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死神討伐戦20【甘い記憶】

 過去の記憶。


「えいっ……はぁっ……!」


 幼いシェリーは剣を振っていた。


 そんなシェリーの剣をシナツは1つ1つ受け止めていく。



「もぅ……もぅ、やめます!」



 しばらく撃ち合っていたシェリーだったが、やがて、いじけたように剣を投げ捨てるとぷいとそっぽを向いてしまった。



「おいおい……まだ初めてちょっとしかたってねぇだろ」



 まだ初めて10分も経っていないというのに拗ねるシェリーを少し呆れたようにシナツは見つめる。



「だって……昨日もいっぱい頑張ったのに、お父様に1擦りもしないのです。私がどれだけ頑張ってもお父様を超えることはできません」



「……はぁ」



 いつものようにどこか困ったような顔をしながら父はガシガシと頭をかいている。


 そんな父の仕草がシェリーは好きだった。なんとなく、可愛らしくて、父らしいと感じていた。



「お前は本当に色々凄い才能を持ってんのに、そのすぐ諦めちまう所はもったいねぇなぁ」



「そっ、それはお父様だってそうでしょう!?」


「あぁん?俺がいつ諦めが悪いと……」



「いっつもお母様と口論になったら、すぐ諦めて謝っていたじゃないですか!」



「うぐっ!?」



 まさかのシェリーの反撃にシナツの心にダメージが走る。



「だから、お父様にだけは言われたくないんです!」



 せめてもの仕返しに!とシェリーはぷんぷんと怒ってみた。


「……ったく」



 すると、シナツはポンポンとシェリーの小さな頭を優しく撫でる。



「んじゃあ、それは俺に似ちまったんだな。流石は俺の娘だよ。だったら、それを乗り越えさえすればお前は俺より強くなれるってことだ」



「っ!本当ですか!?」



「あぁ。間違いねぇよ」


 目をキラキラと輝かせるシェリーにシナツは笑いかける。


「でも……お父様よりも強いってことは世界で1番強くなるってことですよね」



「……いや、そういう訳でもねぇな」



 すると、シナツは何か含みを持たせたようなことを告げた。


「どうしてですか?ルーカスおじ様もオーウェンさんも、みんなお父様が1番強いって言ってましたよ?」


 シェリーは首を傾げながらシナツに問いかける。


 だって、誰も父には敵わない。いや、もはや攻撃を当てることすらできる人は見たことがなかった。


 そんな父が何故そんな自信のなさそうなことを告げるのだろう?



「……世の中にはいるんだよ。どんな逆境だろうと覆しちまうような、そんな強さを持った奴が……諦めることを、知らねぇバカな奴がな」



「その、バカな奴がなんだと言うのです?」



「どんな逆境でも諦めずに立ち上がり、そしてそれを跳ね除けちまう……俺だって持っていなかった強さだ。世界を変えるような強さを持った奴は、きっとそういう奴なんだと思うのさ」



「……うーん、よく分からないです」



「はっ。まぁ、いずれ分かる時が来るだろうさ。それより、こんな所で諦めてちゃあ、俺を超えることなんざできねぇぞ?どうする?」



 そう言ってニヤリとする父を見てシェリーににっこりと笑う。



「はい!まだまだやります!いつか必ずお父様を超えるぐらい強くなってお母様だけじゃない!里のみんなも、そしてお父様のことも守ってあげられるそんな強い戦士になってみせます!!」



「おぅ。期待してるぜ、シェリー」



 そしてまた森の中で剣を振り合う。


 淡い、過去の光景。


 甘い甘い。父との思い出だった。


ーーーーーーー


 何故、今こんなことを思い出したのだろう。


 あの頃の私は、もういない。


 むしろ、あの頃の記憶も誓いも。全てを切り捨てるための戦いだ。


 目の前の父の幻影を切り、あの召喚士を殺す。



 そして、エルフの里を滅ぼしたレイオスを殺す!



 そう、殺すんだ。



 殺す。殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!



 ドッとシェリーの胸から黒いマナがあふれる。それはケリュネイアを包み込み、その身体を黒に染め上げる。



「なななな、何ですあれは!?」



 その光景を見ていたレオンの付き人は叫ぶ。



「レオン騎士団長、早く!あの化け物達を殺しましょう!!このままでは取り返しのつかないことになりかねない!!」



 あんな得体の知れない化け物を好きにさせておけば、何が起こるか分からない。一刻も早くあれを討伐しなければ……!


 しかし、レオンは首を横に振った。



「……まだ、待て」



「待てません!!何故待たねばならないのです!?いつでも突入できるというのに!!」



「分からんか?」



 そう言ってレオンは闘技場内を見渡す。



 誰もがその光景に釘付けだった。



 2人の戦士の生き様と生き様のぶつかり合いに、皆が魅了されていた。


 それに、レオンもこの戦いを見届けたかった。



 この後下さねばならぬ、非情な判断のためにも。



「……我々が突入するのは、あの決着がつくのを見届けてからだ」



「し、しかしそれでは巻き添えが……!」



「安心しろ。ここには私がいる」



 そう言ってレオンは聖剣を地面に突き立てる。


「私がいる限り、ここにいる者達に傷1つ負わせはせん!必ずだ!!」



 この国の騎士団長がその矜持をかけて宣言した。

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