表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
617/1167

黒幕

「そ、そんじゃあ……」


 話終えたアルにギドは確認するように尋ねる。


「はい……。シンセレス国の最高司祭という方に連れて行かれてしまったんですわ。理由までは分かりませんけれど、ソウルと死神の存在がこの世に必要だと……」


「さっ、最高司祭様が!?そんな…あのお方がこんな強引な手に出るなんて……信じられません」


 モニカも驚愕と言った顔で告げる。


「あぁ……そっか。確かモニカは昔シンセレスに行っていたんだったね」


「は、はい。なのであのお方……サンクトゥス・ラ・エヴァ様がそんな事をするだなんて、余程のことだと思います」


「うむ。確かに隣の最高司祭様のことは僕も風の噂に聞いたことがある」


 アゴに手を当てながらエドワードは口を開く。



「サンクトゥス・ラ・エヴァ……若くして聖国家シンセレスの全権を任せられた女性。イーリストでいうそれこそ聖女様のような存在だと。いかなる者にも平等に接するその姿は【聖国家の女神】という異名もあるほどの人格者と聞く」



「そ、そんなすげぇ奴がなんだってソウルを……ましてやこんなめちゃくちゃなことしでかしてまで連れていきやがったんだよ」


 聞けば聞くほど理解できない状況にギドは堪らず頭を抱えて床に座り込む。


「……きっと、【召喚魔法】なんだと思う」


 しばらく黙り込んでいたシドが1つ1つ整理するように語る。


「その女神様の『世界のために』という文言が気になる。今のところ彼女が連れていった2人の共通点は【召喚魔法を扱える】ということ。そして……その女神様も召喚魔法を使っていたかもしれない……そうだね?」


「は、 はい。そうですわ」


「だったら、【ソウルと死神は召喚術士だから連れていかれた】。そう考えるのが自然だ。その理由までは分からないけど……」


「なるほどな……流石シドだ。そんじゃあ、こんな時にあいつは……レイはどうした!?この非常事態にここにも顔出さずにあいつは何やってんだ!?」


 そうなると、この場にいないソウルの親友レイのことが気がかりになる。


 確か死神との戦いの間は意識がないと聞いたが……。


「レイは……あの戦いの後目を覚ましたのですけど、今は部屋に閉じこもってしまいましたの」


「閉じこもっただぁ!?んなもん引きずり出せ!!」


「鬼かお前は!?」


 あまりの言い草にロッソがギドに突っ込む。


「状況は全てお伝えしております。するとレイ様は『やることがある』と……。何やら部屋で机に齧り付いて色々な書類を書いているようでした」


「彼は、無駄なことをするような男じゃない。何か必要な事があってそうしているのだろう。だから今は僕らが何をどうするのかを考えなければ……」


 エドワードの提案に皆、同様に頷く。


「だったら、あいつ……オリビアとマルコさんにも伝えるべきだな。このことは誰か伝えに行ったのか?」


 ギドの言葉にアルはギクリとした。


「……ちゃんと話を聞いていたか?ギド」


 そんなアルを見かねてエドワードはギドの頭を軽く小突く。


「あん?なんだよ」



「アルが言っていただろう?エヴァ様が出てきた首飾りを渡したのも、そして彼女と共に現れたのもオリビアだ」



 そこまで聞いたギドは見る見る顔が青ざめていく。


「おい…嘘だろ……?まさか……?」


「あぁ……そうだ」


 エドワードは歯痒そうな顔をしながら告げた。



「今回の件……全てオリビアが手引きしていたと見て間違いないだろう。いつ、どこからそうしていたのかまでは分からないが……元々オリビアはシンセレス国側の人間……。アルの話を聞く限りではおそらく妖精の一族だろう。彼女が今回の騒動を導いた黒幕だったんだ」



ーーーーーーー



「あの、レイ様?」


 ガチャリとマコは扉を開く。そこには一心不乱に書類に何かを書く殴るレイの姿があった。


「えっと……そろそろお休みになられてはいかがですか?ここでレイ様まで倒れられては、どうしようもありません」


「……うん。ありがとうマコ。でも、そればっかりは今できないんだ」


 書類から手を逸らすこともなくレイは応える。



「今、騎士のみんなには海外への渡航が……特にシンセレスへの渡航が止められてしまっている。だから僕もアルも、シンセレスへとソウルを助けに行くことができないんだ。だったら、僕がするべき事は『これまでソウルが積み上げてきたものを守ること』。この【再起の街】を守ることだ」



 領主となっていたソウルが闇の魔法使いという扱いになってしまった以上、この街への支援は止まる。


 だったら完全にそうなる前に何か手を打ってこの街を守り抜かなければならない。


「分かっています……でも、でも……!!」


 何もできないマコはギュッとその手を握りしめる。


 ただ、私の仕えるべき主人を見送ることしかできなかった無力な自分に腹が立つ。


 でも、今の私にできることなんて何も……。



「マコ……頼みがある」



 すると、レイは1枚の封筒をマコに手渡した。


「こ、これは……?」


 そこには1枚の手紙と旅券のようなものが入っている。



「僕らはソウルの仲間の騎士だった。おそらく見張りがついている」



「……っ!?」


 おそらくレオンの息のかかった者だろう。ソウルのために何かしないかと、警戒しているのだ。


「だから僕は自由に動けない。だけど、君なら自由に動けるはず……だから、君に託したいことがある」


 マコはソウルの秘書だがそれは国に報告しておくようなものではなく、こちらで内々的に依頼していたことだ。つまりマコが……年端のいかない彼女はそこまでマークが厳しくないだろうというレイの読みだ。


「は、はい……もちろんです。しかし、これは一体……?」


 レイはマコの耳元に口を寄せながら小声で説明する。


「簡単な話だよ。騎士である僕らはソウルのために自由に動くことはできない。だったら、騎士じゃない誰かに助けを求めればいい」


「騎士じゃない誰か……?でも、そんな都合のいい相手がいるのですか?」


 そう。ソウルを助けるためならば、きっとそれ相応の手練れが必要だ。でも、騎士でもない一般人にそう都合よく協力してくれる人がいるとは思えないのだが……。



「ダメ元だけど……1つ心当たりがあるんだ」



 レイはいつもの爽やかで、それでいて何か良からぬ事を考えついたような笑顔でマコに作戦を説明した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ