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シーナの想い

「エヴァと話ができるのは3日後!?」


「そーなの。ごめんねソウル君〜」


 パメラの言葉にソウルは頭を抱える。


 くっそ……確かシェリーとの戦いからすでに10日ほど経っている。そこからさらに3日……。それだけの期間ソウルはイーリストに帰ることができないということ。ひいては【再起の街】もほったらかしということになる。


 流石にすぐに帰れるとは思っていなかったが……それらの話ができるようになるのは少なくともエヴァと直接話ができるようになってからだ。


 【再起の街】は……そしてジャンヌ達は大丈夫なのだろうか?


 帰ることができないにしても、せめて一眼彼らの安否を確認したかったが……それもしばらく先のことになりそうだ。


「だから、ゆっくりしていってなの!たっくさーんシンセレスとオアシスのいいところを教えてあげるの!!」


「う、うーん……」


 パメラの好意はありがたいんだけど……素直に喜べない。


 確かに時間が欲しいとは言ったけど、その判断をするためにもエヴァに聞かなければならないことはたくさんある。


 だからこの3日は正直デカすぎる。


 せめて……せめてイーリストの内情が分かればありがたいんだけどなぁ……。


 そんなことを思っても、それは叶わぬ願いだということはソウル自身が1番分かっていた。


ーーーーーーー


 というわけで、時間がしばらくあったのでソウルとシーナは街のことをもっと調べてみることにした。


 敵情視察……のはずなのだが、その敵情側のパメラは包み隠さずにどんなことも教えてくれてこのシンセレス国の全体像が見えて来た。


 聖国家シンセレス。


 この国はかつて覇王と戦った者達の生き残りが建国した国。


 しかし、様々な種族が集まることでのトラブルも多かったらしく、それらを統制するために【ディアナ教】ができたそうだ。つまり【ディアナ教】は宗教というよりルール、道徳観といったものでいかなる種族も平和に暮らせるような教えだそうだ。


 だからこそ【妖精樹の大火】で住処を追われた妖精の一族もこのシンセレス国に逃げ延び、シンセレス側もその援助を惜しまなかったそうだ。


 そして、ここシンセレス国の首都オアシスには【ディアナ教】の本拠地【ディアナの塔】を構えこの国の政治を担っているそうだ。


「ますます分からん」


 宿に戻ったソウルはソファに沈みながら天井を見上げる。


 あのエヴァという少女……。彼女の評判だってすこぶるいいものばかりだ。


 女神、聖女、聖人……。街の人々が彼女を褒め称える言葉は数知れなかった。


 一言で言えば、いい奴なんだろう。ならば尚更どうしてあんな強引な手を使ってでもソウルと……そしてシェリーを連れ去ったのか。


 それに1番驚いたこと、それは……。



「何でこの国では召喚術を使えても罰されないんだ?」



 エヴァが召喚術士だという事を皆知っていたのだ。


 それでもなお……いや、むしろだからこそ人々はエヴァの事をより神格化しているようだった。


「もしかすると、この国とイーリストでは考え方が違うのかな」


 シーナは対面のソファに座りながら一生懸命頭を捻っている。


「考え方が違う?」


「うん。力なんて、その人の1つの要素でしかないもん。だから召喚術の考え方が、【ディアナ教】の中で違うんじゃないかな。例えば……イーリストでいう聖剣みたいに神格化されてるとか」


「なるほど……」


 そう考えれば、若くしてこの国の最高司祭をやってるエヴァの立場はジャンヌに通ずるものがあるのかもしれない。


 容姿といい立場といい、何かと共通点が多い2人だ。


「……ねぇ、ソウル」


 すると、ふとシーナが心配そうな顔をしながらソウルの方に顔を向ける。


「……私、邪魔だったかな?」


「ん?何で??」


 シーナの突然の言葉にソウルは目を丸くしてしまう。



「……私、勝手について来ただけだし、レイみたいに頭のいい事だってできない。何の役にも立ててない。ここにいるのが私じゃなくてレイだったら……きっともっといい案を出したりもっと難しい事だって考えつくはず。ごめんなさい、大したことも何もできない足手まといで」



「シーナ……」


 そんなことを考えてたのか。


 しゅんとするシーナを見てソウルは何故か少し笑いが込み上げて来た。


「わっ、笑わないでっ。私は真剣なのに……!」


 それがシーナにも伝わったのだろう。顔を真っ赤にして泣きそうな顔で手を振っている。



「悪い悪い。足手まといだなんてそんなことねぇよ。むしろ謝るのは俺の方だろ?俺が巻き込んじまってシーナはイーリスト国から追放されちまったんだから」



「でも、ソウルだってドランクール遺跡で私を助けてくれたし」


「仲間のシーナを助けるなんて当たり前だろ?そんなことで……」



「当たり前なんかじゃないよ。あの時の私は人のことなんて、信じることができなかった」



 シーナはじっとソウルの顔を見つめながら告げる。彼女のルビーのような瞳がソウルを映し、その真剣な眼に思わず言葉も忘れて見惚れてしまった。



「私は全部を信じられなくて……唯一私の中に残ったお母さんの姿を重ねて騎士になることを決めた。お母さんみたいに誰かを守れば、何かになれるんじゃないかって、そんな不純な気持ち。だけど、ソウルはどんなに逆境でも私の事を見捨てなかった。私と一緒に居たいって、言ってくれた。嬉しかった。空っぽだった私に生きる意味をくれた、だから……」



 そこまで口にして、シーナはギュッと口を紡ぐ。


 彼女の頬は紅潮し、切ない顔でソウルの顔を見てくる。


 そんなシーナの表情に充てられて、ソウルの心臓もドキドキと脈打つ。


「だ…から……えっと……その……」


 シーナは顔を俯かせながら、その先の言葉を探すが見つからない。


 こういう時、何と言えばいいのだろう。分からなかった。



「し、シーナ……俺は……!」



 ガチャッ!



「お待たせしたな!ソウルくん!シーナくん!」



「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」」



 ガッタァァアン!!



 ソウルとシーナは同時に飛び上がり、ソファを倒しながら部屋の壁まで飛びのいた。



「な、なんだ?」



「あっ…あああああアランさん!?」


「どどっ…どしたの!?」


 突如現れた紫の髪の男に動揺を隠しきれない2人は取り繕うように声をかける。


 まぁ、おそらく何も取り繕えてなんかいないんだろうけど。


「あ〜……だから今はダメってパメラ言ったのに……」


 そう言って苦笑いするパメラがアランの背中からひょっこりと顔を出す。



 あ、そうか!?俺達監視対象だったなそう言えば!?



 え、じゃあ待て……今さっきの会話も全部……筒抜けか!?



「あ…あぁぁぁ……」



 シーナもそれに気がついたのだろう。真っ赤になった顔を両手で隠しながらフラフラと立ち上がり、そして……。





「あぁぁぁぁぁぁっ!?!?」





 部屋の外に飛び出してしまった。



「おぉっ!?いかん、監視の目が!?」



「あー……大丈夫なの。パメラのお友達がちゃんと見てるから」


 呆れたような物言いでパメラはアランの肩を叩く。


「な、何があったか知らんが……なんか悪いことをしたな」


「い、いえ……気にしないで」


 ソウルは頭をガシガシとかきながら応える。


「それで、何の用です?」


「そうだ!君達に伝えることがあったんだ!」


 思い出したと言わんばかりにアランはパンと手を叩くと、得意げに告げる。



「ふっふっふ……エヴァ様が、ソウルくん達のために時間を作ってくださった!3日後だ!3日後に迎えにくるから待っていてくれ!!」




「……………………」




 うん、知ってたよ……。


「アランくん……もうそれはパメラから伝えてるの……」


「なにぃっ!?そうだったのか!?あの神官どものバカ達の追求を逃れ、ようやく動けるようになること!流石はエヴァ様、優秀だ!!」


 はぁ……おっちょこちょいだな、この人……。


 何故かドッと疲れたソウルはそう思いながらため息をつくのだった。

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