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【起源】の力

「先程、覇王がある力を求めていたと話したと思います」


「あぁ、確かにそんなこと言ってたっけな」


 魔獣や魔人はそれを得るための副産物だとか何とか……。


「それは、この世が始まり全てが分かたれる前の純粋なる力……【起源】の力です」



「【起源】の力……?」



 はて……どこかで聞いたことのあるような、ないような?


 ちなみにシーナは隣で首を傾げて頭に疑問符が浮かんでいる様子だ。


「今この世にある全てのマナは、その【起源】のマナから分かたれた物です。何も無かったこの世界が生み出される元となった天地創造の力。もっと言えば、神の力と言っても過言ではないかと」


「覇王はその境地に達していたと、そう言われている」


「マジかよ……」


 確か、覇王が国1つを滅ぼしたのは子どもの頃だと聞いた。つまり、ただでさえそんな化け物じみた力を持った覇王がその神の力……【起源】の力を手に入れたと?


 そんなの鬼に金棒だ。


「……そんなの、太刀打ちできるわけない」


 シーナもエヴァの話を聞いてブルルと身震いしている。無理もないだろう。


 10人の強力な【魔人】と呼ばれる存在と、覇王の持つ【起源】の力。


 正直、そんな化け物達に太刀打ちできるビジョンなんてこれっぽっちも湧いてこない。


「だからこそ、私達は覇王の封印を解かないようにしなければならない。ですが……」


「シンセレス国に伝わる伝承では、覇王を封印する為の結界が確実に機能するのは大体1000年と言われてるの」



「1000年……って、おい!?」



 確か覇王を倒した年を元年として今の聖暦がある。今は聖暦1016年。つまりはその覇王封印の結界の力は失われているということか!?



「いえ。正確には【結界に綻びが生まれ始めるまで】が1000年です。だから1000年経ったらすぐに結界が無くなる訳ではないですが、ある条件を果たされた時に結界が壊れると伝えられています」



「ある条件?」



 覇王を封じる結界が壊れる……それは即ち覇王の復活を意味する。それは何としてでも阻止しなければならないだろう。


 では、どうなればその結界が壊れてしまうのだろうか?



「そこで重要になってくるのがシーナさん。あなたの持つ【聖剣】の力です」



「……え?」


 突然話を振られたシーナはびっくりしたような表情を浮かべる。



「イーリストの歴史では、【7聖剣】の使い手が覇王を打ち倒したと……そう伝わっていると言いましたね?」



「あ、あぁ」



「それは一部が歪曲されているが一部は正しいのだ。何故なら覇王を封じる結界を維持するための柱、それが【7聖剣】だからだ」



 聖剣が…結界を維持するための柱……?



「ですから、『覇王を封印した』という意味では確かに覇王を倒したとも言えなくは無いです。けれど、覇王を討ち倒したのは【7賢者】達で、その賢者たちが覇王を封印する結界の核として生み出したのが【7聖剣】。言わば聖剣は覇王封印の維持装置なのです」


「結界の維持装置!?」


 おいおい、何だかよく分からないところにまで話が発展していっているぞ……?


 頭から知恵熱が出そうなソウルとシーナになおもアランは続ける。


「覇王が封印されているのはシンセレス国より遥か西方、亡国【ルルイエ】と呼ばれる場所。だから、先人たちは覇王の封印を守るために聖剣の力を持つ者達を大陸の東側へと避難させた」


「もし覇王の軍勢の生き残りたちが聖剣を奪おうと攻め込んできた時に、シンセレス国がその矢面に立ってそれを食い止めるための措置だったの」


 そうか。つまり聖剣の力が奴らの手に渡ればその封印が解かれてしまう。だからこそ、そのルルイエから遠く離れた場所に聖剣を移動させた。


 仮に覇王の手の者が聖剣を求め攻めてきてもルルイエとイーリストの間にはシンセレスがある。シンセレスがその侵攻を食い止めることができるという訳だ。


「けれど……聖剣の力を持った彼らは力に溺れてしまった。覇王の封印を守るという意義を捨て、その力を私利私欲のために使うようになってしまった……」


 エヴァのその歴史を嘆くように語る。


「聖剣の力を扱えるのは人間の血を引く者。だからこそイーリスト国は『人間至上主義』を掲げ、人間以外の種族を虐げるようになっていったのだ」


 何だよそれ……?俺達の国、イーリストがそんな事をしてたのか?そんな事、信じたくなんかない。


 だが、確かに今のイーリストの状況を見てしまえば、確かにエヴァ達の言う通りとなっている。


 人間以外の種属はイーリスト国ではほとんど見ることはないし、【妖精樹の大火】だって、もしかしたらそういった悪い慣習のせいで強行に至った可能性だってある。


「過去には守るべきイーリストの方が私達の国に攻め込もうとしてきた事もあったと聞く。だから我らは【永久中立国】の立場をとり、シンセレス国の技術提供を行うなどの手を打ってきた。シンセレスがある事がイーリストにとっても得になるようにな。そのおかげでこれまで完全に国交が断絶することはなく辛うじて今日までやってこれた訳だが……」


「良好な関係を取れていないこの状況に歪曲された歴史……それらのせいで正直いつ聖剣の力が奴らの手に渡り、封印が解かれてもおかしくないと考えています」


「……っ」


 確かに、協力して覇王の復活を阻止しようと動けているならまだしも、今はそんな状況じゃない。むしろシンセレスが守ろうとする召喚術士を邪法の使い手として排斥しようとしているような状態。


 そんな状況では協力どころかむしろ互いに敵対状況になったっておかしくないだろう。


「そう、だからもう覇王の復活を止めることは叶わないかもしれない。でも、今のままでは到底復活した覇王……ましてやその眷属にすら太刀打ちなんてできるはずがない。だからこそ、強力な力を持った召喚術士を守り、共に戦う必要があるのです」


 そう言ってエヴァはその自身の細い手を強く握りしめる。



「つまり、我々が召喚術士を保護する理由は召喚術士を覇王に対抗する力とするためだ」



 そういうことか。


 もう覇王の復活を阻止するのは難しいかもしれない。だからこそ、覇王と戦えるように戦力を集めなければならない。


 対抗しうる可能性を持った召喚術士を死なせる訳にはいかなかったということか。


 俺はともかくシェリーは1人でも聖剣騎士団のみんなよりも強い訳で……その力はまだ見ぬ強敵と対抗するのには欠かせないだろう。


「でもさ……一歩間違えば戦争だったんだろ?」


 エヴァの話は分かった。だが、それでも腑に落ちないことがあった。


「あんたらは覇王と対抗する為に召喚術士である俺とシェリーを守ろうとした。でもあんなイーリストに乗り込んで犯罪者を強行的にシンセレス国に連れて来たわけで、もう宣戦布告とも言いかねないような状況だったわけだろ?それこそイーリストとの関係がこじれて結果的に覇王に付け入る隙を与えることになったかもしれないじゃねぇか。あんた達は……オリビアは何のためにあんなことをやったんだよ?」


 イーリストとの関係がこじれ、戦争にでもなればそれこそ戦力増強だなんて言ってられない。むしろ多大な戦力を失うことになりかねなかったんだ。


 他にも召喚術士はいるのだから、そのリスクを冒してまでソウルとシェリーを助けるのは理にかなっていないのではないかと思ってしまう。


「そうですね……。ソウルさん、私たちはどうしてもあなたを失うわけにはいかなかった。何故ならあなたは【虚無(ゼロ)の者】だったからです」

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