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邂逅

 シェリーが目を開けると、そこはまるで深い森のようだった。


 空には青い空が広がり、木々の香りがシェリーの鼻腔をくすぐる。


 その光景はまるで、妖精の森。かつて彼女が暮らした故郷そのものだと感じた。


 シェリーが立つのは森の中に佇む円の形をした黄金の遺跡。そこには5つの椅子が並んでおりシェリーを取り囲むように立っていた。



「ここは……?」



 そう呟きながら、シェリーは辺りを見渡す。


 ボロボロだったはずの身体に痛みは無く、いつも通りの自分の体がそこにはある。


 一体自分はどうなってしまったのか……まさかあのまま死んでしまったのだろうか?


 そんなことを考えていると、ふとそこに誰かが立っているのが見える。


 水色の髪と美しい顔立ちの女性。彼女は優しく微笑みながらシェリーの方を見ていた。


 彼女を見たシェリーは自身の目を疑う。


「シェリー」


「お…かあ……さま……?」


 シェリーの声が思わず上ずる。信じられないものを見るように。まるでそこに死人を見るかのように、ただただ目の前の女性を……間違えるはずもない。


 これまでずっと、恋焦がれてきた存在だったのだから。



「ようやく……届きましたね。ごめんなさい……私達の選択が、あなたをこれほど苦しめたのだなんて……」



「え……と……」



 伝えたいことは積もるほどあったはずなのに。喜びも、嬉しさも。怒りも悲しみも……。ただ、彼女を目の前にした瞬間頭が真っ白になってしまい、何も言葉が出てこない。


 エリーは呆然と立ち尽くすシェリーに歩み寄ると、そっと彼女を抱きしめた。



「あぁ、こんなに……こんなに大きくなったのですね……!とても綺麗で、逞しく……本当に……本当に」



「……っ!」



 その瞬間。シェリーの感情が決壊する。



「お母様……お母様……!!」



 母の温もりを受け止めたシェリーは、たったそれだけで理解した。



 そうだ……何でこんな簡単なことに気づけなかったのだろう。あのお母様が……誰よりも優しくて暖かかったお母様が復讐なんて望むはずなどなかったのだと。



 それはきっと他のみんなも同じ。



 じゃあ私がこれまでやってきたことは、何だったんだ。あのハスターに踊らされて、私はただただ怒りのまま暴れ回り、そして多くの騎士を殺してきた。


 それも、大切な家族を……そして仲間の魂を道具にしてだ。



「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」



「謝らなくてもいい。シェリー」


 そんなシェリーに投げかけられるもう1つの声。



「ルーカスおじ様……!」



 振り返ると、そこには水色の髪をした美しい男性が……彼女の叔父ルーカスが立っていた。



「謝るのは僕の方だ。シェリーが地獄の道を歩くことになってしまったのは僕のせいだ。あの日君に全てを打ち明けていたのなら、きっと君は死神になんてならずに済んだんだ」



「だぁから言ったじゃろうが!結局シェリーちゃんが傷つくっての!!」



「本当に……本当にすまなかった、シェリー。もっと俺が強く止めていればよかったんだ」



 そんなルーカスの背後から現れる2人のエルフ。


「オーウェンお兄様!それに、イーサンおじ様まで!?」


 驚きの声を上げるシェリーを見ながら、エリーは3人に語りかけた。



「いえ。あの日あの決断をしたのは私とシナツ様です。だからお兄様達は悪くありません。全ては私のわがままのせいなのです」



 エリーはそっとシェリーの涙を拭う。



「ごめんなさい。私はただ、運命を受け入れられなかった……。使命を守ると言いながらも、あなたの未来を見れないことを受け入れられなかったのです。そして、あなたをこの手で守りたいと、そう思ってしまった。けれどその結果、結局あなたとシナツ様を苦しめ、それどころかユグドラシル様も、お兄様も……そしてイーサンとオーウェンまでも巻き込んでしまいました……。全て悪いのはこの私です」



 そう言ってエリーは俯く。


 すると、そんなエリーの肩に手を置いてルーカスが告げる。



「違う。恨むならこの僕を恨んでくれ、シェリー。極限状態にあった2人が正常な判断などできるわけがない。僕なら2人を止められたはずなんだ。だけど、できなかった。2人の覚悟を聞いて、止められないと諦めたんだ。だが、止めるべきだった。止めることができていたのなら君は罪を犯すことなどない道を歩くことができたはずだったんだ……。私のことを許してくれなどとは言わない。だがせめてエリーと……そしてシナツの想いだけは汲んでやってほしい」



「……っ」



 分かる。この2人の言葉が真実だと言うことが。ハスターのまやかしとは違う、2人の……大切な人の本当の言葉が今、ようやくシェリーの心に届いた。


 あぁ……そうだったんだ。


 みんな、復讐のために私にその命を捧げたわけじゃなかったんだ。


 ただ、私のために……私を守るためにその命をかけてくれたんだ。



「謝るのは……私の方です。お母様、おじ様」



 ギュッと母を抱きしめながらシェリーは語る。



「みんなは、決して悪くありません。悪いのは、私です。例えまやかしに惑わされていたとしても、大切なみんなのことを信じることができていれば、こうはならなかったはずなのです」



 そうだ。何故信じることができなかった?この世で自分が1番大切な者たちのことを。



 真実を告げてもらえなかった悲しみが、悔しさが。それを全て見えなくしてしまったんだ。


 そこを、ハスターにいいように利用された。だから、決してみんな悪くなどない。


 結局この道を選んだのは私なのだから……だから……!



「今まで……ごめんなさい……!私が、悪かった……!巻き込んでごめんなさい!ごめんなさ……い……!うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」



 これまでの負の感情を全て吐き出すようにシェリーは声をあげて泣き叫ぶ。


 苦しかった。悲しかった。復讐に生きることが辛かった。


 でも、違った。みんなはそんなこと望んでなんかいなかった。ただ私のことを愛してくれていた。


 それがこれ以上ないくらい嬉しくて、そしてそれと同じくらい悔しい。


 信じてあげられなかったから。そしてそんなみんなの想いを踏みにじって私は殺戮の限りを犯してきたから……。



 いくつもの感情が混じり合い、ぐちゃぐちゃになりながらシェリーはただその場で泣き続けるのだった。

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