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パメラ

「やぁやぁ〜?昨日ぶりなの〜」


 翌日、宿屋の扉を開くとそこには薄橙色の髪をした少女が立っている。


「えっと……確か、パメラさん?」


「そうなの〜!覚えていてくれて嬉しいなぁ〜嬉しいなぁ〜!!」


 パッと目を輝かせる彼女を見てソウルは少し拍子抜けした。


 確か、昨日エヴァが別れる時に「1人監視をつける」と言っていたが……まさか彼女が見張りなのか。


「えーっとぉ……確かソウルくんとぉ……シーナちゃんだねぇ?」


 ニコニコと笑いながらパメラは2人の顔を観察している。


「……えと、ふつつかものですがよろしくお願いします」


「違う、それは今ここで使う挨拶じゃねぇ」


 恐らくシーナもこう堂々と見張りをつけられるのは初めてなのだろう。動揺して訳のわからないことをのたまっている。


「いやいやぁ〜?こちらこそぉ〜」


 そんなソウルの言葉を無視してパメラはシーナの言葉にペコリとお辞儀を返していた。


「う〜ん……やっぱりリュカくんの言ってた通りだねぇ〜いい人そうだなぁ〜」


 無邪気、天真爛漫というのだろうか。彼女はにこやかに笑いながらソウルとシーナの顔を見比べている。


 そんな彼女の様子にソウルの肩の力も少し抜けた。


「ははは……まぁ、敵視されるよりはいっか」


 下手に警戒されて何かされるよりはいいだろう。


「…………」


 そんなソウルに対してシーナはギラリとパメラのことを警戒している。


「し、シーナ……すいません。うちのシーナが」


「いいの〜。大好きな人を守る為だもんねぇ〜?そりゃ〜警戒の1つや2つして当たり前……」



「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」



 パメラの言葉を聞いたシーナは堪らずソウルの両耳をバチィンと塞ぐ。


 つまり、ソウルは今シーナの張り手に叩き潰されるような形になるわけで……。



「ぷがぁっ!?」



「あ、あぁっ!?ごごごごめんソウル!!つい……」



 顔を真っ赤にしながらシーナは謝ってくる。



「あっはははっ。面白いの!ごめんねシーナちゃん、可愛いからからかっちゃった」



 そう言ってパメラはウインクしながら舌を出している。反省してねぇだろ、おい。


 なんてやりとりがありながらも、パメラは2人を連れ出すと一軒のレストランへと案内してくれた。



「ここはパメラのお気に入りのお店なの!この店のパンはもう……絶品!!一度食べたら忘れられないこと間違いなし!!」



「そ、そうなんだな……」


「……っ」


 シーナは警戒するような素振りを見せながらも店の中に広がるパンの香ばしい香りに気を惹かれているのか、落ち着きのない様子でキョロキョロとしている。


「でも……何だって俺達をここに?一応監視対象なんだから部屋から出さないほうがよかったんじゃ?」


 あくまでソウル達は監視対象。逃がすわけにはいかない存在のはず……それをこんな迂闊にも外に連れ出すような真似をしていいのだろうか?


「うん?何でダメなの?」


 ところが、パメラは何がいけないのかさっぱり分からないと言った様子でソウルのことを見つめ返す。


「え……いや、だってもし俺達がこの隙に逃げでもすればパメラさんが困ることになるでしょ?」


「あははっ。あなた達はそんなことするような人じゃないってパメラ分かるもん!だから大丈夫!!」


 そんなソウルの心配を吹っ飛ばすようにパメラは楽しそうに笑う。


 な、何でそんな人のことを易々と信じられるんだ……?しかもこんな他国から来た訳のわからないやつを。


「私の魔法でその人の気質が分かるの。【友愛】に【ルーン】のマナ。【共感(シンパシー)】」


 その時、パメラの茶色の瞳がギンと光り、その瞳孔にルーン文字が灯った。



「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」



 ソウルとシーナはその威圧に堪らず距離を取る。


 何だ……このプレッシャーは……?このパメラって子ただものじゃない!?


「安心して欲しいの。パメラは……もっと言えばエヴァ様もアランもあなた達と敵対するつもりはないの」


 何もなかったかのようにパメラは言葉を続ける。



「あなた達…特にソウル君は私達にとって特別。【ディアナ教】にとって、無くてはならない存在らしいの。だからあなたを敵に回すようなことはしないし、その仲間のシーナちゃんにも手を出すことはしない」



「【ディアナ教】……?」


 確か、あのでかい塔の名前もディアナの塔って言われてたか?


「このシンセレス国の国教。かつて覇王を封印した勇者の1人シンセレス・ディアナ様。彼女は荒廃としたこの世界をまとめる為に様々な偉業を成し遂げた。この聖国家シンセレス国は彼女が残した理念と使命を引き継ぐために建国された国なの」


 パメラは2人の反応を楽しむようにニコニコと笑いながら告げる。


「じゃあ……俺やシェリーをこの国に連れて来たのはその【ディアナ教】の何かが理由ってことか?」


「詳しいことは私もよく知らない。代々の最高司祭にのみその情報は伝えられてるの。パメラ達が知るのは『みんなに優しく』とか、『困っている人がいたら助けてあげる』とか……みんなが仲良く暮らしていくための教えだけなの」


 ってことは……俺がここに連れてこられたのはその【ディアナ教】ってやつのせいか……。


 っていうか、イグ教の時にも思ったが、正直こんな訳の分からない宗教に振り回されてばっかで嫌になる。


 何なんだよ一体……こいつらの狙いはなんなんだ!?



「お待たせしまし……た?」



 そんな一触即発の空気の中、何も知らない店員が料理を運びに来て状況を理解できずに困惑している。


「おぉ〜!待ってたの〜!!さぁ、食べよ〜なの」


 先程までのピリピリした空気はパメラの一言で何処かへと消え去り、パメラはバスケットの中につまれたパンに手を伸ばす。


「ん〜〜〜っ!!おいしいなぁ……おいしいなぁ!やっぱりここのパンは最高なのぉ……」


 どこか恍惚な表情を浮かべながらパメラは目の前のパンにかぶりついている。


「……じゅるり」


「……やれやれ」


 隣で物欲しそうな顔で眺めているシーナを見て、ソウルはガシガシと頭をかきながら警戒を解く。


「食おう、シーナ。少なくとも今パメラは俺達と敵対するつもりはないみたいだしさ。昨日からほとんど何も食ってないんだ、腹減ったろ?」


「……っ、う、うん」


 少し逡巡していたようだが、やがてシーナは突き倒した椅子を拾い、席につくとそのままパメラと同じようにパンへと手を伸ばす。


「……っ!お、おいしい」


「ほんとだ……うめぇなこれ!!」


 外はサクサクに焼き上がっているのに中身はふわっふわ。表面にバターを塗り込んでいるのだろうか?焼き上がったパンの香ばしさにさらに拍車をかける。


「いくらでも食べていーの!ここはパメラちゃんの奢りなのーっ!!」


 そんなソウル達の反応に満足したのかパメラはご機嫌に言う。


 ここはパメラの好意に甘えてたくさん食べさせてもらうとしよう。


 そうだ……結局はやることは変わらない。難しいことはエヴァに聞かなければならないんだ。だったらソウル達にできることはここで英気を養うこと。


 何かあった時に動けるようにしておくことなのだから。

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