終焉1
意識を失ったシェリーを見て、ソウルはホッと一息つく。
きっと、届いただろう。彼らの想いも、そしてシナツの決意も。
確かに彼女は多くの騎士を殺してきた殺戮者だ。その罪だけはきっと許されることじゃない。だけど、それぐらいは許してやっていいんじゃないか。
家族の本当の想いを知ることと、そして彼女のために全てを投げ打った彼らの想いを知る権利ぐらい、あってもいいじゃないかと、そう思う。
そして……。
「きゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
「ばっ、化物めぇ!!」
「と、とっとと捕まえちまえ!!早く!!」
響き渡る悲鳴、飛び交う罵詈雑言。
それをただ受け入れながらソウルは空を仰ぐ。
ここまでだ。俺の…騎士ソウルの物語は……。
禁忌の魔法。【召喚魔法】。
ソウルがその使い手であることが世間に露呈した。
もう、言い逃れはできない。ここで、ソウルは終わりだ。
「包囲しろ!!」
よく通る声が闘技場内に響き、観客席の中から1人の男が飛び出してくる。それに続く形で何人もの騎士たちがソウルと、そしてシェリーを取り囲むように展開した。
「聖女ジャンヌよ……」
そして、イーリスト国騎士団長のレオンはその場に立ち尽くすジャンヌに告げる。
「……知っていたのだな?彼の……ソウルくんの力のことを。ようやく合点がいったよ、彼のデタラメな戦歴について」
【火聖剣】と【召喚魔法】。その2つの力を持ってのこれまでの戦果だったということ。確かにそれならば色々なことに納得も説明もつくだろう。
「……あぁ。そうだとも。私は知っていた。知った上で彼を信用し、私の配下騎士としたんだ」
今更誤魔化すつもりなどない。だから正直にジャンヌは本当のことを語った。
これで、聖剣騎士団の信用は丸潰れだ。きっとそれはレオンの望むところだろう。
しかし、レオンは予想外なことを口にした。
「聖女ジャンヌ、お前がやったことは許し難いことだ。だが、今ならまだ取り返しがつく」
「……何?」
「彼を……シン・ソウルをこの場で斬れ!この場でお前の間違いの責任を取れ!!」
そうか……そう言うことか。
レオンの言葉の意味をソウルはすぐに理解できた。
俺は禁忌の魔法使い。聖女はそれを知らずに配下に加えていた。だがここでその正体がばれてしまった。
だから今ここでジャンヌがソウルを斬れば、彼女の尊厳を守ることができる。『騙されていた』『だからこの場でケジメをつけた』とすれば、ジャンヌの立場……面目を守ることができる。
最初から、覚悟の上だった。
だったら、俺がやるべき最後の使命は1つ。
「……やってくれ、ソフィア」
ソウルは全てを受け入れるように手を広げる。
「俺は、ここまででいい。だけど、あなたは違う。まだまだきっと、あなたが助けられる人々はたくさんいる。ここで終わっちゃいけないんだ。だから……一思いにやってくれ。ソフィアに殺されるってんなら、それは本望だよ」
そう言ってソウルはどこか晴れ晴れしたような、それでいて少し困ったような、そんな表情を浮かべた。
「……」
そんなソウルを見つめながら、レオンは闘技場を見渡す。
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
「聖女様!!その悪魔を討ち滅ぼしてください!!」
そこには醜悪に顔を歪めながら、ソウルの死を望む民衆の姿があった。
「……これが、現実か」
レオンはボソリと呟く。
彼は……見事だった。騎士として、死神を見事に打ち倒し、そしてその罪を彼女に向き合わせた。
この上なく、立派に使命を成し遂げたのだ。それでもなお、彼らはソウルの断罪を望む。
生まれ持ったその力だけで、彼を討つようにと、まくしたててくる。
人は……心ではないのか?やはり、生まれ持ったその力でしか評価されないと言うことなのか?
アレックス様……あなたの言葉通りにはならなかった。「人は心だ」と。しかし、人の世はそう綺麗事ではまかり通らないらしい。
どこか歯痒さを感じながらレオンは空を仰ぐ。
「すまない、シン・ソウルよ。今この国は聖女を失うわけにはいかん。民衆の想いに、我ら騎士は応えねばならん。だから、せめてこの私だけは認めよう。貴様が騎士として見事に役目を果たしたと言うことを」