真実
「……彼が、私に気づきを与えてくれた。全ての騎士が、悪ではないのではないかと……。これまで私が殺してきた騎士達の中にも、彼のように己の行いを悔いてきた者が、いたのではないかと」
「……だからジェイガンの後に犠牲者は出なかったのか」
ジェイガンの死の後、死神の犯行は止んだ。
何か理由があるとは思っていたが、そういう事だったのか。
「あぁ……分からなくなった……いや、本当は見ようとしていなかったのかもしれない。それを直面させられた。彼は……あの偉大な騎士は、その命を持ってして私にそれを気づかせてくれた」
シェリーはボーッと、ジェイガンの言葉を思い出しながら告げる。
「……ふっ。それでも、彼だって私の故郷を滅ぼした騎士の1人だった訳だが……」
「違います!」
そこに投げかけられるもう一つの声。
見ると、そこにはアルに支えられて立つケイラの姿があった。
「ジェイガン様は……違うのです……!私は…私は風の妖精シルフの一族。かつてあなたと同じ妖精樹の森に住んでいました!」
「えっ!?」
よ、妖精樹の森に!?一体どういうことだ!?
「やはり……そうだったか」
驚愕するソウルの横でシェリーは納得のいったような表情を浮かべる。
彼女の扱う【風霊】のマナ。それは本来風の妖精が持つ特殊なマナだ。かつて妖精の森の中で出会った妖精族が使っているのを見たことがある。
「ならば……何故お前は騎士団にいる……?故郷を滅ぼした騎士団に……全ての仇とも言えるその集団にだ」
そうだ。ならば何故故郷を焼き払った騎士団に所属しているのだ?
「……私は、救われたのです。かつての神聖騎士団団長、アレックス様と、ハミエルさん……そして…そして、ジェイガン様に!!」
「何……っ!?」
救われた……!?何を言っている!?
「ジェイガンが……救った……?何をバカな事を……デタラメだ……!」
「いいえ、本当です。ジェイガン様がかつて所属していた騎士団を追い出された理由。それは人生たった一度の『命令違反』でした。本来、彼の力は妖精達の逃げ道を塞ぐための土壁を展開し、皆殺しにするはずでした。でも…でもジェイガン様は妖精達を逃がし、追撃する騎士を塞ぐために魔法を展開したのです!」
「〜〜っ!なら……ならば何故、叔父さんは!長老は!!そしてオーウェンお兄様とイーサンおじ様は命を落とすことになった!?騎士達が命を奪ったからでは……」
「……彼らは、自らの意思で残ったんだよ。死神……いや、シェリーと言ったかな」
そこに投げかけられる覇気のないボソボソとした声。
「ハミエルさん!」
「やぁ、ソウル……全く、よくやってくれた。それにケイラ、ジェイガンのそのことは言うんじゃないと言っただろう?」
「で、でも……ジェイガン様の事を、誤解してほしくなくて……」
ケイラは少し困ったように目を逸らす。
「……ジェイガンは、あの事件のことを隠したかったんだよ。騎士ならば上官の命令は絶対。守らなくてはならない。彼はその禁忌を破った。それだけじゃない。曲がりなりにも【妖精樹の大火】で幾人の妖精達の命を奪ったことは事実だったからね。例え他の妖精たちを救ったとしても、その事実は変わらないしそれを言い訳にもしたくなかったんだ……全く、本当にドが着くほどの大真面目な騎士だったんだ」
亡くした友のことを思い出すようにハミエルは語る。
「そして、君の言うエルフの長老とその3人の戦士のことは僕も知っている。彼らは自らの意思であの場に残ったんだ。1人でも多くの命を救う為……そして、『何よりも大切な使命がある』と言って、レイオスの軍勢と最後の最後まで戦ったんだ」
「そ…んな……でも……でも私は確かに聞いたんだ……聞いてきたんだ……!虐殺の限りを尽くしてきた奴らに復讐をと……!だから……!」
「んなことねぇよ」
泣きそうになりながら叫ぶシェリーにソウルは告げる。
「俺には、分かるよ。同じ召喚術士だからかな……?お前の大切な人達の想いが……溢れるほど伝わってくる」
「……っ」
「もう、お前を惑わせる物はぶっ壊した。だから……だからもう一度、ちゃんと彼らと向き合ってくれよ。シェリー」
そう告げるソウルは一筋の涙を流していた。
なんだ……その涙は……?何なんだ?その顔は?
「向き合う……?お前は一体何を言っている!?私はずっと向き合ってきた!そして彼らはずっと復讐を望んでいた!!」
「違う、シェリー。お前はずっとそう言ってる。だけどさ……俺にはお前の召喚獣が、ずっとお前を守るように寄り添っている……そんな風にしか見えないんだよ」
「寄り……添う……?」
「きっと、お前がこれまで聞いてきた復讐の怨嗟は、まやかしだ。シナツの話じゃ、ハスターになにかされたんだろ?」
「や、奴のことを知っているのか?」
「あぁ。そして、ハスターの力は……多分【人の心を惑わす力】だ」
「……っ!?」
サルヴァンで聞いた話からの推測だ。だが、奴の力でサルヴァンの人々は狂い、そして壊れていってしまった。
きっと、シェリーも同じだったんだろう。
「今なら……分かるはずだよシェリー。お前の大切な人が何故召喚獣になる道を選んだのか……その想いが。今のお前になら、きっと……!」
『……リー』
ソウルの言葉に導かれる様に、シェリーの胸の奥から声が聞こえてくる。
『シェ……ー。シェリ……!』
誰……?一体この声はどこから……?
『やっと……やっと届きました。シェリー』
その瞬間。シェリーの意識が心の奥へと吸い込まれるのを感じた。




