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魔人

「敵……?」


 エヴァの口から発せられた不穏な言葉にソウルは思わず問い返してしまう。


「……敵って、どういう事?悪い人がたくさんいるの?」


 シーナもソウルと同様に目を鋭くさせながらエヴァに問いかけた。


 そんな2人の顔を見ながらエヴァは続ける。


「敵とは、1000年にも渡る魔法大戦の残滓……覇王の眷属達のことです。覇王が封印された後もなお、彼らはこの世界で暗躍して平穏を乱している。シェリーさんを謀ったハスター、奴もその中の1人です」


「ハスター……!」


「ソウル、もしかしてサルヴァンの時の?」


 そうだ、あいつだ。シェリーをたばかり、サルヴァンの街を混沌に陥れた男。


 ジャンヌ様と互角以上に渡り合い、深傷を負わせた奴だ。


「っ、会ったことがあるんですね?」


「あぁ。サルヴァンの街で獣人達を奴隷売買をやるように仕向けてやがったんだ」


「あのサルヴァンの奴隷売買……まさか裏にハスターがいたとは……」


「うー……やっぱりパメラ達が止めるべきだったかもしれないの……」


 アランとパメラはそう言いながら肩を落とす。


「そうですね……。かねてからフレデリック王に掛け合ってはいたのですが、多少強引でも動くべきだったのかもしれません」


 エヴァは悔しそうにそう告げる。


 じゃあ、サルヴァンでの悲劇もシェリーの苦しみも……全 全部その覇王の眷属とか言う奴らのせいだったってことか?


「なぁ、ハスターは……いや、その覇王の眷属ってやつか、そいつらは一体何がしたいんだよ?何のためにあんな非道な事をやりやがったんだ?」


 そもそも、何故ハスターはサルヴァンの街を奴隷売買の拠点となるように仕向けたのか。


 それに、シェリーの件だってそうだ。何のために手間暇をかけてあんな人を苦しめるような事をしたのか。


「奴らは覇王と敵対する勢力の力を削ぎたいのだ。削いだ上で、さらに覇王の軍勢の力を強化しておこうと考えているのだろう。サルヴァンの人間と獣人との絆とその連携、軍事力はかつて他の追随を許さぬほど強力だった。彼らの関係を破綻させる事でそれを無力化しようとしたのだろう」


「それに、ハスターがシェリーちゃんに何かしたのもシェリーちゃんの強さを警戒してのことだと思うの」


 確かに、シェリー1人で聖剣騎士団のみんなに加えてシーナ。それに加えてソウルと互角以上にやり合えるほどの強さだ。


 仮にシェリーが敵に回るとするなら無視できない存在だろう。むしろその力を奴らの敵となる勢力の力を削ぐことに使えば一石二鳥と言うわけか。


「奴らにとって覇王の軍勢以外は全て敵。覇王が復活したその暁には再びこの世界を蹂躙し、かつての魔法大戦を起こそうと考えているのです」


「っ!覇王の復活……!」


「……え?覇王って確か1000年前に倒されたんじゃないの?」


 エヴァの言葉にシーナは驚きの声をあげる。


「覇王を倒し、封印することには成功しました。けれど、完全には倒しきっていないのです。その封印を解く為に1000年前の戦いで生き残った覇王の眷属達がこの世界で暗躍しているのですから」


 覇王の眷属。


 覇王は1人で国1つ滅ぼすような化け物だって聞いた。


 そんな奴の手下となれば、そいつらも余程ヤバい奴だろう。


 いや、と言うか戦いで生き残った眷属って。


「おい……待てよ。じゃあその眷属って奴らは、1000年前からずっと生きてるってのかよ!?」


 当然、1000年も生き続けるなんて一部の例外を除けばエルフにだってできない。そんな長寿の一族がいるだなんて話は聞いたことがない。


 そいつらもまさか封印されていたとか……そういうことなのか?


「……もしかして、覇王の眷属って魔獣なの?」


 すると、シーナがおもむろにそんな事を言った。



「……魔獣って、寿命がなくて人よりも強いんでしょ?強くて寿命が長いなら覇王の眷属は魔獣なんじゃないかな?」



 確かに……。今明らかになっている情報から考えればそれが妥当な気がする。


 でも、ハスターはスフィンクスのように理性を失ったような獣のようには見えなかった。


 むしろ人知を越えるような狡猾さを感じたが。



「確かに覇王の眷属の中には魔獣のままの者もいます。けれど、本当に倒さなければならない者達は魔獣ではありません。【魔人】と呼ばれる存在です」



「【魔人】……?」



「魔獣の力をその身に宿した人間のことなの。ただの魔獣よりも力が強力になっちゃう危険な奴なの!」



 魔獣よりも強い……?


 まさか……いや、でも確かにハスターはジャンヌと互角以上に渡り合える強さを持っていた。ならば、それはあながち嘘ではないのかもしれない。


「覇王はある力を求めて召喚魔法についての研究を進めていました。その中で生まれた副産物が【魔獣】、そして【魔人】だと言われています。そしてその魔人の中でも特に強力な力を持った者が10人……【10の邪神】です」


「ハスターはその中の一角を担う奴なのだ」


 じゃあ、あのハスターは覇王直属の眷属であり、なおかつその魔人とか言う奴だということか。


 そしてジャンヌをあしらってしまうような奴が少なくとも後9人はいる。その事実にソウルの身がよだつのを感じる。


「じゃあ……その魔人ってのは一体どうやって生まれるんだよ?召喚魔法の研究で生まれたって言ったたけど……」


 そんな危険な存在【魔人】。魔獣の力の根源が召喚魔法なら、その力を持った魔人も召喚魔法に関わる力なのだろう。


 一体どうやってそんな奴が生まれてきてしまうのだろうか。



「召喚魔法専用デバイス・マナがあるのはご存知ですね?」



「あ、あぁ」


 召喚魔法特有の技を繰り出す為のデバイス・マナ。ソウルが知っているのは【武装召喚】のマナと【絆】のマナだ。




「数ある召喚魔法の固有デバイスの中のうちの1つ……【リンク・ゼロ】と呼ばれる力が魔人を生み出しうる力だと言われています」







 ……は?








 【リンク・ゼロ】が……魔人を生み出す力……?



「まぁ……もっとも、その【リンク・ゼロ】がどのような力かも、何故魔人が生まれるのか、ということまではまだ分かってはいないのです」



「うむ。ここの伝承に残されているのはその【リンク・ゼロ】の力が魔人を生み出すということだけ……。遠い昔に失われた幻の力といわれている。だからもう新たな魔人が生まれることは無いからそれだけは安心だな!」


 そう言ってアランは高らかに笑う。



 いや…待って?その……。



「え…と……」





 俺……その【リンク・ゼロ】、使えちゃうんですけど……?





 一応……伝えといた方がいいよなぁ……。



 少し迷いながらもソウルがその事を伝えようとした、その時だ。



「ソウル」



 檻の中からシェリーが突然口を開き、口元にそっと人差し指を当てる。



 それは、言ってはいけない。と、そう言っているような気がした。



「……?どうしたの?」



 それを見ていたパメラが不思議そうに首を傾げる。


 ドキリと心臓をビクつかせるソウルの代わりにシェリーが檻の中から口を挟む。



「1つ聞かせてください。世界の敵がその【魔人】というのは分かりました。では、何故それが私達召喚術士を守る理由となるのですか?今の話を聞く限りでは、むしろ魔獣や魔人を生み出す元凶となりうる危険な力という印象しか受けなかった」



 シェリーの言うことは最もだ。今のところ召喚魔法の危険の側面の話しかしていない。これでは彼らが召喚術士を守ろうとする意図が分からないではないか。



「そ、そうだよ。何で俺達を助けたんだ?その理由をまだちゃんと聞いてねぇぞ?」



「そうですね、それでは次はその辺についてもお話します」



 ふ、ふぅ……。


 上手くシェリーが話を変えてくれたお陰で、【リンク・ゼロ】のことは流れていった。


 確かに、考えてみればまだエヴァ達のことは未知数だし、何を考えているのか分からないことの方が大きい。


 今は下手にソウルの力のことを伝えるべきじゃないだろう。

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