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ソウル宛の荷物

 明くる日。


 再びソウルとシーナはパメラに連れられてディアナの塔を訪れていた。


「今日は何の用なんだ?悪いけどまだ昨日の返事は……」


 前を歩くパメラの背中にソウルはそう言葉をかける。


 流石に昨日の今日で返事はまだできない。もう少し悩ませてくれはしないものかとガシガシと頭をかく。


「違うの。何かね、ソウルくん宛に荷物が届いてるの」


「俺宛に?」


 しかし、パメラから告げられたのは別の要件だった。


 俺宛に荷物……?はて、そんなことあるか?


 きっとイーリストから俺宛に何かしようとしても、一応禁忌の魔法使いなのだからこちらに送られる前に処分とかされてしまいそうなものだが……。


「何かね、誰宛か分っかんない荷物がディアナの塔に届いたの。で、誰も分かんないなーってなってたら……」


 そう言ってパメラはガチャリと倉庫のような扉を開くと、そこにはソウルの腰ぐらいの大きさをした木箱が置いてある。


「ここ見て欲しいの」


「え…と……?」


 木箱に何か文字のような物が彫ってあった。


「……これ、【黒のマントが似合うあなたへ】」


 じっと文字を追いながらシーナがそれを読み上げる。


「多分、ソウルくんかなぁって。この前スカーハ様のお店で闇属性のマント買ってたし、こんな回りくどい方法で荷物を送ろうとするのもそうっぽいの」


「確かに……」


 こんな回りくどい方法で荷物を送ってくるなんて、普通ありえない。恐らくソウルを連れ去ったエヴァの本拠地であるディアナの塔宛にこれを送ってきたのだろう。


 これなら俺の手に届く可能性だって無きにしも非ずと言ったところか。


 得体の知れない荷物に少し警戒しつつも木の箱に近づく。



「それじゃあ……開けるぞ?」



「お、お願いするの」



 ソウルとシーナはゴクリと息を呑みながら木箱の蓋に手をかける。


 そしてバキバキと釘打たれた箱の蓋をこじ開け、中を覗くと。





「…………………………は?」


「…………………………え」


「…………………………わぁ」




 中を見て、思わず3人でそんな声を漏らしてしまった。








「……お、お久しぶりでございます…ソウル様」




「ま、マコぉ!?!?」




 そこには、げっそりと痩せ細ったマコの姿があった。



ーーーーーーー


「あぁ……美味しいです……!」


「と、取り敢えず誰もとらねぇから……ゆっくり食えよ」


 一心不乱に料理を口に放り込むマコを見ながらソウルとシーナ、そしてパメラは苦笑いする。


「お前……一体どうやってここに……」


「がんばりました」


「それだけは分かる」


 荷物の中に紛れて国境を越えるなんてメチャクチャな事を……何かあったらどうするつもりだったんだ。


「シーナ様もお久しぶりでございますね」


「……うん、久しぶり。みんなは元気?」


「はい。皆さん消沈はしておりますが、無事にしております。【再起の街】のみんなも何とかやっていますよ」


「っ!そうだよ、俺が国を追われたんだ!街はどうなってる!?」


 一応領主となっているソウルが国を追放されるような事態になってしまった。【再起の街】の支援や物資の供給が絶たれてしまい、先行きが立たなくなってしまっているのではないかという不安がよぎる。



「そこはレイ様が上手くやってくださっています」


 ゴクゴクと牛乳を飲みながらマコは続ける。



「一旦、領地を国に返還する手をとったみたいです。そこで国に【再起の街】の有用性や実績を進言することでイーリスト国管理としてもらえるように。苦戦するかと思っていたそうですけれど、国王様が便宜をはからって下さったようで上手く言ったと聞いています」



「そ、そうなのか……よかった」


 俺を信じて着いて来てくれたみんなが路頭に迷うことはないということだ。それを聞いて胸に引っかかっていたモヤモヤが1つ晴れた。



「それで、私だけでも先にソウル様とシーナ様と合流するようにとレイ様から指示を受けまして……今ここに私が馳せ参じたというわけでございます」


「レイのやつ……」


 最後に会ったのは病室で意識を無くしたままの姿。と言うことは無事に目を覚ましてくれたんだな?よかった……。それに、本当に離れていても頼りになる奴だ。


「ソウル様は、どこか抜けているところがございますので、そう言ったところはこのマコがしっかりとソウル様を支えなければ……と。シーナ様ではやや荷が重いでしょうし……」


「……言い方に棘がある」


「ひっ……ひたいれふぅ……」


 そんな事を告げるマコのほっぺたをシーナはみょーんと引っ張る。イーリストにいた時もたまに2人はこんな風にじゃれあうことがあった。


 その見慣れた光景をみてソウルはどこかほっと気分が落ち着くのを感じる。


「でも、よくソウルくんがオアシスにいるって分かったの」


「はい。レイ様が『いるなら絶対にここだ』と仰っておりましたので……正直、ソウル様に会えるかどうか不安で不安で全く眠れませんでした」


「そりゃ、そうだ」


 マコの心中を察してソウルは苦笑いする。


 だって、本当に俺がここにいたからよかったものの、もし俺が別の場所に移送でもされていたらマコは完全に未知の国で路頭に迷うしかない訳だったのだから。



「最悪、もしソウル様に会えなかった時はそのままイーリスト国に送り返してもらおうと思ってました」



「マコちゃん……あなた度胸がありすぎなの」


 小さな胸をフンと張るマコを見てパメラは複雑な表情をしていた。


「でも……何だってこんな無茶までして来てくれたんだ?そりゃ、来てくれて心強いけど……」



 しかし、何故ここまでしてマコはシンセレス国までやって来たのだろう。レイは無駄な事をする奴じゃないから何か意味があるんだろうが、全く検討もつかない。



「それはもちろん、ソウル様をお守りするためです」



 グッと拳を握りながらマコはキラキラと瞳を輝かせる。



 ……えーと?



「そ、それだけ?」



「それだけとは何ですかソウル様!?マコにとって1番大切なことでございます!!」



 ソウルの言葉を聞いてマコはプンプンと頬を膨らませる。


 いや……嬉しいけど……。てっきりレイのことだからすっごい作戦でもあるのかと、そう思ったんだけど、どうやらそうでもないらしい。


 ま、まぁマコが来てくれてイーリスト国のことも分かったし、何より心強い。


「ありがとな、マコ。本当に命がけでここまで来てくれて。心強いよ」


「えへへ……」


 そう言ってマコの頭を撫でるとマコは蕩けそうな笑みを浮かべる。


 隣でシーナが少し膨れ顔をしている気もするが、今はここまで身を削ってくれたマコを労うべきだ。


 だからそんな顔で見ないでくれ、と思いながら頭をガシガシとかくのだった。

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