宿にて
馬車を降りたソウルとシーナはディアナの塔の隣にある豪華な建物へと案内された。
どうやらそこは豪華な宿屋のようでソウルはそこの高級なベッドにその身を投げ出した。シーナもそれに倣って隣のベッドへと倒れ込む。
「……あぁ、疲れた」
「うん……ほんとに」
そう言ってソウルとシーナは2人仲良くため息をつく。
ソウルとシーナは同室でここに寝泊まりすることになった。
別々の部屋では互いの安否が確認できないとエヴァが気を遣ってくれたのだろう。ありがたい。ありがたい……のだが……。
「………………」
「?どしたのソウル?」
「い、いやぁ……何でもねぇよ」
ソウルは動揺をかき消すように告げる。
何故だ……?何故、こんなに落ち着かないんだ……?
前……うちにシーナが泊まったあの時は何も思わなかったはずなのに……何で!?
「……?よく分からないけど取り敢えずソウル。服脱いで」
「ぶぅぅぅぅっ!?!?」
シーナの言葉にソウルはたまらず飛び上がって距離を取る。
「なっなっなっなっなっ!?何言ってんだバカ!?おまっ、言葉の意味がわかってんのかぁ!?」
「えと……まだ傷が治ってないからお風呂は入れないだろうし、身体を拭こうと思っただけなんだけど……?」
シーナは困ったように苦笑いしている。
はっ!?
「い、いやいやいや!?それぐらい俺1人でもできる!!だから……だからぁぁぁあ!?!?」
いやらしい妄想をしてしまった自身の煩悩を誤魔化すようにソウルは浴室へと飛び込むと、そのまま勢いよく扉を閉めた。
ーーーーーーー
「あ、危ねぇ……」
ソウルは風呂桶に溜めたお湯にタオルをつけながらため息をつく。
何だって俺はこんなに動揺してるんだ。前にだって似たような状況はあっただろう?何を今更……。
そう思いながら浴室の鏡に映る自身の顔を見つめる。
「…………」
今は、それどころじゃないだろう。
半ば勢いでここまで来てしまったが、とんでもない事になってしまったものだとソウルはため息をつく。
これから俺は、どうすればいいのだろう。
イーリストでは俺はもう呪われた魔法使いとして扱われるだろう。なら、このシンセレス国で厄介になるべきなんだろうか?でも、それはソウルの願うところではない。
あそこには大切な仲間が……友達がいる。このまま一生帰れないなんて……正直受け入れ難い。
それに俺は大切な人を守るために騎士になったんだ。ここにいることはそれを果たせる状態じゃないだろう。
それに加えてエヴァの言葉。
『あなたをここで失うわけにはいかないのです【虚無の者】よ』
『本来の役目を捨て、己が私利私欲のために聖剣を利用し続ける堕ちた聖剣使いよ』
分からないことが多すぎる。エヴァは何故俺を……いや、俺達を助けたのだろう。その意図が測りきれない。
【虚無の者】って何だ?それに、堕ちた聖剣使いって、どういうことなんだよ?
それに、1番は……。
「オリビア……」
何故、彼女はこんなことをやったのだろう。それに、どうして彼女は俺達の前に姿を見せないんだ?
何だよ……何か意図があるのなら、直接言えよ!!俺達、仲間じゃなかったのかよ……!!
自然と瞳から涙がこぼれ落ちた。
悔しいような、悲しいような。どこか腹立たしいような。いくつもの感情がソウルの胸の中を這いずっては抉る。
なぁ……俺達が過ごしてきた日々は、お前にとって何でもなかったてってのかよ。オリビアのこと、大切な友達だって思ってたのは俺達だけだったってのかよ。
1人だけの浴室に、ソウルの歯軋りの音が響く。
「なぁ、教えてくれよ……」
そんなソウルの呼びかけに応えるものは誰もいなかった。