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【起源召喚士】

「私達シンセレス国が技術提供してきたものの1つに、あなたもご存知でしょう、【アルカナ】があります」


「っ!あれ、シンセレス国から伝わったものだったんか!?」


 11年前。ソウルを絶望の底に落としたあの装置。


 人の持つマナを計測するあれも【魔導機】で、あれはシンセレス国から伝わったものだったのか。


「そして、【アルカナ】を普及させると同時に各諸国に【魔導霊祭】を行う文化も推進してきました」


「へぇ……あれシンセレス国発祥のイベントだったんだな」


 ってことは、他の国でも同じようなことをやってるんだなぁ。


「表向きの理由は、知識を持たない子どもが魔法を制御できるようにする為に彼らの力を正しく使う基礎知識を教えること。しかし、真の目的は他にあります」


「真の目的?」


「それは、【虚無(ゼロ)の者】を見つけることです」


「そうだ、あんた達俺の事を【虚無の者】って呼ぶけど……その【虚無の者】って何なんだ?」


 イーリストで初めて会った時、エヴァはソウルのことをそう呼んだ。一体、その意味はなんなのだろう?


「私達、召喚術士の力の形は【魚】【獣】【妖精】【人間】【龍】【悪魔】【天使】の7種類。これはこの世に存在する生命の形と同じ物です」


 シンセレス国に来て聞いたことだが、この世界には大きく分けて7種の種族が暮らしている。それが今エヴァの言った7つ。


 1つ目は水の中に生息する魚などの生き物達。きっと人魚であるエリオットもここに属することになるのだろう。


 2つ目は獣。森に住む動物達などを指すのだが、獣人であるアルもここに属するだろう。


 3つ目は妖精の一族。エルフであるシェリーや……そして先程話に出たオリビアもここに属していることになる。


 4つ目は人間。これは言うまでもなく人間のこと。


 5つ目は龍。これに関してはまだ出会ったことはないが、確か北の帝国を治めているのが【黒龍の女王】。もしかすると何か龍と関係のある者なのかもしれない。


 6つ目の悪魔と7つ目の天使についてはまったく検討もつかないが、きっと世界のどこかにその一族もいるのだろう。


 これが生命の基本の形。全ての生き物はこれら7つのどれか、もしくは複数に該当することになるそうだ。


「様々な形があれど、全ての生き物に共通するのはその身に【マナ】を宿していること。それは召喚術士とて同じことです。しかし、代々最高司祭にのみ口伝で語られる伝説があります。それが【虚無の者】の存在です」


 エヴァはソウルの顔を確かめるように見ながら告げる。


「【虚無の者】。その者は、生まれながらにしてマナを持たない。アルカナでマナを測っても何の反応も示さないと……そう言われています」



「……え?」



 確かに……俺はアルカナで何の反応も出なかった。だけど……だけどそれは!?



「待てよ!召喚術士は誰かの魂を宿すまではみんなマナがないんじゃねぇのか!?ガストとレグルスが俺の中にいる状態だったらアルカナはちゃんと反応したぞ!?」



 そうだ。俺がアルカナに反応しなかったのはまだ5歳の頃に召喚獣を宿していなかったから。空っぽのパレットのようにその身に何のエネルギーも無かったからのはず。


 だから召喚術士はみんな最初はアルカナに反応しないと思っていたのだが。



「まさか、そんな訳ないでしょう?マナとは人が生きる魂の力……言わば生命エネルギー。確かにそれが際立つのは魂をその身に取り込んでからですが、マナが全く無いということは生命を維持するエネルギーその物が無いということ。そんな存在はこの世の理から大きく外れた存在です。ですから私もアリアも弱々しくはありましたが、アルカナにちゃんと反応がありましたよ?」



「う、嘘だろ……?」



 そう言ってソウルはアリアの顔を見ると、アリアはふるふると小さく首を横に振った。私もあなたと違ってちゃんとアルカナの反応があった、と言いたいのだろう。


 呆然とするソウルに向けてエヴァはさらに言葉を続ける。


「それが【虚無の者】。生物が本来持つべきマナを持って生まれなかった者。何故マナがない状態で生命を維持できるのかは分かりませんが、それがあなたです」


「じゃあ……魔導霊祭が執り行われる目的は、アルカナに反応しない奴を……つまり俺を見つけること?まさか、何で?何でそんなことのために!?」



 魔導霊祭の普及なんて、そう簡単なことではなかったはず。何のためにそんな労力をかけてまでそんな事をやってのけたのだろう?



「それは、【虚無の者】が【起源】の力に到達しうる可能性を持っているからです」



「【起源】の力に……到達する?」


「えぇ。覇王の封印が解かれるかもしれない聖暦1000年。その年に【虚無の者】が天から舞い降りる。そう言い伝えられています。だから、私達【ディアナ教】はその者を見つけるためにある手を打ってきました」


「ある手……なんだよ?」


 ソウルは困惑しながらもなんとかエヴァの話に頭を追いつかせていく。



「それは世界の各地に孤児院を建設すること。親のいない子どもたちを育てると同時に、その【虚無の者】を保護し、育てることです」



 ……は?



「【虚無の者】は天から舞い降りると言いました。つまり、誰かの子として生まれてくるわけではないということ。だったら、その【虚無の者】を何としてでも見つけ出し、保護しなければならない。その為の措置です」



「ま……待ってくれ……じゃあ……じゃあ、俺がいたツァーリン孤児院って」


「その中の1つです。そこを管理するシルヴァ神父もその役目を知っていました」


 おい……おいおいおい。待てよ……待ってくれよ!?



「う…嘘だ……」



 だって……シルヴァは俺に、何も言ってくれなかったぞ……?



「事実です。その証拠として、その孤児院では、いかなる子どもも受け入れてはいませんでしたか?それは何としてでも【虚無の者】を見過ごさないためです」


 確かにどんなに状況が苦しくてもシルヴァは断ることなく子どもを受け入れていた。


 それは親のいない子どもを見捨てないためじゃなくて、ただその【虚無の者】を探すためにやっていたということか?




「待って……待ってくれよ。じゃあ……じゃあ俺は……!!」




 俺は、その為にシルヴァに拾われたってのか……?



 その、『覇王と対抗する力』とする為に俺は拾われて、育てられてきたって言うのか?



 じゃあ、シルヴァがこれまでかけてきてくれた愛情も、言葉も……全部、全部……。







 俺を、覇王と戦う為の戦力にする為だったってのか?


 その、【起源】の力とやらを目覚めさせて……。






「全てはこの時のため。覇王と対抗する【起源】の力を持つ召喚術士……【起源召喚士】を生み出すためにディアナ教は……シンセレス国は存在してきた。そして今この時が来ました。共に覇王と戦い、世界を救いましょう、ソウルさん」




 そう言ってエヴァはソウルにそっと手を差し伸べる。



「パメラからも、お願いするの」



「うむ。私もだ、ソウル君!」



 エヴァの隣でパメラとアランもじっとソウルのことを見つめる。



「……っ」



 待てよ……おい、待ってくれよ。


 そんな……そんな事急に言われても……。



「そ、ソウル……」



 シーナが困惑したようにソウルとエヴァ達を見比べる。これまでの話を聞いてシーナもどうすればいいのか分からないのだろう。


 無理もない。だって、ソウルにだって訳が分からないのだから。


 気持ちの……感情の整理が追いつかない。突如告げられた状況に心の平穏を保つことができずに思考もまとまらないのだ。



「……待ちなさい、エヴァ」



 その時、檻の中からシェリーが口を挟む。



「彼に、考える時間を与えてあげなさい。今彼は自分の生まれからの全てを覆されている。そんな彼に突然世界のために覇王と戦えなどと、非情な判断をさせるべきじゃない」


「し、しかし……」


 そんなシェリーの指摘にエヴァは口どもる。



「あなたが立場上焦るのも分かる。だが、これはゆっくり時間をかけるべき案件だ。ここでソウルに負荷をかけて潰してしまうようなことがあれば、それこそ取り返しがつかないでしょう。今ソウルに必要なのはこの事実を受け止める時間と意思を固める覚悟だ」



「シェリー……」



「ソウル。あなたはしっかり悩みなさい。ここで混乱のままに答えを出してはいけない。きっとここで判断を間違えてしまえばあなたは一生かけても後悔できないほどに立ち上がれなくなる」



 この言葉は、彼女の過去の悔恨から来るものだろう。その言葉の重みがソウルの胸に刺さった。


 ソウルは姉弟子の言葉を聞いて深呼吸をして胸に溜まったモヤモヤしたものを吐き出す。


 そうだ……シェリーの言う通りだ。今焦る必要は無いじゃないか。



「ごめんエヴァ。シェリーの言う通りだ。少し考えさせて欲しい。その上で……改めてまた返事をさせてくれないか?」



「……分かりました」



 少し不服そうにしながらも、ぐっと唇を噛みながらエヴァは言葉を飲み込むようにして了承してくれた。

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