表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
616/1167

ソウルの処遇

「聖国家シンセレス最高司祭、サンクトゥス・ラ・エヴァとして宣言します!!シン・ソウル、並びにヒコノ・シェリーの身柄は私達が預かります!!」



 目の前の金髪金眼の少女が高らかに宣言する。


 それと同時に闘技場内に動揺と戦慄が走った。



「……それはつまり、シン・ソウルと死神をシンセレス国へ連れていくと?そういう事ですか?」



「はい。その通りでございます」


 確認するように告げるレオンに対してエヴァと名乗った目の前の少女ははっきりと答える。


 ジャンヌのそれとは違い、物腰の柔らかそうな態度でありながらも、凛としたその姿はまるでジャンヌと同じような印象を与えてくる。


 何が何だか分からないソウルはただ呆然と2人のやり取りを見守ることしかできない。



「分かっているのですか?これはイーリスト国の問題です。それを別国のあなたが横槍を入れ、あまつさえ武力を行使するなど、外交問題……下手をすれば戦争にもなりかねない行為だということが!永久中立国を宣言する聖国家シンセレスとは思えない蛮行だ!!」



 声を荒げながらレオンは聖剣を構える。



「はい。重々承知しております。ですが、彼ら2人の身の安全はシンセレス国が総力を持って守らなければならない。この世界を守るために、必要なことなのです!だから、それも全て覚悟の上でございます!!」



 エヴァが手を振ると、彼女の上に展開した光の天使がその手に握る剣と秤のような物を構えた。



「ま、待ってください!悪いのは俺なんです!禁忌の魔法を使う俺が……だから」


 このままでは全面衝突。もし、本当に彼女がシンセレス国の最高権力者なら、下手をすれば全面戦争である。


 けれど、エヴァと呼ばれた少女は一歩も引こうとしない。



「話はオリビアから全て聞きました。あなたは何も間違ってなどいない。間違っているのはこの国のあり方です。それに、あなたをここで失うわけにはいかないのです【虚無(ゼロ)の者】よ」



「【虚無(ゼロ)の者】……?」



 エヴァの言葉の意味が分からない。


 何だ?虚無の者って?この人は一体何がしたいんだ?



「……ソウルを守ってくれるのなら、私も加勢する」



 すると、ソウルを庇うように抱きしめていたシーナがフラリと立ち上がると、エヴァの元へ歩み寄る。



「まさか……あなた、聖剣使いでしょう!?ここで私と戦えば全てを失います!そんな事はおやめなさい」



「……私の全てはソウルだから。ソウルさえいてくれればいい。それ以外は……悲しいけど諦められるから」



 エヴァはチャキリと刀を構えるシーナを見て驚いたような顔をする。


 だが、その顔を見て彼女の覚悟が伝わったのだろう。それ以上はシーナを止めなかった。


「……分かりました。でしたら、あなたも共に行きましょう」


「……うん」



「貴様……!聖剣使いでありながら、イーリスト国に楯突くと言うのか!!」



 そんなシーナを見てレオンは怒りの声をあげる。


「恥を知れ!この売国奴め!!」


「……そんなのどうだっていい!私は私が正しいと思うことをする!!国がどうとか関係ない!!私はソウルが間違ったことをしたとは思わない!!恥を知るのはあなたの方でしょ!?」


「……っ!」


 シーナの言葉にレオンは明らかに動揺した。



「そう、恥を知るのはあなた方の方です!本来の役目を捨て、己が私利私欲のために聖剣を利用し続ける堕ちた聖剣使いよ!!」



 両者共に引くことはなく、どんどんと険悪になっていく空気。


 ダメだ……もうこれはどうしようも無い。このまま……ぶつかるしか無いのか……!?



 シェリーとの戦いで全てを出し切ったソウルは身体を動かすこともできず、歯痒さを感じながらただそのやりとりを見守ることしかできない。



 どうすれば……どうすればこの場が収まる!?



「そこまでだ」



 そんな思考を回していると、闘技場の中に1つの声が響く。



 ビリビリと威圧感を与えてくるその声の方を見ると、優美な服とマントに身を包み、白い髭を蓄える王冠を冠った1人の老人が立っていた。



「〜〜〜〜〜っ!!陛下!?」



 レオンが慌てふためきながらその場にひざまづく。


 陛下……?まさか……あれは……。



「……あれが、イーリスト国王フレデリック様?」



 シーナの言葉にソウルも堪らず息を呑む。


 イーリスト国国王、フレデリック。この人は病に蝕まれ、余程のことでは表の世界に出てくることはない。


 だから、ソウルは一度だって王の姿を拝見したことはなかったのだ。



「久しいな……実に12年ぶりぐらいか?」



「はい。あなたの国が妖精の森を焼き払ったあの事件以来かと」



 両者のやり取りにピリピリと胃が痛くなるような緊張が走る。



「して……この事態はなんだ?お主の召喚術まで展開し、今まさにうちのレオンと一触即発の空気だったように見えたが?」



 ゆっくりと闘技場の中を見渡しながら、ここで起こったことを確認するようにフレデリック王は語る。その一挙一動が皆に緊張を与え、ソウルは身体中から冷や汗が止まらない。


 それでも、目の前の少女エヴァは決して物おじすることなく凛と言葉を放つ。



「はい。私は聖国家シンセレス国の最高司祭としての使命を果たしに参りました」



 そう言ってエヴァはソウルとシェリーの方へと目をやる。



「あの2人は、我が国シンセレスにとってなくてはならない存在。ひいてはこの世界を守るために、こんな所で死なせても良い存在では無いのです。故に私達は彼らを保護し、我が国へと連れてまいりたいと考えております」



「……ふむ」



 蓄えた髭をさすりながら、フレデリックはレオンとエヴァを見比べる。



「し、しかしフレデリック王よ!あの娘は連続騎士殺害事件の犯人、【死神】です!そしてそこにいるシン・ソウルは自身が禁忌の召喚術士であることを隠しながら騎士へと潜入してきた!言わば政治犯です!ここでそう易々と解放する訳にはいきません!むしろ、ここでシンセレスに逃がしてしまえば、我らの国の情報が漏れる!そんなリスクは回避しなければならないでしょう!?」



 レオンは対抗するようにフレデリック王に進言する。




「……ならば問おう、レオンよ。その死神を討ったのは誰だ?」




 少し悩んだ後、フレデリック王はレオンにそう問いかけた。




「そ…それは……!」



 レオンはギリリと歯を食いしばる。


 民衆も見ていた。嘘はつけない。



「……シン・ソウルでございます」



「……そうか」



 レオンの言葉を聞いたフレデリック王はエヴァに向き直ると、その重い口を開いた。




「……いいだろう。サンクトゥス・ラ・エヴァ、貴様の好きにするが良い」




「なっ!?」



「……寛大な御心、感謝申し上げます。フレデリック王」



 フレデリック王の言葉を聞いたエヴァは両手を合わせ、深く頭を下げる。


「ただし死神については拘束し、牢に閉じ込めておくこと。また逃げられてしまえば我が国の優秀な騎士が殺されるやも知れんからな」



「もちろんでございます……。それでは、彼らを私達の国……聖国家シンセレス国へと連れて参ります」



「ま、待てよ!そんな勝手に……」


「ソウル、今はダメ」


 異議を申し立てようとするソウルの口をシーナが瞬時に塞ぐ。



「今は……従うべき。今ここにいたら、ソウルが殺されちゃう。そんなの何の意味もない。大丈夫、私も一緒に行く。危ないことがあったら一緒に逃げよ?だから今は堪えて」



「…………っ」


 シーナの言うことはもっともだ。


 ここで異議を申し立てたとしても、待っているのはソウルの死。それで他のみんなが助かるのならそれでもいいのだが、ジャンヌはソウルを討つことを拒否した。


 だから、今ここでソウルが討たれたとしてももう何にもならない。ただの無駄死にだ。


 だったら、ここは彼女に……エヴァと名乗る少女に従う方がいいか。


 それに……。



「……オリビア」



「……」


 ソウルが声をかけてもそこに立つ少女は振り返りもしない。


 一体、彼女に何があったのか?何かされたのであれば、オリビアを助けなくてはならない。だから、まだ死ぬわけにはいかないだろう。


「……ありがとな、シーナ。決心ついたよ」


「ん」


 シーナの頭をポンポンと撫でながらソウルは覚悟を決める。


 まだ、終わっていない。まだ、やらなきゃらならない事が残っているようだ。


 こうして、ソウルとシェリー、そしてシーナの処遇が決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ