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馬車の中で

 ガタガタと馬車が揺れる。


 馬車の天井を眺めながら、ソウルはボーッと窓の外を見ていた。治療は受けたがまだ身体にはダメージと疲労が抜けきっていない。


 あれから約10日。様々な手続きややり取りがあってしばらく牢屋に入れられたあと、ソウルは馬車に乗せられてシンセレス国へと連れて行かれている所だった。


 馬車の中を見渡すと、そこにはあの時闘技場に乗り込んできた金髪金眼の少女と、それを目の敵のように睨むシーナがいる。


 おそらく彼女がソウルとシーナを逃さないための見張りをしているのだろう。



「え…と……あんたは聖国家シンセレスの人なんだっけ?」



 しかし、このまま沈黙のままいるのも気が重くて仕方がない。ソウルは頭をガシガシとかきながら目の前の少女に話しかける。


 少なくともあの場面からソウルとシェリーを助けてくれたし、今のところ敵意はなさそうだ。


 だったら、多少彼女……確かエヴァと言ったこの少女と打ち解けておいて、悪いことはない。


 それに、彼女には聞きたいことが山ほどある。


「はい。初めましてと言わせていただきます。私はサンクトゥス・ラ・エヴァ、聖国家シンセレスで最高司祭をしております。この度は突然こんな強引な手を取ってしまい申し訳ありませんでした」


 エヴァはそう言ってソウルとシーナには深々と頭を下げてくる。


「いや…それはいいさ。気にしないでくれ」


 そう言いつつも、ソウルは複雑だった。


 確かに助けてもらったことは素直にありがたいのだが、イーリスト国を離れること、そして彼女に何の意図があるのかが分からないことが素直に喜べない理由だ。


 それに、ジャンヌの……ソフィアの事が気がかりで仕方がなかった。俺のせいで立場を追われ、これまで積み重ねてきた物を失ってはいないだろうか?


 いっそ、あのまま俺が殺されてしまった方が良かったんじゃないかという思いが頭を離れない。


「……あなたはソウルを助けてくれたし、私のこともこうして守ってくれてる。だからある程度は信用してる。でも、ソウルに手を出したら許さないから」


「し、シーナ……」


 ギンとエヴァを睨みつけるシーナを見てソウルは苦笑いする。


「安心してください。私はソウルさんとシェリーさんの敵ではありません。それにもっと言えばシーナさん、あなたの敵でもありません。私のことを信用しなくても構いませんが、そこだけは理解してもらえると嬉しいです」


 そう言ってエヴァは優しく笑う。


「……」


 そのやり取りだけで、本当にエヴァに敵意が無いのだろうという事が何となく理解できた。


 このエヴァという人には不思議な魅力がある。ジャンヌのそれとはまた違う。


 ジャンヌと同じ金髪金眼の容姿がそうさせるのかは分からないが、何故か目の前のエヴァとジャンヌが重なってしまい、比べてしまう。


 それに、何となく。何となくだが、彼女の立ち振る舞いに違和感を感じるのだ。


 本音で喋っていないというか……どこか近寄り難い雰囲気があるというか。


 敢えて、そういう風に立ち振る舞っているようにも感じられた。


「……それよりも、気になる事がある」


 そんなことを考えていると、シーナがおもむろに口を開く。



「……オリビアの事。あなた、オリビアに一体何をしたの?」



「っ。」


 シーナの言葉にソウルはハッと息を呑む。


 そう、オリビアのこと。


 お守りの首飾り……今はそこにはめられた宝石のような緑の石は砕け、色を失ったそれから現れたのは目の前のエヴァと、そしてオリビアだった。


 しかも、彼女の頭からは2本の触覚……あれは一体何なのだというのか。



「……」



 シーナの問いに対して、エヴァは暫し口をつむぐ。


「なぁ……どういうことなんだよ?なんでオリビアがあんたと一緒にこの首飾りから飛び出してきたんだ?それにあの姿……お前一体オリビアに何を……」



「……私は、何もしておりません」



 ソウル達の問いかけに、エヴァは重いその口を開く。



「あれは本来のオリビアの姿です。そうですか……確かにイーリスト国内ですし、普段はそれを隠していると言っておりました。ならば困惑するのも致し方ないことですよね」



「……意味がわからない。本来の姿って何?オリビアは私達の友達。もしオリビアに何かひどいことをしてるなら許さな……」



「彼女は人間の一族ではありません。妖精の一族です」



 …………………………………………………………………………は?



 エヴァの言葉にソウルとシーナの時が止まる。


 オリビアが……妖精の一族?



「な、何言ってんだ?何を根拠にそんなこと……」



「元々、妖精の森出身なのです。あなたもよく知るでしょう、【妖精樹の大火】。あの事件によってオリビアも私達の国、シンセレスへと逃げ込んできたのです」



 オリビアが……妖精の森出身?


 シンセレス国に逃げ込んだ……?


 ソウルの頭に巡る疑問に応えるようにエヴァは口を開く。


「私達の国、シンセレスはこの世界、ウラリシア大陸の中心に位置する国……北に軍事国家ヴルガルド、南に亜国フェラルド。そして東にイーリストを構えています。故に私達は下手に国同士の関係を崩そうとはせず、常に中立としてそれらの国と良好な関係を築くようにしてきました」


 エヴァはそう言って静かに馬車の外へと視線を向ける。


 そこには遠くに伸びる平原と、その向こうには青々と広がる深い森林があった。



「ですので、イーリストはもちろん他の国々へも私達の国の知識や技術……そして人材を派遣し、世界の発展と調停を測って参りました。オリビアもその中の1人。特に彼女は【魔導機】への見聞が深かった」



「【魔導機】……あれか?あの石板みたいなやつ」


 かつてソウルが入団試験を受けるときにオリビアが使用していたあの道具や、ジェイガンの過去を調べるのに役に立ったあれのことだろう。


「そう、それです。妖精の力を持つ彼女はそれへの高い適性があった。そしてそれと同時にもう1つ、重要な使命がありました」


「重要な使命……?」


 エヴァの言葉にソウルとシーナはゴクリと息を呑んだ。その時だった。



「エヴァ様!ご無事ですかぁっ!?」



 突如、馬車の中にそんな声が響き渡った。

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