間章【最強の召喚術士】
病院を飛び出したソウルは夜の街を見上げる。
病院の近くにあるイーリスト闘技場は黒煙と閃光が光っていた。
「あそこだな……!」
あまり状況は良くないのだろうということはオリビアの反応で薄々気が付いている。一刻も早くあそこに向かわなくてはならない。
『よし、ソウル。分かってるな?』
すると、脳裏にシナツの声が響く。
「あぁ、分かってるよ。バカ師匠」
ソウルはチャキリと黒剣を構えると、意識を集中させる。すると、身体の……いや、心の奥からジワリとマナが溢れてくるのを感じた。
やれることはやった。ここはもう、ぶっつけ本番になるかもしれない。
だけど、きっとやれる。いや、絶対にやらなきゃならねぇんだ!
「……頼むぜシナツ!力を貸してくれ!」
『上等だ!行くぞソウル!!』
互いの心が共鳴し、一気にマナが展開する。
それは疾風となってソウルの身体を包み込むと、やがてソウルの握る黒剣へと集約されていく。
……やれる。
それはソウルが思ったのか、それともシナツだったのか。はたまた、両者が同時に感じたのかもしれない。
それがソウルの新たな力を呼び起こす引き金となる。
目覚めたデバイスは【武装召喚】。込めるマナは【風神】のマナ。
「【風神】のマナを【武装召喚】!【風切・虎徹」!!!」
【風神】の力が黒剣に宿り、その刀身に疾風が渦巻く。同時にソウルの身体を浮遊感が襲い、フワリと身体が軽くなるのを感じた。
「……あれ?」
ふとソウルは首を傾げる。
「シェリーの【武装召喚】は武器の形そのものが変わってたのに……剣の形は変わらねぇんだな」
剣にマナが宿るのを感じるので、恐らく【武装召喚】自体は上手くいっているはずなのだが。
『あぁ。それはシェリーの方が特別なんだよ』
ソウルの疑問にシナツが答える。
『あいつが持つ刀は【神切り】。初代【獣の召喚術士】セイリアが使ったユグドラシルの琥珀から作られた刀でな、マナを受けて形を変えるという特性がある。だからそれぞれの召喚獣に合わせた武器に形を変えるんだよ』
「うげ……めっちゃ強そうじゃねぇか」
シナツから与えられる情報にソウルは苦笑いするしかない。
『それだけ聞けばな。だが反面武装召喚の度に武器が変わるんだ。お前、槍とか弓とか使いこなせるか?』
「あー……なるほどな」
あらゆる武器を使いこなせる凄腕なら【神切り】の力は強力無比なものとなる。一方で、ソウルのように剣しか使えないのであれば武装召喚の度に武器が変わると戦闘の本領を発揮できなくなる。
だったら俺はこっちの方があっているのかもしれないな。
『よし、ソウル。一応確認しておくぞ』
準備が整ったところでシナツが再び声をかけてくる。
『はっきり言うが、シェリーは強い。恐らく歴代の【獣の召喚術士】の中で……いや、下手をすれば全ての召喚術士の中でも最強だ。この目であいつの成長を見てきた俺が言うんだ。間違いねぇ』
「……っ」
シナツの言葉にソウルはゴクリと固唾を飲む。
『だが、お前にあってシェリーに無いものだってある。だから必ず勝てる方法はある』
「……あぁ、分かってるさ」
ぐっと足を踏み込むと、ソウルはそのまま跳躍。それに合わせてゴッと加速して闘技場の上へと飛行する。
「やってみせるよ!例え相手が最強だとしても何だとしても!諦めない心が俺の武器だから!!必ず成し遂げて見せる!!」
そのまま一息に闘技場上空へと飛んだソウルは闘技場を見下ろす。そこには闘技場で1人戦う銀髪の少女の姿がある。
シーナ……!
そして急転直下。
「全てを破壊する炎の神!その怒りをここに顕現させろ!【炎神】のマナ!【バステオス】!!!」
展開する赤い魔法陣。その中から炎の召喚獣が飛び出してくる。
「頼むぜレグルス!!【メテオブレイク】!!」
『当然だ!行くぞソウルよ!!』
バステオスはまるで隕石のように落下し、シェリーに向けて燃える拳を叩き込んだ。