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死神討伐戦13【戦う意味】

 ジャンヌが血飛沫を上げる。


 そして、そのまま重力に逆らうことなく膝をつき倒れた。



「……え?」



 熱狂的に盛り上がっていた闘技場がシン……と静寂に包まれる。


 彼女は騎士の象徴。神聖なるその存在。勝利の女神。完全無欠の聖人のはず。


 その聖女様が……負けた?



「お、おい……嘘だろ……!?」


「じゃ、ジャンヌ様が負けるなんてこと……ありえねぇよ!?この国で1番強いんだろ!?」


「嘘だ!立って……立ってよジャンヌ様!」


「あなたが勝てないなら、誰があんな化け物に勝てるって言うんですか!?」



 民から発せられる悲嘆の嵐。



 聖女を破った禁忌の術を扱う化け物に、街の人々に恐怖が広がる。



「…………」



 1人残されたシーナは朧村正を構えながら言葉を失っていた。


 ジャンヌ様が、負けた。


 これまで、一度だって敵わなかったジャンヌ様でさえ勝てなかった。


 それはつまり、この戦い……そしてシーナの敗北を意味した。



 ジャンヌの足元にだって及ばないシーナでは、目の前の死神に勝てるはずがないことは道理だ。



 だけど、そうだとしても……。



「……っ!アル!!」


「は、はい!?」


 シーナは目の前の死神に向かって飛び込みながらアルの名を呼ぶ。



「みんなをここから逃して!!ここは私が命に代えてでも守り抜く!!だから……だから、その隙にみんなを逃して!!」



「や、やっております!けど……!」



 すでにジャンヌとハミエル以外の皆を場外へと運び終えていたアルは歯軋りをする。


 ハミエルとジャンヌの側には死神と炎獣。


 そんな化け物を躱して2人を助け出すのは至難の技。



「私がうまくやるから!!だからお願い!!」



 そう言ってシーナは死神に向けて飛び込む。



 ギィン!



 飛び込んでくるシーナの一撃を受け止めながら死神は問いかけた。


「……何故、戦うことをやめない?」


 聖女が敗れた今、このジャガーノートの負けは確実。ここで戦ったとしても何の意味もないだろう。


 なのに、何故このジャガーノートは戦いをやめない?


 逃げて、力を蓄えて。お前がいつか私を倒せばいいじゃないか。


 ここで死んで聖女を生かしたとして、お前に何の利点があるというのか?



「だってジャンヌ様はこの国の希望だから!」



 刀をめちゃくちゃに振り回しながらシーナは叫ぶ。



「私とは違う!この国の未来を背負って生きていける人だから!だから命に代えても私が助けなきゃいけない!!」


 シーナの想いを乗せた剣撃は死神には届かない。


 1つ1つを確かに叩き落としていく。



「そんなことはない。聖女とてただの女。私に負ける姿を見て分かっただろう?そんなものはまやかしだと。この世に絶対なんてない。あるのは強いものが弱いものを下し、その想いを叶える。ただそれだけだ」



「そうかも知れない……!昔の私だったらそう思っていたかもしれない!!でも……!」



 死神の言葉を受けながら、それでもシーナは言葉を止めない。その想いは止められない。



「【強い力】なんて、ただの力でしかない!そんなものより強いものの存在を私は知ってる!!ジャンヌ様はそれを持ってる!私にはないそれを!だから守るの!!世界を明るくしてくれる力を持ったジャンヌ様を……そして……そしてソウルを!!だから私はここで折れない!!ソウルの所に行かせないためにあなたと戦うの!この命に代えてでも!!」



「……」



 目の前のジャガーノートの告げる言葉の意味が分からない。分からないが、それでも彼女の振るう刀と言葉に確かな重みを感じた。



 本気、なのだろう。



「……だとしても、私はここで負けられない。なさねばならぬことをなさねばならない。そのための障害となるのならば、お前もここで死ね!!」



 死神のリュカイオンの速度が上がる。同時にヴァナラもシーナに向けて飛び込んできた。



「させ……るかぁぁぁあ!!!」



 それでもなお、シーナは朧村正を振る。


 戦うんだ。自分の命よりも大切なものを守るために!


 撃ち出されるヴァナラの爪を避けて避けて……ただひたすらに避けて。


 死神の振るう大剣を弾いて、躱して。


 完全に躱しきれない攻撃が徐々にシーナの身体と体力を削り取っていく。


 それでも、心は折らせない。この想いは、絶対に負けない!


 シーナの想いに応えるように、朧村正の熱量も増していく。そう、想いの強さが聖剣の力の源。


 なら、この焼き焦がれそうな熱い想いと共に戦いきってみせる!シーナの全て解放するようにシーナはマナを噴出させながら暴れ回った。


 その豪炎は闘技場内を吹き荒れその温度を上げていく。



「し、シーナ……!」



 闘技場の中で暴れ回るシーナの熱に充てられてアルは思わず顔を覆う。



 気づいていないのですか!?あなた……あなたの炎……!!




「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




 暴れ狂うシーナの朧村正の刀身とその炎が蒼く変化を遂げる。


 それはまるで闇夜に浮かぶ朧月のようだった。

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