死神討伐戦18【胸の奥から】
闘技場内が激しく揺れる。
「……ソウル」
フィールドへと続く通路の中。アルは倒れた聖剣騎士団のみんなに応急処置をしていた。
ぱらぱらと天井からは砂埃が落ちてくるのを感じながらアルはぐっと唇を噛んだ。
どうして、私はなにもできないのだろう。その歯痒さを誤魔化すように首を振る。
「……ぐ」
「……っ、ジャンヌ様!」
すると、ジャンヌがそっと瞳を開け辺りを見渡す。
「こ…こは……?死神は……どうなった……?」
「その…今ソウルが……戦っておりますわ」
「何……?」
アルの言葉を聞いたジャンヌはフラリと立ち上がる。
「い、いけません!まだ動ける状態では……」
「いや……行かなくては……!私が……私がやらなければならないんだ……!」
あの死神を……私がやらなくて誰がやるというのだ!
必ず奴を打ち倒し、皆の不安を取り除く。それが聖女として私が成さねばならぬこと。
やるべきことを、やらねばならないんだ!!
「……!」
制止するアルを押し除け、闘技場に出たジャンヌは見た。
ーーーーーーー
灼熱の熱波にシェリは宙を舞う。だが、そこに飛び込んでくる1つの影があった。
「キュゥィィィ!!」
ケルピーはシェリーのマントを咥え、彼女を受け止めると、その身体で熱波を受け止める。
「お母……様っ!」
ビシィッ
「う…っぐ……!?」
攻撃を放ったソウルの身体も軋む。
闘技場全体を飲み込むほどの一撃。その反動も並みではない。腕がじんじんと痛み、熱波がソウルの身をも焼き焦がす。
「こ、これは……あんまり乱用できねぇな……」
自身の身体の痛みを感じながらソウルはボソリと呟く。
威力は絶大だが、こちらの負荷もデカすぎだ。
「しぇ、シェリーは……?」
爆炎の中からシェリーの姿を探す。見ると、そこにはシェリーを庇うように立つケルピーの姿があった。
それはまるで、娘を身を挺して庇うような、そんな力強い意志があるように感じられた。
「……っ」
『……ねぇ。ソウル、やっぱり……』
シェリーを狙い撃とうとしていたガストはそれを見て攻撃をやめ、ソウルに語りかけてくる。
「……あぁ。やっぱり、そうだよな」
ガストに応えるようにソウルも頷く。
シェリーは【隕石陥落】でダメージを負い、隙だらけだ。だが、ここで攻撃を仕掛けることはどうしてもソウルとガストには出来なかった。
「なぁ、シェリー」
ソウルはケルピーの影でうずくまるシェリーに問いかけた。
「お前の大切な人が復讐を望んでると……本気で思ってるのか?」
黙ったまま応えないシェリーにソウルはなおも続ける。
「きっと、みんなは復讐なんか望んでない!!分かるだろ……分かってんだろ!?こんなことに何の意味もないんだって!!もう止めろよ、こんな虚しい戦いなんて……誰も幸せになんかなりはしない!!ここで終わらせよう!」
きっと……きっと彼らの本心は……!
「黙れ……!」
しかし、ソウルの言葉は届かない。
どす黒いマナを放出させながらシェリーは再び立ち上がる。その目は復讐で怒りに染まり、その声は呪詛のような不気味さを醸し出す。
「貴様に……何が分かる……!みんなが復讐を望んでいない……!?望んでいるんだ!みんながそう私の心に訴えかけてくるんだ!!私だって……私だって、もう戦いたくなんてない!!だが、私の大切なみんなが復讐を望んでいるのだから……私の力のせいで死んでしまったみんなが望んでいるのだから!!止まれるはずがないだろう!?!?」
死神シェリーの心の叫び。
本当は、戦いたくなんかない。
だけど、止まれない。止まらせてくれない。召喚獣となった者達の無念の……そして怒りの声がシェリーを突き動かしてきたのだ。
だから、シェリーは死神だ。
無念の想いを持って散っていったエルフ達の復讐を晴らす死神。
そう叫び散らすシェリーの姿は、とても痛々しい。そして、彼女の胸の真ん中から溢れてくるその黒いマナにソウルは違和感を覚えた。
そんなシェリーの姿を見て、彼女の召喚獣ケルピーが何かを訴えかけてくるように、ソウルの方を見た。
「……っ。」
そうか……やっぱり、そうなのか!
「だったら……やってやるさ」
再び黒剣を構えながらソウルはシェリーに言い放つ。
「だったら、俺が終わらせてやる……!お前を止めてみせる!!ここで決着をつけるぞ、シェリー!!」




