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終焉2

 ジャンヌの手にエクスカリバーが顕現する。


 そう……分かっている。ここでソウルを討たなければならない。そうしなければ、聖女としての私は終わる。



 そうだ、頼む。ここで俺を斬ってくれ。


 これからもあなたを支えていきたかったけれど、もうそれは叶わない。むしろ、ソウルの存在がジャンヌの枷となってしまう。


 だから、俺を討ってくれ。斬り捨ててくれ。


 俺なんかの代わりなんて、いくらでもいるはずだから。きっとレイが、アルが……そしてシーナが代わりにあなたを支えてくれるはず。


 ここであなたの未来のために死ぬのが俺の使命なのだから……一思いにやってくれ!



 膝をつくソウルにジャンヌが剣を振り上げる。


 そして、ソウルは振り下ろされるその断罪の剣を受け止めるためにそっと瞳を閉じた。



 あぁ……さよならだ。ごめんな、オリビア。約束……守れなかったな。





 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………?





 しかし、いつまで経っても振り下ろされるはずの刃が来ない。


 ソウルは何が起こっているのかと、そっと瞳を開いてみる。





「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」






 剣を振り上げたままのジャンヌが、そのままの姿勢で固まってしまっていた。


 その表情は、これまで見てきたどの彼女とも違う。今にも泣きそうで、崩れ落ちてしまいそうで。


 それはそう、絶望だ。


 これほどまでに彼女が絶望に満ちた顔をしているのを、ソウルは見たことがなかった。



「そ、ソフィア……!」



 止めてくれ……そんな顔を……しないでくれ……!!


 そんな顔をされてしまっては、ソウルの方が苦しくなってしまう。


「は、早くやってくれ……!このままじゃ、みんなが誤解する!ここで俺を殺す意味がなくなっちまう!!」



「で…できない……!私には……私には、君を殺すことなんて……できない、できるはずがない!!」



 ボロボロと涙をこぼしながらジャンヌは告げる。



「ダメだ!俺の代わりなんていくらでもいる!!でも、あなたの代わりはきっといない!!だから……だから」





「私にとって、君の代わりなんていない!!!」




 闘技場内に響き渡るジャンヌの叫び。



 その迫力に闘技場はシンと静まり返り、ソウルは呆然とするしかできなかった。



「君の……君の代わりなんて……他にいない。私にとって……君は唯一無二の存在だ……ソウルを斬らなければならないのならば、私は聖女なんて……やめる」






 ……………………………………………………え?






 ジャンヌの言葉にソウルは思考が停止した。


 な…んで……?なんで……そうなる?


 これまで、聖女として立ち続けることに全てをかけてきた彼女が……何で、俺のためにそこまでするんだ?



「いかん!ジャンヌよ!早くその男を斬れ!!」



 レオンが焦燥したように叫ぶ。



「いやだ……できない。私には……私には……!」



「ちぃっ!」



 レオンはたまらず聖剣を抜くとソウルに向かって斬りかかる。



「ならば、私がお前を斬ろう!禁忌の術を使う悪魔よ!」



 ガギィイン!



「何っ!?」



「……ソウルに、傷1つつけさせはしない……!」



 レオンとソウルの間に1人の少女が立ち塞がる。



「ばっ……!?何やってんだシーナ!やめろ!!」



 そこにはソウルを庇うように朧村正を構えるシーナの姿があった。


 ダメだ……!


「ばか!やめろ!!ここで俺を庇いなんかすればお前も殺されるぞ!!」


 禁忌の術を使うソウルのことを庇えば、彼女だって同罪となってしまう。


 今なら聖剣使いとしての道に戻ることができるんだ!だから……。



「絶対に引かない!だって、私が今ここで生きていられるのはソウルのおかげだもん!ソウルとずっと一緒にいるって誓ったの!!だからこんな所で死なせなんかしない!!私があなたを守る!!あなたのいない未来になんて、私は何の希望もない!!あなたがここで死ぬのなら、私もここで死ぬ!!!」



 しかし、シーナは首を横に振り目の前のレオンに刀を構えた。



「……愚かなり。【火聖剣】の使い手よ。何故そこまでして彼を守ろうとする?」



「そんなの決まってる!ソウルは世界に必要な人だから!!こんな所で死んでいい人じゃない!!だから私の命に替えても守る!邪魔はさせない!!」



「ば…か……やろう」



 ソウルはギリリと歯を食いしばりながら溢すように告げる。


 シーナの気持ちは嬉しい。だけど、このままでは彼女もソウルと一緒に殺されてしまう。それだけは耐えられない。せめて死ぬのは俺だけでいい。


 だから……だから!


「止めろシーナ!頼むから……俺のせいで死ぬなんて、許さねぇぞ!!」


「私だって!!ここでソウルが死ぬことは絶対に許さないから!!」



 ソウルの言葉に反発するようにシーナは叫ぶ。


 それを見たレオンは何かを諦めたようにため息をついた。



「そうか……ならば私ももう諦めるとしよう」



 そしてレオンはスッと手を上に掲げる。それと同時に彼の配下騎士達は一斉に詠唱を始めた。




「だ…ダメだ……ソウル……」



「いけません!ジャンヌ様!」



 ソウルに駆け出そうとするジャンヌをケイラとハミエルが止める。



「やめろ!離せ!離してくれ!!このままではソウルが……ソウルが……!!」



「……っ!」



 泣きじゃくるジャンヌにケイラは堪らずボロボロと涙をこぼす。



「……っ。それでも、あなたは立たなければならない!10年前のあの日、アレックス様に誓ったでしょう!?」



「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」



 あの誓い……。分かっている。分かっている、だけど!!



「嫌だ……!ソウル!ソウルーー!!!」








「……放て」








 レオンは振り上げた手をソウルに向けて振り下ろす。





 ゴッ!!





 そして四方からいくつもの魔法がソウルと、そしてシーナ目掛けて撃ち放たれた。




「……っ!」



「ソウルっ!!」



 シーナはソウルを庇うように抱きしめる。



 いくつもの魔法が迫りくるその時は、一瞬の出来事のはずなのに。何故かそれがとてもゆっくりなものに感じた。




 あぁ……終わる。これで俺は死ぬんだろうか。




 そんなことを考えるソウルの思考は冷静だった。


 人間、死ぬ時はそんなものなのだろうかと、悟りに近いようなものまで感じた。



 このまま、潔く散ってやろうと。ソウルはそんな風に思った。


















「こんなところで、あなたを死なせはしません!!」












 カッ!!









「……っ!?!?」







 突如として、闘技場内に緑の閃光が放たれる。




「何事だ!?」



「こ、これは!?」



 その光が放たれているのはソウルの首元。



 かつて、オリビアから渡されたお守りのペンダントが眩い光を放っていた。


 そして、その光の中から何かが……いや、誰かが現れた。




「【ノーザン・ライト】!!」




 次の瞬間。闘技場内に虹色のヴェールがかかり、ソウルたちを覆う。そしてその光は数多の魔法を全て弾き返してしまった。



 バチィィィィン!!



「何だ!?」




 動揺するレオンの声。



「まさか……!?」



 騒然となる闘技場内。


 見上げると、そこには大きな翼を広げる美しい男性の姿。虹色の翼を展開する神話の中の存在が顕現している。



「天使……!?」



 6枚の虹色の翼を広げ、闘技場を見下ろすその姿はまるで、神話の中に出てくる天使そのものだった。


 その神々しい姿にある者は見惚れ、ある者は震え上がり、またある者はそっと手を合わせ祈った。



 騒然となる人々の中、唯一別の理由で言葉を失っていたのはソウルだった。





「……あなたは?」




 ソウルの前に立つのは、肩にかかるぐらいの長さの髪をした少女。その髪は金に光輝き、その瞳も同じような金の光を放っていた。



 ジャンヌと同じ金髪金眼。



 一体、お前は誰だ……!?



 いや、それよりも信じられないものがある。



 彼女の隣に立つ1人の少女。茶色い髪と、トレードマークの白いバンダナが虹色の光に当てられて光を反射する。しかし、今それは彼女の頭から取り外され、右手に握られていた。



「オリ…ビア……?」



 何で、彼女がここにいる……?いや、それよりも気になることがある。



 彼女の頭……普段バンダナで隠されたその下。






 そこには半透明の2本の触覚のようなものが生えていた。






「……ソウルさん、シーナ」



 オリビアはそっと2人を一瞥するが、そのままそこに現れた少女と共に前を向いてしまう。



 ソウルとシーナはただ言葉を失い、目の前に現れた2人の存在に釘づけになることしかできない。



 そんな中、金髪金眼の少女は手をあげ、そして力強く叫んだ。



「聖国家シンセレス最高司祭、サンクトゥス・ラ・エヴァとして宣言します!!シン・ソウル、並びにヒコノ・シェリーの身柄は私達が預かります!!」

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