マシュー
ソウルとの話を終えたエヴァは2人を見送ると、【ディアナの塔】へと戻る。
「いかがでしたかな?あの者との会談は」
そんなエヴァに投げかけられる1つの声。
「……はい。無事に伝えるべきことは伝えることができました。なのでこれから先は彼ら次第かと存じます」
あぁ……またこの人達かと嫌気がさしつつもそれをおくびに出さぬようににこやかに告げた。
そこには紫色の法衣を身にまとう初老の男とその付き人たちが立っている。【ディアナ教】のNo.2に位置する男、マシューだ。
マシューはエヴァの言葉を聞くや否や、嫌味らしい顔をしながらエヴァへと詰め寄った。
「何を言っている?彼らが決めることではないだろう。もうお前はイーリスト国に乗り込むという強硬手段を取った。ならばどのような手を使ってでも召喚術士を仲間に引き入れる、それが最高司祭であるお前の使命だ」
「しかし、本意ではない協力を結びつけたとしても、それは本当の意味で仲間になると言うことではないでしょう。先のことを考えるのであれば、彼らの自発的な意思を尊重すべきかと……」
脅迫気味に告げるマシューに対しエヴァも負けじと言い返す。
「ぬるい!だからこそ貴様は何も変えることができんのだ!!」
しかし、それが気に食わなかったのだろう。マシューが声を荒げて怒鳴り出した。
「【天使の召喚術士】の力だけで最高司祭になった小娘が!召喚術士の1人や2人、言いくるめることすら出来んのか!?本当に役に立たん形だけだな!!」
「なら、マシュー殿ならどうしたというのです?彼らはその出自を聞かされて困惑していました。そんな彼らを無理やり引き込んだとて長く続かないのは明白ではありませんか?本当の彼らの協力を得るには今は彼らの気持ちを整理する時間を……」
「それを何とかするのがお前仕事だ!どうとでも言いくるめればいいだろう!?私であればそんな事、容易いというのに、全く役立たずめ」
「……っ」
あまりの言い草にエヴァはギュッと唇を噛み締める。
「その程度の手腕なら、貴様は形だけで良い!引っ込んでおれ!!」
「く……」
しかし、エヴァは【天使の召喚術士】だからこの最高司祭の立場にいる。
担ぎ上げられただけの、形だけの最高司祭。本来マシューが次期最高司祭としての役に就く予定だったところを、エヴァが現れたことで一変。マシューはその座に着くことができなくなってしまった。
その腹いせにこうしてエヴァのやることなすことにいちゃもんをつけては言いたい放題言っていくのだ。
実際、最高司祭の立場に立ってはいるものの、エヴァ自身にそれほどの権力はない。長年【ディアナ教】の中にいたマシューにつく人間の方が多いからだ。
「……ご忠告、痛み入ります。次彼と話する時はそのようにさせていただきます」
「……ふん。分かればいいのだ小娘め」
あなたは何もしていないくせに、と怒りの言葉が喉の奥まで出かかったが何とか飲み込む。
文句だけは一丁前だが、この男は実際口だけで何もしてこなかった。現にアリアがここに来ることになったのも、オリビアにシンセレス国の調査を頼むことにしたのも全てエヴァの判断。
その間もマシューはやれ『リスク』だの『手順』だの、難癖ばかりつけてはその足を引っ張ってきた。
そんなことに時間を割いていては何かを変えることはできないだろうに。はっきり言って老害だ。
マシューのせいでソウルさんと話をするのだってこんなに遅くなってしまった。この男の相手をする時間が無ければもっとたくさんできることがあると言うのに……。
そんな事を思いながらズカズカと歩き去っていくマシューを見送るのだった。