァ様を助け出せ……戦闘が始まればきっと混戦となる。お前がどこかに行ったところで誰もそれどころではなくなるはずだ」



「バカ!まさか1人で戦うつもりなの!?」


「当然。そのための私の力だ」


 唖然とするパメラにアランはコクリと頷く。


「クトゥグアを倒すために、きっとエヴァ様の力が必要だ。だから、必ずエヴァ様を助け出さなければならん」


 オアシス最大の戦力。それはきっとエヴァだ。


 その力無くしてクトゥグアの討伐、撃退など有り得ない。だから誰かがエヴァを助け出さないといけないのだ。



「この時のため……エヴァ様を、そしてこの世界を魔人達から守るためのな。お前がエヴァ様を助け出すまでの時間ぐらい、稼いでみせるさ」



 アランは自身の腕を強く握りながら、覚悟を決めたように告げる。


「……分かったの。必ずエヴァ様は助けだす。だから……死んじゃいだよ?アランくん」



「ふっ。任せろ、俺は【雷光のアラン】。エヴァ様を守る最強の剣だ!こんな所で死んでやるつもりなど微塵もない!!」

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