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本当の気持ち

 シーナは崩落していく出口を見守っていた。


 これでいい。後は少しでも時間を稼ぐだけだ。そしてシーナは独り、巨人に向き直る。


「あぁ.......他の3人は残念ですが.......いいでしょう、後で追うことにします」


「.......私がそいつを倒せばいいだけの話でしょ?」


 そう強がりながらシーナは朧村正を構える。


「ゴオオオオオオオオオオ!!」


 対する巨人も剣を構えてこちらを睨んでいた。


「.......遅い、【焔】!」


 シーナは巨人に向けて熱線を放つ。今のシーナの最大火力の魔法。これでどれだけダメージを与えることができるか.......。


 ズシィィィッ


 巨人に【焔】が炸裂した。しかし、何か様子がおかしい。


 【焔】を受けた巨人の岩石のような体。その隙間が赤く光るとそこに炎が吸い込まれていく。


「.......っ、【焔】を吸収してる!?」


「あはははは!この巨人の名前は【スルト】!かつて【覇王】と共にこの世界を荒らし回った化け物の内の一体です!こいつは炎を無効化し吸収する能力を持っています!!」


 アイリスは勝ち誇ったように叫ぶ。それに呼応するようにスルトの発する炎がさらに燃え盛った。


「姉さんを殺すため、全ての準備は整ったと言ったでしょう!まさかこいつを使うほど追い詰められるとは思いませんでしたが.......これで、確実に殺せます!」


 腹を抱えながらアイリスは高笑いしている。


「.......だったら!」


 シーナは朧村正を構えてスルトに突っ込む。


「ゴオオァァァ!!」


 対するスルトは剣でシーナに斬りかかる。大ぶりだが、その一撃は鋭くシーナを的確に狙う。


 しかし、シーナの速さがわずかに上回った。


 シーナは横なぎの一撃を跳躍して回避し、その勢いのままスルトへ接近。シーナ自身を縦に回転してさらに勢いをつけて【朧村正】を叩き込んだ。


【大車輪】


 シーナの魔法ではない剣技。スルトの岩石のような皮膚の隙間を狙う。


 ブシュウウウッ!!


 朧村正はスルトへ深く突き刺さり、スルトからは鮮血ではなくマナが飛び散った。


 刺さった!シーナは手応えを感じる。


「.......っ!?」


 しかし朧村正はそのまま抜けなくなった。スルトの強靭な筋肉に阻まれ、ビクとも動かない。


「.......しまっ」


 シーナは一瞬動きが止まる。スルトはその隙を見逃さなかった。


「ガァァァァアアア!!」


 スルトの右手がシーナを掴む。


「.......あぐっ!!」


 シーナは万力のような馬鹿力でスルトに身体ごと握りつぶされた。


 身体中から骨が軋む音が聞こえる。常人なら意識を失うような激痛も【ジャガーノート】の強靭な生命力と精神力はシーナに気絶することを許さない。痛みの1つ1つをしっかりと身体に刻み込んでくる。


「あっ、ははははは!惨めですねぇ姉さん!ここで1人虚しく巨人に抱かれて死になさい!」


 アイリスはスルトにマナを送り、スルトのシーナを握る力が更に増強される。


「.......か...は」


 い、息が...でき.......ない。口から血が吹き出した。


 ここまでか、シーナは脱力する。


 決して、いい人生ではなかった。仮にも私は1人の少女の前で父親を殺した殺人者だ。その少女の復讐で死ぬのであれば、それは運命だったのだろう。


 思い残すことは、何も.......ない。





 はずだった。


 シーナの脳裏に1人の青年の顔が浮かぶ。


 青年の困った顔、頭を抱えて考え込む顔、睨む私に怯える顔、裸の私を見て真っ赤になる顔.......。そして...優しい笑顔、「シーナ」と自分を呼ぶ優しい声。


 それらが津波のようにシーナの感情を揺さぶる。


「.......だ」


「はぁ?」


「い...やだ.......」


 シーナの瞳に涙が浮かぶ。


「.......まだ...まだ、死にたくないっ」


 そうだ、まだシーナはソウルに向き合うことができていない。まだ私は彼と話をしてみたい。


 もしかすると...彼の中に自分の居場所があるのかもしれない。


 命の危機になって初めて自分の気持ちが理解できた。そうだ、私はまだソウルと一緒にいたい。あの笑顔をもっと見ていたい。そして



 私のことを、受け入れてほしい。ジャガーノートとしての自分じゃない。人間としてのシーナを。



「あっははは!死ぬんですよ!あなたは、誰にも見守られることなく1人惨めに死ぬんです!」


 それを聞いたアイリスはゲラゲラと笑いだした。


「あなたは、【ジャガーノート】。化け物なんです!あなたのことなど誰も見てない!あの3人だって誰でもよかっただけです!あなたを選んだわけじゃない!選んでいたとしても、それは【ジャガーノート】としての姉さんだけ、姉さんを1人の人間として見る人間なんて、この世にいるわけないじゃないですか!」


「.......っ!」


 シーナはアイリスの言葉を否定できない。


 自信がなかった。ソウルは確かに自分を見捨てなかった。


 それでも、彼は本当の私を見てくれているのか。【ジャガーノート】としての私しか、見ていないのでは無いか。シーナはその1歩を踏み出すことが怖いのだ。


 もし、拒絶されてしまったら?私のこの気持ちはどうなってしまう?


 これまでも、シーナが心を許せるかもしれないと思った人間は少しいた。しかし、彼らは全て大事なところでシーナのことを見捨てた。道具として切り捨てた。だから心を閉ざした。


 もうあんな思いはしたくない。それがずっとシーナの心を支配している。


「はっきり言ってあげましょう」


 そんなシーナに追い打ちをかけるようにアイリスは告げた。



「姉さん、あなたはずっと独りですよ」



「.......っ」


 くやしい。くやしくて涙が止まらない。どうして私は生まれてきてしまったのか。こんな自分が.......大嫌いだ。それなのに、死にたくない。私は.......本当は私は.......。


「.......誰かと...一緒にいたい」


 その時だった。


 ドオオオオオン!!


 シーナが見上げる天井が崩れる。そしてそこから1人の青年が降ってきた。


「ああああああああああ!!!」


 青年は咆哮しながら剣を構える。琥珀色の瞳は的確にシーナを掴む巨人の腕を捉えていた。


「【劣化・風迅】!!」


 青年は落下の勢いに回転を加え、師匠の剣術を真似た一撃を叩き込んだ。

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