オアシスの街
次の日。
どこかへと走り去っていったシーナは明け方に戻って来たが、眠気がキツかったらしい。何度か揺すっても起きる気配がなかった。
起こすのも気が引けたのでそのままソウルは街へと繰り出すことにした。
宿屋の扉を開くとそこには少し眠そうに目を擦るパメラの姿がある。
「なぁ、パメラ。この街の市場とかってどこにあるんだ?」
「んぅ?それはあるけど……何か必要な物でもあるの?あるなら私が揃えてきてあげるけど……」
「あぁ、違う違う。ちょっと見てまわりたいんだよ。もしいいもんがあれば買っておきたいし」
まぁ、所持金なんて持ち出す暇もなかったから大した金額はないんだけど……。
「分かったの!それじゃあ案内してあげるね!」
パメラは大きく伸びをしながらプルプルと首を振る。
こうしてソウルはパメラと共に街へと繰り出した。
ーーーーーーー
パメラについていくと賑やかな市場へと出る。
そこにはいくつもの屋台が並び、見慣れた食材だけでなく見たこともないような食材も並んでいた。
屋台も店によって様々な様式で見ているだけでも楽しくなってくる。
「おぉ……すげぇ……!」
こんなもん、見たことねぇ!色々な料理を試してみてぇ!
ソウルの料理の腕が疼く。
「わぁ〜。ソウルくん、料理ができるの?」
「あぁ。よく料理するんだ。しばらく料理もできてなかったけど」
シーナもいることだし、ちょっと久々に腕を奮ってやるか!
そんなことを思いながらソウルはそこにならんでいた立派な魚に目がついた。
おぉ……見たことないぐらい張りがしっかりしたいい魚じゃないか!これを使って料理が出来たらきっとうまい料理ができる!!
そう思いながらソウルはその魚に向かってを伸ばした。
その時。
パシィッ
「ん?」
「……」
ソウルが掴んだ魚に伸びるもう1つの手。
見ると、そこにはメイド服に身を包んだ女性が険しい顔でソウルのことを見ていた。
「……えーと?」
「……」
女性は綺麗な顔立ちをしており、とても大人びた様相。とてもスタイルのいい身体で、癖っ毛の長いピンクの髪が風に揺られている。
その髪の下から覗く空色の瞳が何かを訴えるようにソウルのことを見つめていた。
「……」
「……」
何も言わないが、魚を掴む手はとても力強い。魚を持ち上げてブンブンと振ってみるがそれでも決して離そうとしない。
えと……何言わないけど……彼女もこの魚が欲しいのかな?
「あぁん?どーしたにーちゃんねーちゃん?そいつが欲しいのか??」
そのやり取りを見ていた獣人の店の主人が怪訝な顔をしてこちらに声をかけて来た。
「…………っ」
すると、目の前の女性は怯えるようにして魚から手を離す。
「お、そんじゃあにーちゃんの勝ちだな!そいつは500ベルだぜ!」
女性が手を離したのを見た店主は手慣れたようにソウルへと気前よく声をかける。
こう言った市場ではよくあることなのかも知らない。その様子を見た女性は口を挟む余裕もなさそうだ。
「……」
あぁ……あからさまにこの女性がしょんぼりしている。
うーん……このレベルの魚を手放すのは正直勿体ないけど、まぁいいか。
「いや、やっぱやめとくよ!ほら、欲しかったんだろ?」
そう言ってソウルは目の前の女性に魚を手渡す。
「……っ!?……っ!っ!」
すると、条件反射でそれを受け取った彼女は驚いたように魚を突き返そうとしてくる。
「いいっていいって、気にすんな!……あ、もしかして金がないとか?だったらほら!」
ソウルは財布の中から500ベルを取り出して目の前の女性の手に握らせる。
「……っ!?!?」
困惑したようにソウルと500ベルを乗せられた手を見比べるが、ここで変にやり取りをしては余計に気を遣わせるだろう。
ソウルはそのままそそくさとその場から逃げ出した。
もしかすると、生活に困っている人かもしれない。何となく【再起の街】のことを思い出しながら人混みの向こうで待つパメラの元へと合流した。
「悪い、ちょっと手間取った!」
「ううん〜。気にしないでいいの〜」
そう言ってパメラはニコニコとソウルを迎えてくれた。
ーーーーーーー
1人ポツンと取り残された彼女はただただポカンとしていた。
あれは…譲ってくれたのだろう。
何も言葉を発せない彼女に優しくしてくれる人はエヴァ様以来だった。
「…り…と」
遠い昔に無くしてしまった声を何とか絞り出しながら彼女はソウルに手渡された500ベルを使って魚を購入した。