追憶の間
暗く狭い階段をしばらく降りていくと、やがて開けた場所へと出る。
「うぉ……」
そこに広がっていたのは、広い空間と壁一面に描かれた壁画だった。
見た感じではドランクール遺跡で見たような絵に似ている。恐らく魔法大戦時代のことを描いたものなのだろう。
けれど、ドランクール遺跡で見たものよりも大きく繊細に描かれたそれはまさに圧巻だ。
「……ここは?」
「ここは、【追憶の間】。かつての魔法大戦時代の事が詳細に残された部屋です。ここの扉は召喚術士の力を持った者だけが開くことができます。ここなら他の者に話を聞かれることはありませんし、ソウルさんの聞きたいこともより分かりやすくお伝えできるかと思います」
「すげぇ……こんな所が隠されてたんだな」
こんな壁画……エレナに見せたらすっごい喜ぶだろうなぁと思いながらこの空間を見渡す。
ソウル達が壁画に目を奪われながら歩いていくと、そこに1人の女性がペコリと頭を下げながら待っていた。
ピンクの少し癖っ毛の髪にメイド服をしたその女性の姿にソウルは既視感を覚える。
はて……どこかで……?
「準備をありがとうございます、アリア」
「……」
アリアと呼ばれたその女性はそっと顔をあげ、ソウルと目があった。
「……あ!」
「……っ!?」
街で出会った魚のメイドさんか!?
「?知り合いですか?」
2人の反応を見てエヴァは少し驚いたような顔をする。
「は、はい。こないだ街で少し……」
「……っ」
頭をガシガシとかきながらソウルはアリアの方を見る。彼女は何故か少し顔を赤らめながら恥ずかしそうに目を逸らした。
「……ソウル?いつの間に他の女に手を出したの?」
すると、そんな2人のやり取りを見て、シーナがゴゴゴ……と不穏なオーラを醸し出す。
「ててて手を出したって、別にそんなんじゃねぇって!?だ、だから首に手を回すのはやめろ!?」
禍々しい殺気を放ちながら首に手を回すシーナの手を必死に引き剥がしながらソウルは叫ぶ。
「……」
そんなソウルとシーナのやりとりを見ながらアリアはプゥと膨れる。
「あぁ〜。ソウルくんって天然ジゴロなんだねぇ」
「くぅ……羨ましい……!」
「えーと……とりあえず紹介しますね。こちらはアリア、私の身の回りな世話をしてくれている【魚の召喚術士】です」
エヴァの紹介を受けてアリアはまたペコリと頭を下げる。
「【魚の召喚術士】!?」
まさか……アリアも召喚術士なのか!?
「はい。同じ立場の者として色々と助けてくれています。けれどある事情があって言葉を発することができないのです」
「……え?」
言葉を話せない……?
「……」
エヴァの言葉を聞いてアリアの表情があからさまに暗くなる。
もしかするとあまり触れられたくないことなのかもしれない。だったら深くは聞かないほうがいいだろうか。
「え…と……よろしくアリア。俺はソウル、こっちはシーナだ」
「……初めまして」
「……」
ソウル達の自己紹介を聞いてアリアはコクリと小さく頷きを返してくれる。
「ではアリア。彼女をここに連れてきてください」
「……」
エヴァの言葉を聞いてアリアはスタスタと廊下の向こうへと歩き去っていった。
「他にも召喚術士がこんなにいるんだな……」
ソウルは苦笑いしながらため息をつく。
これではまるで、召喚術師のバーゲンセールじゃないか。
「いえ。そう何人もいるような力ではありませんよ。それだけ私達の力にはリスクがあるのですから」
「リスク?」
何だろう、人の魂を扱うことだろうか。
「それはね、魔獣を生み出しちゃうことなの」
「魔獣を生み出す!?」
予想だにしていなかった返答にソウルは思わず聞き返す。
「はい。魔獣がどのようにして生まれるか、聞いたことはありますか?」
「いや……魔獣についてはほとんど何も分かってないって聞いた」
あの聖剣騎士団のみんなでさえ魔獣についてはほとんど何も分からないと言っていた。
聖剣騎士団はイーリストの最高権力と言っても過言ではないのだから他の人々も同じようなものだろう。
「そうですね。まずはそこから話を始めましょうか」
そう言ってエヴァは魔獣についての説明を始めてくれた。